子どもと大人





「お前恋人とかいねぇの」

不意に目の前の麻呂眉がそんなことを言った。

コイツと仲良くなった経緯を説明するならまぁ、ひょんなことがあってという。決して休日に偶然会って警戒してた時に不意に呟いたダジャレが意外にも花宮のツボで笑わせてくれた礼だとか言ってコーヒーゼリー奢ってくれてお礼しようと思った経緯でストバスになだれ込んだ結果話をしてあれこいつもしかしてかなり誠実なやつなんじゃねとかなった単純な経緯ではない。
そしてそんな経緯で霧崎第一の無冠であり悪童であり木吉の仇でもある花宮と花宮の家に入り浸る位仲良くなっていると部内で知れたら大変な騒ぎとなるだろう。
危ない部内恋愛キタコレ。

さて冒頭に戻ろう。
花宮の家に入り浸るようになってだいたいひと月が経った。
今じゃ週に2、3回来るようになった、そんなレベル。

まぁ、一期生で新設バスケ部のPGともなれば悩みは尽きないわけで、花宮は俺の愚痴を流すとも応えるともせずに何気なく聞いてくれる。
意外と家庭的で、たまに晩飯とかもくれる。あれ、俺餌付けされてる?

まぁ、ここまで来ると一方的に俺が甘やかされてるだけみたいだが花宮的にはそうではないらしい。
悩む俺を見て楽しんでいる節もあれば、俺をつかいっぱしりに使ってることもある。世話になってる立場上頭が上がらないわけだ。

さて。

と、花宮に言われたことを思い出す。
花宮は恋人はいないのかと聞いた。恋人はいない、と思う。が、花宮は何のつもりでそれを訊いたのだろう。
俺に恋人がいたらなにか不都合が生じるのか?特に思い当たらないが。

「いないけど」

そう答えると花宮はふぅんと鼻で言った。なんで?と訊くも返事はなく花宮は変わらず夕飯のパスタをソースに絡めている。意味が分からない。気に入らない。

「花宮」
「お前さ」

次の言葉が被さった。
これ以上返事なんか待っても無駄だと思った俺は虚をつかれた。花宮はそんな俺に構うつもりはないらしい。

「お前、俺んとこ来てていいのかよ」

「へ、」

「木吉の事とかあンだろ。止められねぇの」

思わず間抜けな声が出た。
花宮は俺の、誠凛での立場を心配しているらしい。やっぱりコイツ言動に比べ大分優しい性格してる。

「平気」

そもそも言ってないし。と言えば花宮はカハッと独特な笑い方で俺と自分を嘲笑った。

「だよなぁ。まさかチームメイトに怪我負わせたヤツに飯食わして貰ってるなんて言えねぇよなぁ?」
「やっぱりお前なんだな」

知ってたけど。
ここまでの経緯もあって、事故ならいいのにと思うようになっていた。全く現実はままならない。

「伊月さ、お前、無防備すぎね?」

ここは敵の城なんだぜ、と。
いつでも手を下せる、と。
花宮は言外にそう言っている。

「だって花宮は俺に手なんか出さないだろ」

真っ直ぐに見つめてくる花宮を見つめ返してやると、先に折れたのは花宮だった。
やっぱり、と自分の勘を信じてやよかった。

「お前な…、もっと他にもあんだろォがバァカ」

ぴんっと指先で弾かれた額が地味に痛くて、衝撃で目を瞑る。

「お前無防備すぎんだよ、だから俺みたいなのにつけこまれんだろ。だいたい、脇も甘いし、隙ありすぎ。わかってんの?なぁ」

立て続けに何度も。
デコピンされて額が痛い。

「んなこと言われたってさ。花宮なんだかんだでいいやつだし、子どもだし」

そう言ってやると、驚いたように花宮は目を見張った。
ぶぅ、と拗ねてぶすくれた様子はみたまんま子どもだ。

「なんかほっとけないよなー?気に入らないこと我慢しまくって癇癪起こして全部壊しちまえ!ってグレた子どもみたいなさ」

調子に乗って喋っていると、近くに来た花宮に気づかなかった。気づいた時にはもう遅い。
暗くなった手元に顔を上げれば、ふ、と唇に何かが触れた。
近すぎる花宮の顔に、やっと自分がキスされたと気づいて頭が真っ白になる。

「…」
「…っ」

唇が離れて、目が合う。
花宮の顔色は変わらないのに俺の顔ばかり熱くなって、多分これ、赤くなってる。

花宮はカハッと笑った。

「飯食うぞ、伊月」

次に出た言葉はとことん予想外。花宮はコトリとテーブルに向かい合わせにミートソースのパスタを置いた。

呆然としれっとしている花宮を見つめていると思いっきりバカにしたように花宮は唇を歪めた。

「どっちがガキだよ、バァカ」

そんな風に笑った花宮に、固まっていた思考がやっと回った。

「うるっさいな!こちとらずっとバスケしてんの!」
「知るかバカ。そりゃこっちだって一緒だよ」
「ああもうバカバカ煩いばかみや!」
「なんだそりゃんな単語ねぇよ」
「うるさいばかみやばかみやばかみや」
「そろそろ黙れ飯やらねぇぞ」
「ごめんなさいいただきます」





あとがき

合格祝いにリクエストで花月!
初めて花宮書いてなんだかコレジャナイ感凄いのですが、
うん。デコピン書けたからいいや←
合格おめでとう!!




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -