不相応な幸せ
心臓が、爆発するんじゃないかと思うくらい、早く打った。
こんな感情初めてだ。
付き合い始めて初めての伊月さんの誕生日。
伊月さんちで誕生日のお祝い。
正直、黒子にメールで言われるまで気づかなかったし、平日の今日、まさか秀徳まで来るなんて思わなかった。
「高尾、祝ってくれるんだろ?」
挑みかけるように、何かを決意したように。
言った伊月さん。
この時点でおかしいことに気づくべきだった。
「…なんも、用意できなかったんすけど…」
様子を伺うように伊月さんを見ると、一つ年上の俺の恋人は、いいよ、別に。って年上の顔して笑った。
コンビニで申し訳程度にケーキを買って、伊月さんの家に向かう帰路につくと、途端に伊月さんの口数が減った。
その様子に気づきながら、気づかないふりをしながら伊月さんの前を歩いていると、
くん、と、左手の小指を握られた。
握られた、というよりは、ひっかけるに近い。力なんてまるでこもっていなかった。
振り返ると、伊月さんが真っ赤な顔をして、立ち止まっていた。
「…伊月さん?」
声をかけると肩がびくりと震えて、それから恐る恐ると言った感じで、俺を捉えた。
俺を捉えた鷲色の瞳は涙目で、でも、そこに決意の色。
「…高尾、」
薄い唇が、震える声で俺の名を呼ぶ。
「たかお、………シないか」
「…え?」
思わず聞き返していた。
聞き違いかと思った。
「だから……セックス、しないか」
相変わらず視線は交わらない。
けれど、真っ赤になった恋人が堪らなく愛おしくて。
「いいんですか、伊月さん。…俺、止まりませんよ」
「…」
抱きしめると、こくんと一つ、肯定が返ってきた。
「……誕生日プレゼントは、高尾がいい…」
「…っ!」
小さく、小さく、
呟かれた言葉に、もっと堪らない気持ちになって抱き締める力を強くした。
伊月さんちのベッドの上。
伊月さんと俺は、同じようにシャツを脱いで上半身を外気に晒していた。
一応了解の上だ。
ホントは俺が脱がせたかったけど、伊月さんはがんとして譲らなかった。
組み敷いた伊月さんの身体はバスケット選手には細く、でも、その容姿に似合ってしなやかだ。
綺麗にバランスの取れた身体に、思わず手が伸びる、
その触れる直前で手を止めた。
「伊月さん…いいんですよね」
「…いいってば。…高尾…」
訊くと伊月さんは不機嫌そうに俺に腕を伸ばしてきた。
伊月さんの腕が、俺の背中に回る。
「たかお、はやく」
心臓が早鐘を打つ。
伊月さんに触れたくて、大切にしたくて。
「…っ、知らないですからね」
今まで大切にしてきた。
でも、下心がないわけがない。思春期真っ只中で我慢に我慢を重ねて。
なのにこんな風に誘われてしまったら。
「ん…っ」
そっと、伊月さんの首筋に手を添える。ぴくん、と伊月さんの身体が小さく跳ねた。
そのまま、胸の中心に手を当てると、俺以上か、同じ位のどきどきが伝わる。
よかった、緊張してるのは俺だけじゃなかった。
それだけで幸せになれる自分にびっくりだ。
「伊月さん、」
「ん…たかお」
目を合わせ、ゆっくりとお互いに顔を近づける。
俺は伊月さんの首裏に手を添えて、それをささえた。
やがて、唇が重なる。
慈しむように、愛しむように。
優しく触れて、何度も何度も触れては離すを繰り返す。じれて離す度に俺の唇を追ってくる伊月さんが愛おしい。
やがて、触れあわせるだけのキスに飽きて、深いキスをする。
伊月さんの唇を圧し割り、口の中を舐めまわし、伊月さんの舌を捉える。
初めはおずおずと、少し慣れてくると俺の舌に絡み付いてくる。伊月さんえろい。
唇を離すと細い銀糸が俺と伊月さんの唇を繋ぎ、目があった伊月さんの頬が一気に赤みを増した。
幸せなんだよ、
伊月さんの誕生日にこんなに幸せになっていいのかな、
そう呟いた俺に、伊月さんがそう言った。
俺も、すっごい幸せなんだ、
あとがき
はい、諦めました。
一応伊月誕で書いていましたが、結局高尾誕も含む、ということで。
裏苦手です(・ω・`)