君と生きる
笠松さんが好きだ。
長い片想いの期間と、恋人として愛し合った時間を含めて、育った感情はそうそう覚めることはない。
付き合い始めて1年。今年は笠松さんの大学受験の年で、来年の俺も、同じように受験の年になる。
去年の夏、笠松さんが高校2年の夏に、俺と笠松さんは出会った。
憧れの人が負けた、その日に俺たちは出会った。
それから、
片想いに気づいた秋と冬。
堪えられなかった気持ちを伝えて、付き合い始めた春。
お互いに忙しくて、顔を見ることもできずに不安になって、ぐずぐずに泣いた夏。
あなたの暖かさを改めて痛感した秋。
もう、1年以上の月日をあなたと、あなたを思って過ごしました。
その1年の中で、気持ちは大きく、大きくなるばかり。俺は、あなたなしで生きることができなくなってしまったかもしれません。
そう言うと、笠松さんは困ったように笑った。
今年最後の日。
12月30日。
1年の初めの日は笠松さんと過ごす。その約束の前に、俺は、笠松さんの合格を願ってひとりで神社に来た。いや、まぁ、誠凛のみんなはいるんだけども。
よかったのか?なんて、俺たちの関係を知ってる日向が心配顔で俺を覗き込む。
大丈夫。だって、俺たちは繋がってる。
それに、明日は一応笠松さんとも行くつもりなんだ。
1月1日の明日は、誠凛でぎゃーぎゃー騒ぐのとは違い、笠松さんとゆっくりとした時間を過ごす。
そもそも俺はそれほどアクティブな方ではないし、笠松さん自身、受験勉強で疲れているからそれくらいで調度いいのだと思う。
多分、ストバス行かないかって誘われたら喜んで着いていく。そんな程度だ。
そう伝えれば、日向はそうか、と少し納得できてないような顔で頷く。
なんでそんな顔してんの、と問えば、日向は、お前が、と何かいいかけていい、と口をつぐんだ。
一体なんだっていうんだろう。
誠凛のチームメイトたちと別れ、うつらうつら、感じてはいたが無視を決め込んでいた眠気を素直に受けいれ、一眠り。
笠松さんとの逢瀬に備える。
重い瞼をこすりこすり起きると、時間は待ち合わせの2時間前。
寝るときに着たジャージを脱ぎ捨て、よそ行き用の服に着替えてリビングへと行くと、こたつに入った姉妹がテレビを見ながらおはよ、と声をかける。
それに答えながら母さんが持ってくるお雑煮を食べる。
ありがと、と受けとれば、姉貴からどこかいくの?と声がかかった。
わかった、デートだ?とにやけるのは最近初めての彼氏ができた舞。
舞こそデートは?と意趣返しのつもりで訊くと、10時に迎えに来てくれるって!なんて盛大にのろけられた。今の彼氏が1年以上付き合ってる姉貴とののろけ大会が始まる気配に、少したじろぐ。
どうにもこういう雰囲気は苦手だ。
自分が異性と付き合ってるからかもしれない。なんとなく姉妹の言っていることがわかるからかもしれない。
でも、とにかくこの空気は苦手なんだ。
さっさと掻き込むようにしてお雑煮を食べ終わり、ごちそうさま、行ってきますと母さんに小声で声をかける。
姉妹にばれないように家を出ようとすると、母さんに呼び止められてマフラーを巻かれる。
いってらっしゃい。
と微笑む彼女は理想の女性で、母親なのだろう。
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