初雪






外が暗い。


がたん、ごとんと鳴る電車の中で、小堀は思った。

冬場の18時を過ぎた電車の中から見る夜空はただただ暗闇を携えている。
たまに見える街の明かりも、外の景色を照らすには心許ない。

「ん…、」

隣で彼の肩を枕に眠る森山が、小さなうなり声をあげる。

…今日は疲れたな。

東京からの帰り道。
この時間だと、休日のこの路線は極めて人気が少ない。
彼らが乗る車両には、彼ら以外に人はいなかった。

時たま留まる駅からも、
人が乗ってくる気配はない。

小堀は読んでいた本を閉じて、投げ出された森山の手に指を絡めた。
今日買った新刊だが、なんとなく、森山に触れていたかった。

がたん、ごとん

電車がリズミカルに振動を伝える。
まるで揺りかごのようだ。

広い車内と自分たち以外の生き物がいないその情景に、
夢のようだと嘆息する。

こうして、森山とふたり、
ここに並んでいることも、
森山に想いが通じて、
こうして、手を繋いでいることも。

まるで途方もない夢のようだ。

ふたりではしゃいだ楽しい時間が過ぎ去って、
いつもの日々へと帰る。
或いは、その非現実的な今日がそうさせているのかも知れない。

地元に帰ってしまえば、いつものふたりに戻るのだ。

いつものふたりが嫌な訳ではないと、小堀は困惑する。

唯…唯、
なんとなく、寂しいのだ。

この時間が、
今日が夢のようで。

「ん…こぼ、り……」

彼の隣で、また森山が唸った。

小堀はその様子に苦笑して、
誰もいないことをいいことに、起こさないよう顎を持ち上げ、ちゅ、と小さな音を起てて、軽くキスをする。

未だ彼の名を呟いたものの目覚める兆しはない。
夢の中で彼にでも会ったのだろうか。

森山、

小堀はまるで返事をするかの様に心の中で彼を呼んだ。

森山、今どんな夢を見てるんだ?

自意識過剰だろうか幸せそうに眠る彼に、そんなことを想う。
そうすれば、彼と絡めていた指に微かに力が篭もり、きゅ、と手のひらを握り返す。

時たま開くドアのせいで、薄ら寒い電車の中、2人寄り添えば充分暖かく、起きていた小堀でさえも眠気を誘われる。

「ん…」

小堀の肩を枕に眠る、森山の頭の方に彼も頭を寄せた。




初雪が降る。




「小堀、小堀…」
「ん…森山?」
森山に肩を揺すられ、彼は目を覚ました。
「もう着くぞ」
周りを見てみれば、電車は既にホームへと滑り込んでいる。
電車のドアが開くと冷たい空気と一緒に白いものが入り込んで。
「ぅ…わ…!」
「………初雪か」
真っ暗な闇の中、白い雪がちらちらと。
「小堀」
「ん」
小堀は彼の名前を呼んだ森山の左手を取り右ポケットに自分の手と一緒に突っ込んだ。
「寒いなー」
「な」
寒い寒いと繰り返す彼らの足取りはゆっくりと。





あとがき

MerryChristmas!
はい、まさかの事態を引き起こしました。日月中心サイトでクリスマス日月を書かないというね。
申し訳ありません






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