バレンタインデーキッス



※注意です。宮地さんの口の悪さはログアウトしています。伊月のダジャレもログアウトしてます





俺だって忙しい。忙しいんだ。

でもその合間を縫って週にいっかい、あいに行く。
片手に手土産。学校の最寄り駅近くのケーキ屋で買ったプディング。俺もあいつも甘いものが嫌いではないからきっと気にいる筈だ。

「伊月」

あいつの最寄り駅の売店の近く、いつもそこが待ち合わせ場所。この季節に珍しくもないピンクと赤でデコレーションしたそこに立つ伊月は場違いなのに様になっている。
その容姿のせいだろう。

声をかければ伊月が顔を上げる。
さらりと黒髪が揺れた。

「宮地さん!」

ぱぁっと顔が明るくなる。
まるで、待ち焦がれた彼氏に会えた女みてぇ、とアイドルを主役にしたドラマを思い出すが、この場合彼氏って俺か、となんとなく半笑いになる。
彼氏には変わりないが、あいつだって俺の彼氏だ。

「ん」

寄ってきた伊月に見せるようになんかファンシーな袋を突き出すと、伊月はまた目を輝かせた。

「これ!ここのプディング美味しいんですよね!!うわ、嬉しい!!」
「女子かお前」

スイーツが美味い店なんか俺が知るわけがない。美味ければそれがどんな店でもいい。
リサーチ済みだったらしい伊月に思わず突っ込みを入れるが、伊月は特に取り合いもしない。

「お茶請けがあるんでしたら今日はうちに行きましょう。紅茶淹れますね」
「おう」
「あっ!宮地さん!」

踏み出しかけた伊月がくるりと俺を振り返った。

「はいこれ。ハッピーバレンタイン!」

身構える暇も与えず、伊月はぽんと俺の手に薄水色の小さな箱を置く。おい、と声をかけるが耳に入ってないらしい。
後ろを向いた耳が赤くなっている。
おい、ともう一度呼んで、伊月の肩を引き寄せた。

「逃げんな。絞め殺すぞ」
「うっさいです早くプディング食べたい!」
「おま、ほんとに絞め殺すぞ」

生意気な口を利く伊月の首筋を後ろからギリギリと締め上げる。伊月がギブギブと腕を叩いた。いつでも抜けられる位に腕を緩めるが、こうやって戯れるのも嫌いじゃないらしい伊月は俺の腕の中に大人しく収まっている。

「それとも、腰立たなくなる位ヤってやろうか」

耳元で吐息多めに囁いてやると、即座に距離を取った伊月がふーっとどっかの黒猫みたいに威嚇してくる。その頬が赤く染まって期待してんだかホントに嫌なんだか。

「もう!宮地さん早くうち行きますよ!!」

なにそれ誘ってんの、と思いながら、伊月についていく。
自然に頬が緩むのは止められなかった。



伊月の家の伊月の部屋。

この部屋の主は本当にプディングを楽しみにしていたらしく、さくさくと準備を進めて今は紅茶を淹れにいっていない。
仕方ないから手持ち無沙汰の俺はしれっと本棚やらを物色し、伊月だって男だし、と探し物。

机の上を探していると、可愛い色合いの薄い雑誌と数枚の見覚えのあるラッピングシート。表紙を飾る上手そうなチョコレートケーキの写真に、思わず視線をさっきもらったチョコレートの箱へと向けた。

伊月の家は姉と妹、母と女系だったはずだ。だとすると、自分の為にチョコレートを手作りするのは大変だっただろう。

見つからずに作ることができたのだろうか?

見つかったとしたらどう誤魔化したのだろう?
それとも素直に教えを請うたのだろうか?

元々そんなに料理は得意ではない筈だ。エプロンをつけて一所懸命に手作りしたのであろうその様子を想像して、口元が緩むのを止められるわけがない。

「…やっべぇ…」

可愛い。
思わず口をついてでていた。

不意に、廊下を歩く足音が聞こえた。
伊月だ、と反射で思った。

きっとギリギリまで手作りなんて隠しておきたい筈だ。
ここでバレてしまったなんて知ったら伊月は取り返そうとするかもしれない。
また、顔を真っ赤に染め上げて。それも悪くない、でも、そんなに苛める趣味はない。

バレないように、伊月の部屋の中央の座卓に座る。

宮地さんお待たせしました。と伊月がお盆に2人分のカップと紅茶を持って現れた。

おう、と返事をして、2つのプディングとスプーンをテーブルに並べる。
伊月が嬉しそうに俺の斜め前に座る。

「じゃあ、いただきますね」
「おう、ありがたく食え」

両手を合わせて俺に言ってくる伊月は本当に嬉しそうに笑っていて、返事をするとはぁいと間抜けな声でスプーンを持った。

俺も、と口に運んだプディングは思ったよりもずっと甘い。

これは少しでいいな、とゆっくりと食べ進めることにする。

「甘い!美味しい〜」

対して軽快に伊月の食は進む。元から甘いものが嫌いではないらしい伊月には、甘いと感じはしても食欲が下がりはしないらしい。
あまりにも美味しそうに食べるものだから、ついつられて笑顔になる。

「伊月、ほら」
「あーん」

自分のスプーンに少し乗せてやって差し出せば、伊月は身を乗り出してぱくっと俺のスプーンをくわえた。

なに、コイツ。

まさかそう来るとは思ってなかった。
そう思った時には今度は俺が身を乗り出していた。
伊月の後頭部を捉えて、引き寄せる。

「みや…さ、んんっ」

どん、と伊月が俺の肩を叩く。

けれどそれは、何度も啄むようなキスをすると力が抜けて肩に縋る。
小さく開いた唇から口内に舌を差し込めば、伊月の舌が応えてくる。なんだ、結構その気だなと薄く笑う。

かたん、とスプーンがテーブルに倒れた音が聞こえた。しまった。零れるほど残してはなかったけどプディングの器も倒れてそうだ。

ん、ん。と伊月が喘ぐ。
さんざんにその口のなかを荒らして唇を離せば、唇と唇を銀糸が繋ぐ。
無理な体勢でのキスで、力の抜けた伊月が俺にしなだれかかってきた。少し重い。

「おら、ちゃんと自分で座れ」
「うぅ…宮地さんから始めたくせに…」
「あ?」

文句をいいながら、伊月を支える。
肩に縋りながら耳元で文句を言う伊月に苦笑した。

「伊月、ありがとな」
「?」

囁いた言葉は聞こえたのか否か。
とりあえずもう一度言おう、と宮地は未だ肩に寄りかかったままの伊月をそのまま押し倒した。




あとがき

ハッピーバレンタイン!
またやらかした!
日月サイトでイベント日月を書かないっていう!
すいません!!
初宮地さん宮地さんじゃなくなったすんません!!






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