近くのコンビニに。




宮モブ表現ありです


あの人が買っていくのはいつも、大抵が変わらない。
有名メーカーのミルクティーに
少し甘めのコーヒーのボトル。
チョコレート。
週の始めにはアイドル雑誌。
あと次の日のためだろうか俺も愛飲してる某スポーツ飲料。



怒濤のWCが終わって、次の春までは落ち着いた日々が続く。だいたいこの次期に詰めて練習に励みもするが、その前に進級試験がある時期だが、教師たちはそれが危ない生徒に着きっきりであったりだとか、大会が落ち着くこの時期には設備の修理だったり点検だったりが集中する。
そう言えば火神は大丈夫だろうか、なんてガラス張りの窓越しに見える雪も降りだしそうな空を見る。

「伊月、お客さん」
「あ、はい!」

店長に言われて我に返った。
お客様が持っている籠の中から商品をとりだし、レジに通していく。
ここは母の弟が営業する小さな個人のコンビニだ。つまり店長は俺の叔父にあたる。
春前。俺はこのコンビニで手伝いという名のバイトをさせてもらっている。
といっても、バスケの合間のこと。
勿論本分は学業で、バスケ部だから無茶はないように計らって貰う。
この時期は、大学近くのコンビニなんかだとバイト生がごそっと辞めるらしい。就職や進学、人によっては里帰りなど理由は様々。
つまり、俺はその穴埋めに駆り出されるわけだ。人員が揃うまでの配慮らしい。
ここで働くのは現時点で俺の他に店長と、去年もお世話になった30代の男の人。それから今年から2年やら3年やらになる大学生が数人。今この時間に入ってるのは3人だけだ。
誠凛からも電車で20分ほど離れていて、教師に見とがめられることもないだろう。

この生活も、そろそろ2週間を迎えようとしていた。

ある日のこと。
時間は午後8時頃だったか。

部活で少し遅れてバイトはに入ると、やることがあるからと店長は中に引っ込んでしまった。
あと二人も思い思いに商品を棚に並べたりホットフードを作ったりし始め、俺は取り敢えずレジに立った。
その位置からは外が綺麗に見える。
出入口のはす向かいに立っている木はちらちらと蕾をつけ始めていた。
そこに。
長い黒髪の女の人がたっていた。
綺麗な人。
人待ち顔で佇む彼女は、長い髪を風に靡かせる。何か嬉しそうな顔に見えて、彼氏でも待っているのかなと思った。

「すいません」
「あっ、はい失礼いたしました。いらっしゃいませ」

彼女に気を取られていて、レジに人がいることに気づかなかった。
なんてそんなの言い訳で、素直に謝る。
お客様は特に怒りもせずにゆるしてくれた。

商品を一つ一つレジに通していく。
ミルクティーにチョコレート、アイドル雑誌、スポーツドリンク。別段おかしいこともなく、あえていうならこの人もスポーツするのかな、なんてバスケ好きとしては至極真っ当なことを考えた。

そして、あ、これも。と差し出された物に思わず動揺して手が一瞬止まった。
いやいやいやいや健全な男子高校生だから!当たり前じゃね!?

なんて騒いでも手元にあるその箱は消えてくれやしない。動揺を悟られないようしながらそれをレジに通す、と。
不意に目の前に立つ客がげ、と声をあげた。思わずそれに反応して顔を上げる。
その人を見て最初に思ったのは綺麗な男の人ってこと、それから何処かで見たことがある。

「…お前、誠凛の」
「………………秀徳の宮地さん…?」

相手が発した言葉でその人が誰で何処で見たのかまで思い出してしまった。
秀徳の宮地さんで、バスケの試合のコートで会ったんだ。

「なんで…お前こんなとこに…」
「…宮地さんこそ」

いやいやいやと頭を振る。不思議ではない。
ここは、誠凛には遠いが秀徳には近い。
盲点だった、ど思わず唸る。

「あの、宮地さん」
「あ?」
「バイトの、ことなんですけど…」
「ああいいよ。どうせお前んとこもバイト禁止なんだろ」

片手を振って宮地さんは俺が要件をいう前にそれを了承した。
どこの学生も、スポーツをしていればお金が心許ないことを理解してくれているらしい。
何処か遠い存在のように感じていた秀徳の宮地さんという人物を、唐突に身近に感じた。それが、なんだかとても嬉しい。
安心感に目線を下に移すと、会計を行っていた途中で、手には商品。
すっかり忘れてしまっていた。
あ、と宮地さんの声。
唐突に、自分が何を持っているのか思い出してしまった。

「ぅあ…っ」
「…あー…」

なんの覚悟もなしにその箱を触るのはなんとなく気まずくて、思わず動揺が表に出てきてしまう。
あ、これは、その。
なんて言い訳を言いきらないうちに目の前の宮地さんは頭を掻いてなんとも気まずそうな。

「す、すいません!全部で840円です!」

ざざざっとビニールの袋の大きな音を立てさせながら、商品であるそれらを詰め込んで、曖昧に笑う宮地さんに渡す。
悪いな、と一つ照れ笑いのように笑って、宮地さんの大きな掌が俺の頭に乗る。あったかい、大きな手だ。

