ココア
笠松さん、と伊月が啼いた。
情事後、意識を失ってしまった伊月の身体を整えて寒そうな肩に布団をかける。
ん、とひとつ呻いて伊月はまた規則正しい寝息を漏らす。
笠松は、伊月がいつ起きてもいいようにと上半身を裸のまま、ジーンズに脚を通して台所へと向かった。だいぶ啼かせてしまった伊月の喉はきっと起きた頃には声が掠れているだろう。
水か麦茶、と。今日は少し肌寒いから目が覚めたらココアを淹れてやろうか。
笠松さん、笠松さんと彼を呼ぶ声が愛おしい。彼に抱きつくように絡まる、伸ばされた腕が愛おしい。夢中になって、すがりついて、涙を浮かべた黒い瞳もシーツに広がる指通りのいい髪も、全て。
自室へと向かう階段を上りながら、笠松はふっと頬を綻ばせた。
病的な程に夢中だな。
幸せだ、と思う。
彼を知ったことで新しい自分を知った。
怖い、と思う。
ここから自分はどう変わっていくのか未来が。
それでも好きだから救いようがないんだけど。
部屋に入ると伊月が身体を起こしていた。
伊月、起きたのか。そう訊くと前を向いたままぼーっとしていた伊月が緩慢な動きで俺を見た。
テーブルに持ってきたグラスを置く。
「ん?」
ジーパンの余りをちょいちょいと引っ張る感覚に伊月を振り返ると、
ふにゃぁと微かに赤い顔で笠松さん、と啼いた。
笠松さん、好き。と啼いた。
一気に顔が熱くなった。
伊月を押し倒すように、その身体と一緒にベッドへと雪崩れ込む。
うわっと小さな悲鳴が伊月から発せられた。
明日に障るからこれ以上はできない。けれどこうやってベッドの中でくっついているだけでもいいだろう。
笠松も布団に潜り込み、伊月の頬を撫でる。それに気持ちよさげに伊月がすり寄る。猫みたいだ。
伊月、と呼ぶと、髪がシーツを滑る。しっとりとした表情の伊月が笠松を見上げる。
笠松さん、とまた啼いた。
笠松も伊月、と呼んで。
難しい姿勢ではあったが顔を近づける。
そうすると、伊月は自然と目を閉じた。
唇に唇を乗せる。
触れるだけのキスで顔を離し、互いに目を合わせる。
ふっと綻んだ表情の伊月に笠松は苦笑する。ああもう可愛いなぁ、と。幸せだなぁと。
額をくっつけて笑う。
伊月の左手を笠松が右手で包み込む。
空いた手で伊月の輪郭をなぞり、髪をいじればくすぐったい、とまた笑う。
そうだ、ココアいるか。と問えば、満面の笑顔でいらない、と言われた。
もう少しいちゃいちゃしてましょう、と笑った。
あとがき
意味もなく甘いのを書きたくなっただけ。
そんで、お世話になっているフォロワーさんに贈呈。