タイムリミット
冷たい空気に、乾燥した空に、手が悴む。
ふたつ、並んだ手が、絡まることは滅多にない。
俺は、高尾が好きなんだ。と思う。
付き合い始めた、と言えるのは、つい最近。好きだと伝えたのは高尾からで、俺はその時点では特に高尾のことを気には留めていなかった。
あえて言うのであれば、他校の好敵手。
そのくらいのものだった。
似た目を持っているということは、確かに俺にとっての脅威であったけれど、まさか、こんな形で好意を示されるなんて、思ってはいなかった。
でも、接するうち、いっしょにいるうちに、ふとした瞬間に、高尾のことを考えるようになっていった。一緒にいたいって思うようになっていった。
恋人に、なってくれないか。と、それだけ伝えるので精一杯だった。
お試しの恋人から、本物の恋人へ。
好きだって思えるようになっていった。
高尾が好きだ。
まだ、伝えてないけれど。
寒空の下、少し悴んだ手を差し出せば、高尾の手がそれに触れる。
高尾の手も同じくらいに悴んでいて、お互いにそれを包んで温め合う。
WC2日目の今日は、聖夜と一般的には言うのだろう。
タイムリミットは10分。
お互いのチームメイトが帰る準備を終わらせて、控え室から出てくるまで。
秀徳はこのあと学校に戻ってスカウティング、誠凛もまた、火神の家に集まる予定になっている。
クリスマスで賑わう街は今も赤やら黄色やら、キセキ色に輝く。その街へと、まるで現実に帰るような負けたチームや勝ったチーム。人々の想いは様々で、その表情も色々だ。
その喧騒から放れて、夜の体育館は静かだ。
そこだけが、隔離されたみたいに。
現実から隠れるようにして、俺たちは手を重ねる。想いを重ねる。
「伊月さん」
「高尾」
メリークリスマス。
もう幾度か重ねた唇。運動した後のそれは少しかさついた。
明日は、また、敵同士。
これは、束の間のご褒美だ。そして、この時間を持つことへの罰が待っている。
「伊月さん」
また暫く会えないんすね、なんて切なく高尾が呟く。
そんな顔すんなよ。
「明日も会えるだろ?」
恋人としてではないけれど。
そうですけど、と言ってぶすくれる、高尾のその気持ちは分かる。俺だって敵として立つ明日からが少しだけ、来なければいいと思ってる。
でも、やっぱり高尾はライバルであり、一緒に立つコートは高揚する。その時間も好きなんだ。
ぶ、と、ポケットに入れた携帯が震動する。少しだけ長い。電話だろう。
タイムリミットまであと3分。
静かな夜に、携帯のその音はやけに大きく響いて、目の前の高尾の顔もなんとも言えない、苦々しげな表情で。
震えていた携帯が止まる。
繋いだ左手に力が籠る。この時間を逃したくない。
大したプレゼントも用意できなかった、高尾と過ごす初めてのクリスマスだというのに。
少しして、また携帯が震動する。
ああ、もうタイムリミットだ。
「……行きましょうか、伊月さん」
「………ああ」
手を繋いだまま、体育館の表へと向かう。せめて、もう少しだけ。少しの時間さえ惜しむように、互いの体温を感じる。
「…………高尾」
聞こえるか、聞こえないか。俺の手を引く高尾にも、多分反応はなかったから聞こえてない、そのくらいの声の大きさ。
「高尾、」
好きだ。
好きだ。好きだよ。
いつも伝えられないけど。
沢山の気持ちを込めて、高尾にも聞こえないように呟く。白い息の中に消えていく。
「伊月さん」
もう一度紡がれた自分の名前。
これだけでもう、幸せなクリスマス。
少し赤くなった頬は寒いから?
やっと言葉にしたそれが届いたかどうかなんて関係ない。
ありがとう。好きになってくれて。
あとがき
クリスマス小説第2弾!
高月!!駄作!!!