それは、なんとなく木吉の手に似ているような気もした。

俺は、宮地さんに撫でられた所を片手で押さえながら、外に出ていく宮地さんの背中を見つめた。
口調は暴力的、なのに、優しい。
外に出た宮地さんに、走りよった黒髪の綺麗な女の人は、そんな宮地さんに惹かれたのだろうか。
その気持ちが分からなくもない自分に驚きながら、これからそう言うことするのかな、なんて余計な詮索はしないに限る。



いや、木吉とは違う。

宮地さんの手は、木吉の大きくてごつごつとした手とは違う。力任せに俺の頭を撫でる手とは全く違う。
そう思ったのは、次に宮地さんが俺のバイト先のコンビニに来たときだった。

その時は俺はレジには立っていなくて、定められたやまびこをただレジに立つバイトに渡した。
商品を手早く棚に並べていく。
そんな時に、宮地さんは静かに寄ってきて、ぽんと一つ俺の頭を叩いていく。俺が暇そうにレジに立っている時には話なんかもするが、そうでないときは必要以上の干渉はしない主義らしい。何回めかのレジでそんなことを言っていた。

宮地さんの俺の頭を触る時の手つきは、乱暴だけど優しく、温かい。柔らかいもの。宮地さんのその手が、俺のお気に入りになってもっと頑張ろうと思うようになった。

宮地さんが俺のバイト先に来るときは大抵があの女の人も一緒だ。
始めは気まずそうな顔をしていたが、やがては俺にも声をかけてくれるようになってきた。決定的だったのは、いつも宮地さんがどのスポーツドリンクを飲んでいるのか教えて、と言われた時だ。
宮地さんは自主練で遅くなるらしく、それに差し入れをするつもりらしい。
宮地さんが紅茶が苦手だと知ったのもこの時だ。

「え、でもいつもミルクティー…」
「私が好きだからいつも買ってきてくれて。優しいよね」

そう言って笑う彼女は分かりやすく恋してる様子で可愛らしかった。でも俺は、なんとなく微妙な気分で。

「素敵な人ですよね」

そう曖昧に笑って答えた。




ほぼ毎日のペースで来ていた宮地さんが、しばらく来なくなった。
店長によると宮地さんは実は昔からの常連さんで、初めて俺がこの店で顔を合わせた日から来る時間帯が変わったのだと言う。

俺に会うため?なんて考えて変に気分がよくなった。

また暫くして、暇だなー今日も来ないな、なんて時計を見上げる。宮地さんがこの店に来なくなって1週間くらいがたっていた。

今日も来ないのかな、と寂しくなる。
今でも覚えている、あの手の感触が忘れられない。

そうやってぼーっとしていると、もう見慣れた、金髪の髪が見えた。宮地さん、と思う前に、その視線が下を向いていることが気になった。やけに固い表情をしている。

静かに、いつもと同じように店内を回って、宮地さんは商品を物色していく。
そして、彼がレジに持ってきたのは、コーヒーにチョコレートにスポーツドリンク。それからいつもの雑誌。
あれ、と思った。

「宮地さん…?」
「伊月さ」

俺が口を開こうとしたのを、彼が止めた。




コンビニの近くの公園で、彼は待っていた。
春に近いとはいえ、この季節は寒い。シフトが終わって自分の店で温かいコーヒーのボトルをふたつ買って、背の高い金髪の影に近づく。
180以上あるその背のたかさに、小さな遊具が変に小さく見えた。

宮地さん、と呼んで顔をあげた彼に温かいコーヒーを渡す。やはり寒かったのか、それを両手で包んでまた下を向いた。

「伊月、あいつと話したりしてたみてえだから、言っとくべきだと思ってさ」

そう口を開いた。

「別れたんだ、俺ら」

そうなんだ、と相槌は打った。言葉にはなったかどうか分からない。

店に入ってきた時の、宮地さんの表情でなにかあったとだろうと思った。
どうしたんだろう、まさか別れたんじゃ。それが真っ先に出てきたのは俺も彼女に交流があったからだと思いたい。

下を向いて、地面を見つめる宮地さんの体が震えてるのは、寒さからか、それとも。

「それなりに好きだったんだ」

好きだったんだ。
俺に吐き出した、宮地さんの本当の気持ちは、接点の殆どない俺だから聞くことができたのだろうか。

こんな風に、知り合いが泣いているのに俺はどうしたらいいんだろう。
何をどうしたらいいのかわからなくて、とにかく、宮地さんの背中を見ていることしかできない。

とつとつと、ここ数週間、そんな話があったのだと聞かされて、ああ、そうだったんだ、なんて。
そんな話があったのに、二人はそれぞれを思いやれたんだって思って、二人の絆の深さを思い知らされた。
心臓のあたりがずきりと痛む。

ああ、なんていうか。
覚えがある痛みに、なんとなく自分が持っている感情がなんなのか理解した。

それでも、俺は、宮地さんの横にただ座ってるしかできなかった。



あとがき

さっさとリクエスト消化しろよってね。
お客様宮地さんとコンビニアルバイト伊月さんに萌えた私の犯行です。あくまでいつもの伊月と宮地さんですけどねー
リクエストがあれば続き書こうかなってくらいの。小森と同じパターンで書いてるうちにこうしてあげたいーとか思っても書きたい。
とりあえず今のところは書く予定ないので、続き読みたいーって方はメールからくださると嬉しいです。
続き催促は私はリクエストに入れてませんのでキリリッ
あ、勿論他の方のところでは自重しますよ




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