好きを乗せて






「……何か言ったか?」

「いや、言ってないよ」

自分は言葉にするのが苦手だと伊月は思う。
前を歩く恋人に素直に好きだと言えたらいいのにといつも思う。なのに、いざとなったら羞恥心が勝って言葉にならない。伝えることができない。

これじゃあ駄目だといつも思っているのに。

じゃあどうしようか、なんて考え始めた所で伊月には正直どうしようもない。だってこれは生来の気質だし、今まで10年近くそばにいて、日向みたいに素直に気持ちを伝えることは苦手だった。日向だって苦手な筈なのに俺の方が表現するのは苦手だ。

でも、でも。
伊月だって伝えたいのだ。


いつもありがとう。

大好き。

ずっと一緒にいて。


でも女々しくないだろうかと。自分なんかよりも日向には木吉の方が頼りになるだろうと。

伊月の前を歩く中学の大敗から立ち直って未来を真っ直ぐ見据えている日向は、伊月からするとずっとずっと大きな存在になってしまった。
今じゃ新入部員5人を含めた誠凛10人をまとめあげる。

位置上副部長の位置にはいるが頼りない、俺なんか。

そもそも男と恋愛関係を持つなんて日向にさせていい訳がない。成績がよくはなくても人に信頼され好かれる日向に、男と付き合うなんて人生に汚点を残すようなことはないほうがいい。
別れた方が。

考えれば考える程に泥沼に足を進めていく。

「伊月」
「えっ、あ、なに、日向?」

気づいたら日向の歩いた跡をひとつひとつ辿っていた。無心に何かを考えている時の癖になっていた。
一緒に立ってる気分になれていた。

「ん」

差し出された右手。それを辿って日向を見れば、視線を外したまま、もう一度、ん、と促された。その意図を汲み取って顔がぶわっと熱くなる。

「あ…の、」
「早くしろ馬鹿」

日向の顔は赤い。
宵闇に染まるオレンジピンク紫藍色と変わりゆく空でも、それは分かった。

好きだ。

好きだと伝えたい。

大好きだと。

日向の手に自分の手を重ねて緩く握ると、二倍位強い力で握り返された。

「日向」
「おう」

日向、と呼ぶ名前にたくさん、たくさんの好きを乗せる。

「日向」
「おう」

「ひゅーが」
「おう」

沢山日向の名前を呼んで、たくさんの好きを伝える。
絶対面倒な筈なのに、日向は伊月が日向と呼ぶ度に、応えてくれる。

好きと言って、
おう、俺もって言われている気分になる。

自分は日向がすきだと伊月は思う。
きっと離れられない位好きになっていた。

「ひゅーが」

好き。

日向と呼ぶ、その度に伊月は沢山の好きを日向に伝える。

「おう、」






あとがき

日月を久しぶりに更新!
中身がないのなんて久しぶりに書きました。絶賛スランプ中です。
さて、時期的に、企画が動いています。ということであまり更新ができません。申し訳ない…
お読みいただきありがとうございました!



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