ポケットの中に




空を見上げると、そこにはいつもとは違う灰色の空が広がる。

学校の屋上には誰もいない、静かに静かに、時間が過ぎていく。

青く透けるような高い高い空とは違った、その空の色は、低く、圧迫されるように、俺を拘束するかのような。

雨が降りそうであるのに、その兆しはない。秋の冷たい空気の中で、雪でも降るのではないかと。

真っ白になる。

もうすぐ雪も降ってくるだろう。

春は桜で桃色に、夏は新緑の緑に、秋は紅葉の黄色や赤に、その姿を変えていた通学路は、もうすぐ白に染まる。足元には過ぎ去った木の葉の記憶が散らばっている。
この一年、恋人と共にこの道を歩いていた。

右のポケットに、俺の手とカイロと冷たい、冷え症なのだと宣った左手。
俺だって寒いんだよ、なんて言って無理矢理一緒に入れた手でポケットははち切れそうにぱんぱんになっている。

ウィンターカップの帰り道、さっき同じ方向のリコとは別れ、人のいない路地をいいことに、普段できないような空気も漂う。

「あっ、ひゅーがひゅーが!あんまん!」
「ん?あー…」

右手を突っ込んだコートの裾を引っ張られるようにしてコンビニの光をめざす。お前普段そんな早く歩かねぇだろぉが、なんてそんなこと言わねぇけど。

ふぉふ、と買ったあんまんに食らいつきながら、寒い寒いと宣う。俺も自分が買った肉まんを口に入れて、上手い、とその温かさを堪能する。

やっぱり肉まんだろ、と呟くと、伊月がもらい、と俺の肉まんを握る手を片手で包んだ。
かふり、と、そのまま口に持っていき、一口。うまっ、と綻んだ表情にみとれて、それからその頭を叩く。

「お前、自分のあるだろうが!」
「えー?だって食べたいじゃん?日向うまそうだし!…あ、俺のも食う?」
「食わねぇ。そんな寂しそうにあんまん見つめるやつの食えるわけがねぇ」
「やったね!」
「お前な…」

こんな馬鹿みたいな会話。
お互いに中華まんを食べ終わって、帰るぞと声をかければ、当然のように右手を突っ込んだコートのポケットに伊月の左手が入り込む。

冷てぇと唸ると、へへへ、と伊月がはにかむ。

その冷たい伊月の指先に、軽く自分の指先を絡める。そうすると、伊月も同じように少しだけ、指先を絡めた。

冷たい。

少し、ポケットの中が窮屈になる。
手を繋いだ分、できた大きい隙間から冷気が入り込む。

手を繋いだ状態では歩きにくい。だと言うのに、伊月は問答無用で落ち葉を蹴り蹴りしながら、たまに、固まった落ち葉がぱらぱらと弾ける。

伊月の手が、俺の手が、暖かい。
温いのに、肌を撫でる空気は冷たい。

それがやけに気持ちよかった。

もっと、と、その感触を求めて指を絡めると、伊月が狭い、と呟いた。
冷気がポケットに入り込んできて、寒いじゃん、と伊月がぼやく。

そうして暖を求めて伊月の掌は俺の掌を探る。もっと深く繋がる。

ぎゅうぎゅうになったコートのポケットの端は少し解れているかもしれない。

伊月がばーか、と呟いた。





あとがき

MerryChristmas!
というわけでイヴですね!
仕事です!久しぶり日月書いたら日向が書きにくくて。でもなんか、視点を変えたらかけた不思議。
リクエスト悩み中です。
ごめんなさい。






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