スノースマイル

「ん…、」

自分の部屋じゃない、
日向の匂いの、暖かさに導かれて、伊月は薄く目を開けた。

目の前に広がるのは見慣れた日向の部屋。身体に日向の腕が掛かっているらしく、動きが制限されている。
小さく身じろぎすると、腰が鈍く痛んだ。思えば身体が重い。

昨日は遅い雪が降った。季節的には珍しくもない。ふいに雪が降るのだってあるものだ。

それを口にしたのは、しんしんと静かに降る雪に、煽られてないと言ったら嘘になるかもしれない。

昨日は4月5日の金曜日の夜。何の因果か次の日が部活休みということで日向の家に泊まりに来ていたのだが、
4月5日という日付を見て「俺たちの日だな」って笑うと日向は何も言わず俺をベッドへと押し倒した。

上着を脱いでいた日向が言うには、「なんかえろかった」とかなんとも言えない理由で、明日も部活なんだからな、と言うと苦笑して手加減するとは言ってくれたが実際手加減なんてあってないようなものだった。

この感覚は慣れない。

どこか体調が優れないわけでもない。ただ、腰が重く、動きたくない。
オーバーワークした時みたい。
強豪との試合の後でもこうはならない。試合の後なら全身がだるいし。

今地に脚を着ければ間違いなく崩れ落ちる。何度も経験した。

終わった時の記憶はない。
恐らく途中で意識を失ったらしいが、身体は綺麗なものだ。
不器用に掛け違いで止められた釦。
日向が面倒を見てくれたらしく、色々な恥ずかしさと嬉しさが綯い交ぜになって顔が火照る。

この感覚にも慣れない。
幸せなのにどこかくすぐったいし恥ずかしい。

伊月、と耳に声が残っている。

少し布団の中へと顔を入れて、日向の腕を浮かす。

自由になった体を反転させて日向の顔を眺めた。

眼鏡を取った日向の顔なんて特に特徴はない。けれど、俺にとっては誰よりも好きな顔だ。
別に顔を好きになったわけではないけれど。

きっと日向の全部が好きなんて言ったところで日向は照れてしまうんだろう。
じゃなかったら話半分に聞き流すかだ。

伊月、と。

日向の言葉には気持ちがいっぱいいっぱい詰まっている。
だから名前を呼ばれるだけでいっぱいいっぱいになる。好きでたまらなくなる。

ああ、幸せだなぁ。

ほふっと日向の胸元に顔を埋めて、その心音を感じる。

唇に微笑みが浮かんでいることに彼は気づいただろうか。

とくんとくんと規則的に打つ音が心地よくて、いつしか、その音に導かれるように、伊月は目を閉じた。


スノースマイル

季節外れの雪の朝

暖かい微睡みの中で。





あとがき

日月企画『Sol*Luna』様に提出です。
素敵企画に参加させていただきありがとうございました!

ただ申し訳ないのが、最近日月をうまく書けなくて。
こんな文章になってしまったのがひたすら申し訳ありません。

それでは、ありがとうございました



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