恋人との距離




WCの帰り道、冷たい風が頬を撫でる。ふるりと身体を震わせ、俺は首を縮めた。

「あー、早く帰りたい」
「風邪だけはひかないでよ?」

先を日向と並んで歩く、相田が振り返った。へいへい、と軽く返して、またふるり。寒いのだから仕方ない。

掌が寒い。寧ろ痛い、そのレベルの冬の空気を我慢して、ポケットから少し体温で温まっている携帯を取り出す。
笠松さんからのメール、なんて、そんな小さなことが嬉しくて思わず顔が綻んだ。

『メリークリスマス』なんて、そんな素っ気ない一言がどうしようもなく愛しい。

メリークリスマス、明日もよろしくお願いします。

自分の返信もそんな色気のない。それでも、俺たちの距離感はこんなものだ。

大好きなことには代わりないからよし。

送信、とそれを送って、笠松さんへと届くアニメーションを見届ける。

「あら。伊月くん、目悪くなった?」

相田の一言にえ、と思わず顔を上げた。

その言葉に虚を突かれたのは別に俺だけだけじゃなくって、日向も木吉も、黒子も。
その場にいた全員の視線が俺を見た。

「伊月、そうなのか?」
「いや、別に…」

「じゃあ、疲れてるなんてことは…」
「今日はそんなでもないけど…」

矢継ぎ早に繰り出される質問に、戸惑う。なんだっていうんだ。

「だって、伊月くん…最近携帯に目が近い気がして」

少し不安そうに相田が言ったそれは、俺だって今まで気づいていなかった。そんなに目は悪い方じゃない。

困惑が場を包むなか、あ、と黒子が声をあげた。

ん、と今度は黒子に視線が向く。
ミスディレクションもなにもあったものじゃない。

「すいません、なんでもないんです。それよりほら、早く帰りましょう!寒いですし」

それだけを早口で言って、黒子は火神の背中を押す。
なんだなんだと黒子の方に興味が向いたのか、チームメイトたちは少し気にした様子ではあったけれど、諦めて帰路へと着く。

伊月さん、と黒子が俺に声をかけた。ちょいちょいと手招きをされて、口元に手を当てたので、少し膝を屈めて耳を澄ませた。

「携帯のディスプレイと顔との距離は、恋人との距離。らしいですよ?」

は、と顔を上げる。黒子はなんでもないことかのように、けれど、目が合ったその一瞬だけ、口元に笑みを浮かべた。

恋人との距離。

昔よりも少しだけ近くなった携帯のディスプレイ。
確証なんてない、ただ、黒子が教えてくれた言葉って、それだけなのに。
どうしよう。顔が熱い。

昔よりも、近くなってるなんて。

ほう、と夜空に向かって息を吐く。

真っ白い息が、暗闇に消える。

冬の夜空は綺麗に雲も捌けていて、昼間は曇っていたそこには星たちがちりばめられて月が明かりを照らす。

この夜空の下に、きっと笠松さんもいるだろう。




あとがき

3本もクリスマス書いてる暇あるならリクエストやれって話。
笠月bot用に15分ほどで書いたものです。
意外とボリュームあったので再利用。
クリスマス小説はこれで最後!






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