キスをする話






伊月、と森山が呼んだ。
その声音に身体を強ばらせて、その実、歓喜に揺れる。
森山が呼んで、手のひらをそろそろと合わせて、そっと唇が重なる。

夕方の薄暗く染まって行く、部屋。
森山は唇の合わさる感触を感じながら、漠然とそろそろ電気をつけなくちゃ、と思う。
二人ならんで、テレビを見ていた体勢から、森山は身体を乗り出して伊月の額に、頬に、耳たぶに、慈しむように唇を落としていく。
そのたびに、伊月がぴくりと体を揺らす。
目を合わせて、それから、また唇を重ねた。伊月の息を奪うように、その唇も味わい、奪う。
唇を割り開き、伊月の舌を絡めとればそこからはこっちのもの。伊月もそれなりに乗り気で、森山の舌の動きに合わせてくる。

キスの合間を縫って、唇と頬を伊月の吐息が擽っていく。昔は息をするのも苦労していたというのに、成長したものだ。

伊月の口の中をじっくりと味わい、森山のシャツを握る手から少し力が抜けた辺りで唇を放すとくたりと伊月は体重を森山の腹に乗せて、力が抜ける。
ぼう、とする頭でまだ思考もまともに働いていないのか、なのにしっかりと森山のシャツを握りしめている。

力が入っていない、伊月の脇に手をさしいれ、膝の裏に掌を入れて持ち上げる。伊月が寄りかかっていたすぐ後ろのベッドに横たえると、さっと伊月の頬に朱が指した。

伊月の足元に膝を立て、もう一度、今度は身を乗り出して唇にキスをする。
ちゅ、と小さな啄みだけで目を合わせたまま顔を離していく。こうやってお互いの気持ちを確かめようと思えば、合ってしまった目はそらせない。
元々反らす気なんかないし、伊月と森山ならば気恥ずかしくはあるが、反らす必要なんかないのだ。

そう、と伊月の脚を太股から掌で撫でる。
森山さん、と伊月の小さな声が呼んだ。

脚の付け根から、滑らせるように。そうやってたどり着いた爪先を軽く持ち上げて、今度はそこに唇を寄せた。

「ん」

最初に触れて、それから少し口に含むと、伊月の声が漏れた。足の甲に口づけると、ひくりと脹ら脛が揺れた。

「森山さん、擽ったいです…」
「うん」

伊月が言うのをそうだろうね、と思いながら次は脛へと唇を滑らせていく。
森山さん、と静止を促す声を無視してそこに口づけた。

「森山さん、なに。」

何してるの。と。
そういって肩に手が置かれるのを感じた。

次は膝。
腿。
温かくなってきたからと衣替えして薄くなったシャツも少しめくりあげて、腰や胸元にキスしてやると、流石に伊月の手が森山の動きに静止を入れた。

「も、りやまさん…明日も部活が」
「知ってる。だから、しないよ?安心して」

右腕を伸ばして、伊月のさわり心地のいい髪に手を入れる。伊月がまるで猫のように掌にすりついてきた。まるで動物を愛玩しているかのように思う。

ふふ、と笑って、今度は伊月の手を取った。

バスケプレイヤーにしては細く、小さい掌。その指先に唇を当てて、舌先で掌をねっとりと嘗めていく。

ぴくん、と伊月の体が震えた。

「ん?もしかして、伊月くん掌弱い?」
「し、知りませんよ…」

そんなこと知るもんか。
掌に舌を這わすことなんてめったにしない。
以前、森山と手をつないだ時。
くすぐったいとかそういうことを考えたことがある。
まさか掌に性感帯だなんて。バスケなんかしていられない。
性感帯じゃなくても、森山が触ればそこは甘く疼いてしかたないのに。

ひくびくと伊月がいちいち反応を示すのが楽しいのか、森山は取った手を放さず掌やゆびの股、手の甲と満遍なく口づけと、舌先で擽ることを繰り返していく。

そこから、徐々に手首、腕、首筋、のどへと少しずつ位置をあげていって、そして、伊月の唇を再び自らの唇を乗せた。

ちょんちょんとさわるキスのあとに、お互いに舌先をからめあう。森山に応えようと頑張っている伊月の舌を辿って森山は思わずその舌伝いに伊月の唇を貪る。

本当はもっと優しくしたいのに、それができない。何度も角度を変えて、はくはくと、酸素を取り入れる隙間なくキスをする。

「ん、もりやま、さ…」
「伊月、好き」

唇を放せば唇同士を銀糸が繋ぐ。
ふたりは額を付き合わせて目を閉じた。

「好きなんかじゃたりない。伊月…愛してる」


「ねぇ、森山さん?」
「ん?」

二人で森山のベッドに転がってお互いを抱きしめて、愛しい。
伊月がもぞりと森山の胸元で動いた。

「森山さん、今日はどうしたんですか?」
「あー…伊月くんね、キスの場所に意味があるって知ってる?」
「知りませんでした。ネット情報?」

そう、と森山が言う。

思った通りの回答に思わず伊月はため息をつく。そんなことで、なんて思わないでいることはできないというか。
だって恥ずかしいじゃないか。

「…取りあえず、森山さん、殴っていいですか」

本当にキスだけなら良かったものの、結局我慢なんてできなくなっていた。

「あは」

曖昧に笑う森山に、伊月は呆れたように笑うしかできなかった。

そんな愛情表現なんて知らなくったって、あなたが俺を好きなのは知ってるから。

俺だってあんたが好きですよ。


キスに意味がある話


(好きだけじゃなんか違うんだよ)


あとがき

森月の日おめでとう!
ほんとは福月と村月も書く予定だったんですけど、見事にスランプの神様が舞い降りまして。
結局森山さんだけですよトホ…
森山さんの好きには色々あるんだよ!って話です。





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