答え






言葉を交わす。手を繋ぐ。抱き締める。キスをする。

繋がる。



言葉を交わして、手を繋いで、抱きしめて、キスをして。
そうやって気持ちを交わしている最中に、不粋な音が響く。
高尾の携帯電話の着信を知らせる音が響く。

「…あー…もぅ、」

初めは無視していた高尾も、しつこいそれに辟易して、携帯に出た。

高尾は、例え情事の最中だったとしてもそれの電源を切ることはない。
それは伊月と高尾の間では暗黙の了解だった。
伊月には、優先するべき相棒がいる高尾の気持ちも分かったから。伊月だってそうするべき相棒がいたなら、高尾のようにしていただろう。

軽く乱されたシャツを直しながら、高尾の電話に耳を傾ける。

やっぱり相棒だろう。
高尾の受け答えからなんとなく呼び出しだろうかと思った。

呼び出しならば、ここから先に進むことはない。
上半身だけ脱いだ高尾の背中を見る。さっきまで恋しくて恋しくて仕方なくて縋っていた背中だ。

高尾が脱ぎ捨てたシャツを拾い上げ、すぐに腕を通せるようにと整える。
高尾が手と目でごめんなさい、と謝った。それに笑顔でいいよ、と答える。

「すんません伊月さん!」
「いいよ。仕方ないしね」

うん分かった。
そう言って電話を切った高尾が速攻で謝罪を入れる。やっぱり呼び出しだったかと笑う。

心臓の辺りがずきんと疼く。

大丈夫。笑顔で送ってやれ。

多分、年上としてのプライドだとかそういうもの。
ここで伊月が駄々をこねればきっと高尾はなんとかしようとするだろう。でも伊月はそんなもの望んでいない。
高尾を困らせたくなんかなかった。
自分よりも大切な人がいる、その気持ちは分かっているつもりだ。

じゃなかったら誠凛なんて受けていない。

「伊月さんは」
「あー俺も外出ようかな。暇だし」

その辺ぶらぶらするよ。そう言って自分の準備を始める。
とは言っても服は一応着替え終わってるからあとはコートを持つだけだ。春に近付いてもう街はコートなしでも歩けるくらい。それでも肌寒いことには寒いのだが。

2人揃って家を出る。

高尾は家の鍵を閉める伊月を待って、伊月が隣に立った所でじゃあ、と言った。

「すいません伊月さん。俺はここで」
「おう、いってらっしゃい」

笑顔で高尾の頭をくしゃりと撫でると高尾は嬉しそうに笑う。少しだけ憂いを乗せたその顔を見送り、さて、と伊月は息をつく。

「バスケしたい…」

ストバス行くか。
日向とよく行ったストバスのコートは高尾が向かった方向とは逆方向。
伊月は見えなくなった高尾に背を向けた。



「…はっ、」

もう随分暗くなった。
イメージトレーニングの後のシュート練。しかし放られたそれは孤を描いたもののゴールに入ることはなく跳ね返されて戻ってくる。
20ほど投げた筈だが、その殆どが跳ね返されて戻ってきた。

心が乱れてるんだ。
集中できていないんだ。

イメージトレーニングの間もしきりに高尾の顔がちらついた。いつの間にか、自分が対する相手は緑間になっていて、緑間の癖を追っていた。

膝に手を当て、崩れそうになるそれを抑える。

駄目だ。集中しろ。

集中できていなければ怪我を引き起こす原因にもなる。けれどやっぱり高尾の顔がちらつき、それを払拭することは難しい。

膝を抱き込んで、座り込んだ。

視界がぼやけて揺れる。

考えないようにしていた。

考えたくなかった。

高尾にとって自分が緑間以上になることはないだろう。

そんなことを言ってしまうと高尾を困らせる。
高尾は年下だ。伊月が我が儘を言えばそれを叶えようとするだろう。そうじゃなくても、いつだって相手を思いやれるやつだから、なんとか伊月を悲しませないように努力するんだろう。

この感情を嫉妬だと認めたくない。
この感情を独占欲だと認めたくないんだ。

大人にならなければ。

ぱたたっと、膝と一緒に抱き込んだバスケットボールに水滴が落ちた。
雨が降ってきたのかと思った。

「ぅぁ、あ…っ」

それでもいいと。

「…ふっ、…ぅぇ…っ」

濡れたい気分だったから。

それでも一向に雨は頭を冷やしてなんかくれなかった。

「伊月さん」

代わりに、大好きな声が頭を冷やさせた。
明るい月の光を背に、ライトで照らされたコートの中に影をつくる。代わりに伊月の影が消えた。

「伊月さん、帰りましたよ〜」

背中が暖かい。
首もとに腕が回って、身動きが取れない。

「たか…、お…?」

夢かと思った。
確かに温かさも腕もそこにあるのに。

「高尾、」

「すんません、伊月さん。寂しい思いさせちゃいましたか」

顔を見たくて後ろを振り向けば、苦笑した高尾の顔。
それに手を伸ばせば、確かにそこに高尾がいる。

「高尾」
「伊月、さ…」

顔に伸ばした手をそのまま後頭部に回して、ぐ、と引き寄せる。
思考も禄に回らないまま伊月は高尾の唇に自分の唇を重ねた。


例え、高尾が緑間のものだったとしても、高尾の恋人は俺だ。

俺は、高尾のものだ。
だから、





あとがき

いつもお世話になっております、高月=この人!ってレベルで大好きな光介さんに、この高月を贈ります。
高月にハマるきっかけとなった方です。いつもありがとう!

ラストは中途半端に終わってしまいましたが、伊月はどんな答えを出したのでしょう。
神のみぞ知るってことで。





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