愛鍵
「…寒い、」
「あー…最近めっきり冷え込んだもんな」
伊月がふるりと身体を震わせる。
季節は夏から秋へと変わっていくその中間。
ちょうど、空気が冷たくなる、そんな季節。
そろそろ外で待ち合わせるのは辛いかもしれない。
隣で寒そうに学ランの前を閉める伊月を見ながら思った。
もっと近ければ、と思わなくもない。
伊月の最寄り駅の近くの公園であるここは、半ば強引に、俺も行くと言って聞かない伊月に、精一杯の譲歩。
だいたい、伊月は自分の容姿をわかってないんだ。
恋愛下手な俺が見とれる位綺麗な容姿をしてるくせに、自分が襲われる心配をしない。
その鈍感さは、心配で、同時に愛おしくて。
俺がもう少し近くに住んでいれば、って思って、伊月の行動圏内で大学を探した。
実力で、とも思ったが、推薦がきく俺は早めに入学が決まって、来年から都民の仲間入り。
一人暮らしをするつもりで借りた知り合いのアパートの合い鍵を渡すと伊月は一瞬顔を真っ赤に染めて、
ごめんなさいって言った。
あなたにばっかり負担かけてるって。
神奈川に探してたのに、先超されたって。
入り浸りますよ、って悪戯っけたっぷりにいう瞳は微かに涙で濡れていた。
空気も乾いてきてんのか?
「笠松さん」
寒くて首を縮めて俺を見上げるその目が妙にあざとい。
「手、あったかいですね」
「…っ、つ、めてぇな…」
「俺、冷え性なんです」
ふわっと笑った伊月はいちいち可愛い。
俺の完全に無防備だった手を両手で包んで、ねぇ、ってすり寄る。
おいおい、猫かよ。
「笠松さん。そっち、行っていいですか」
寒い、と添えられてまぁ別にいいけど、と流すと、伊月は立ち上がった。
なんだ、すり寄るわけじゃなかったのか。
伊月の突然の行動を視線で追うことに徹していると、伊月は俺の前に立った。
「、な…っ」
「あは、あったかいですね」
次の瞬間に伊月は俺の股の間に、俺に背中を預けるみたいにして座った。
思わず身体が固まる。
付き合いは長くなったとはいえ、いまだに恋人の距離感に戸惑う。
「おまっ、伊月!」
「笠松さんいいっていったじゃないですか」
「…っ、」
吐き捨てるみたいに言った伊月に何か言葉を返してやろうと思考を巡らせれば、目の前に真っ赤に染まった耳が見えて、
なんかもう、どうでもよくなった。
「お前さ…、反則。」
観念して伊月のバスケ選手にしては細い腰に腕を回して、首筋に額を擦り付けると、安心したみたいにもう少し俺に体重が乗った。
なにがですか、急に。
不満そうな声と共に、また少し、かさむ身の重み。
ああもう、可愛いな。
「…んっ、ちょっと…
顔を埋めた首筋に小さな所有印。
来年から始まるであろう甘い日々に想いを馳せる。
よろしくな。
それは幸せな未来。
あとがき
初笠月\(^O^)/
ちょwwまだ原稿できてないのですがww
即興で書いたにしては気に入っています。
そういえばそろそろ伊月の誕生日ですね。pixivの荒ぶりを期待しています。(´ω`*)
うちの伊月は誠凛と海常のキャプテンにはデレデレの甘えたさんです。がんばってるもん。
というわけで、甘い笠月が読みたいという票が思いの外入ったので途中までできていた笠月を完成させました。
読んでくださりありがとうございました。