期待してもいいのか



あっちからこっち。
こっちからあっち。
あいつは飛び回る。
忙しいやつ。




「みーやじー!!」
「あ?」

もうすぐ22時を回ろうとしている夜遅く。宮地の携帯がけたたましく鳴った。
その日の課題を終えて来週の授業の準備をとしていた宮地は突然の連絡に半切れになりながらその電話を取ると、聞こえてきたのはつい先日好きだと自覚したばかりの悪友だ。

「てめぇなんだよこんな時間に」
「明日空いてる!?」

電話の向こうの相手は宮地の機嫌など気にしないといった態度のそれで、図々しくも宮地の話を無視した。

なんで俺こんなやつ好きになったんだろうと宮地はため息をつく。

「……あいてっけど」
「やった!じゃあ明日14時に駅前集合な!」
「え、あ、おい森山!?」

一方的に捲し立てたと思えば一方的に切った。
なんだこいつ、と毒づく前に、それが好きなやつだという絶望。なんで俺本当にこんなやつ。
森山がこうして宮地に連絡をよこす時には法則がある。それを理解しているからこそ、明日の待ち合わせが気が重い。

ふぅ、と長いため息。
それでも降って沸いた明日の予定に少しだけ気持ちが浮き立った。



暑い。
炎天下の下、駅の改札近くに日陰を見つけて先程買った缶コーヒーをあけた。
ふしゅ、と気の抜けたような音が焼かれる肌に涼しげだ。

携帯を開けば待ち合わせまであと10分。
自主的に早めに来たとはいえ、この暑さはいただけない。ギリギリまでゆっくりしていればよかったとコーヒーを口に含んだ。
携帯から顔をあげ、少し広場になっているそこを見ていると、数組のカップルがいた。

中には中学生とおぼしき男女もいる。
ちょっと遠出でもしてデートのつもりだろうか。

お互い耳打ちしあっては笑い合う。そんな暑苦しい様子を見ていても、宮地はいいなぁとなんとも健全なことを考えた。

「そこのオニーサン。暇ならあそぼーよ」
「あ?……………おい」
「やーいひっかかったー」

後ろから声をかけられ、叩かれた肩に振り替えれば、ぷにゅりと人差し指が頬に刺さった。背にしていたはずの柱になっていたそこに、宮地と同じように背の高い男が楽しそうに掌をぐっぱしている。

「早いねーなになに、中学生見てたの?……犯罪だよみゃーじー」
「見てねぇ!てか犯罪でもねぇよ!」

現れた森山はやたらとテンションが高い。俺は例え中学生だとしても魅力的なら問題ないけどね!と胸を張る姿はいっそ清々しい。
小学生は、と言えば、問題ないけど、成長するのを待つかな光源氏と頭がいいのか悪いのかよかわからないことを口走った。おそらく後者が正しい。

「で、なんだよ?」
「んーまぁ、とりあえずお店入ろうか。暑いし」

近くにマジバを見つけ、ちりりと涼しげな音を聞いていっそ寒い位の店内へと急いだ。


席に座った森山は携帯を開き、驚いたようにして、少し残念そうに眉を寄せた。

「伊月少し遅れるって。寝坊したらしいよ。珍しい」
「伊月にも連絡してたのか、お前」
「え?うん、言ってなかったっけ?」

聞いてねぇよ、と悪態をつき、内心なんだ二人じゃないのかと肩を落とす。
悪い、伊月と何故か妙に申し訳なくなった。

「んで、なんだよ。わざわざ神奈川から急に」
「えー伊月待たないの宮地」
「お前のことだからどうせ女のことだろうが。八つ当たりされる伊月が可哀想だ」

先に発散しとけよ。と促せばちぇ、と森山が唇を尖らせる。
なんだよかわいいな、と心を無にして表情に出ないように注意して、なんでこいつに振り回されなきゃいけねぇんだと自分の思考回路に悪態をついた。

「んで、なんだよ」
「それなー…なんで俺モテないんだろ」

はぁ?と思わず漏れた声は呆れだ。
そんなこと分かりきっている上に、開口一番それはないだろう。
それでこそ森山だが、まぁ、それを許してしまうあたりはこいつに甘い。

「お前が残念だからだろ。それで?」

残念って!と食いついた森山はそれでもそこに踏みとどまって、はぁと大きなため息をつき腕に顔を埋めた。

なんとなくつられるようにそれを覗きこむと、籠った声でそうなのかなぁと聞こえる。

「俺ね、昨日ふられたんだー」

ことも無げに呟いた森山に宮地は動きを止める。なにこいつ、恋人いたの?とそれは素直な落胆。
しかし、別れたときいたのを思い出して持ちなおす。

「イメージと違った、ってそれなんなんだよー」

聞くと、付き合って2週間ほどだったらしい。背が低くて、可愛いタイプ。それでも男前な性格の彼女だったらしい。
そんなようなことをぐちぐちと語った。

「好きだったんだよー…だいたい、よしたかくん私のこと好きじゃないでしょ、ってなにそれーぇ」

それが原因かよー!!愛してるのにー!!
子どものだだっ子のようにテーブルに額を押しあて、ばたばたと暴れる。

それに、宮地はあーはいはいと適当な返事をしながらなんでこいつが好きなんだろうと考えた。

なんてことはない。甘やかしたいと思うのがこいつだっただけだ。

伊月はまだか、と時計を見上げればもう10分はたつだろうか。

「はー…宮地がいてよかったー」

一通り喚いて満足したのか森山が顔を上げる。さらさらの髪が暴れていたせいでぼさぼさになっている。
崩れた顔でも可愛いからイケメンは特だなと他人事みたいに思った。

それから、森山が言ったことを反芻する。

「……………なんで俺?」

森山にはチームメイトもいる。どうして今日はここに召喚されたのか。
向き合いに座った森山がぐすりと少し赤い目を擦る。

「別に。一番に思い浮かんだのが宮地だったってだけだけど」

さらっと答えてまたテーブルとご対面した森山。どうせ見えないとたかをくくって、少し歪んだ唇を頬杖をつくふりで隠した。

「遅くなり、まし…た……?」
「伊月聞いてくれよおおおふられたああああ」

やがて、到着した伊月は半泣き状態の森山に抱きつかれることとなった。




あとがき

読んでいただきありがとうございました!
大好きなフォロワーさんに捧げます!
もう少し甘い雰囲気になる予定だったんだけど、無理でした…
思えば、あれは半年ほど前のこと…もう、であいなんざ覚えてないww
お誕生日おめでとう!!!






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