伝えたいんだ







「相談があるんス」

そう言って黄瀬が俺たちが昼食をとっている教室に来たのは昼休みのことだった。

なんとなく深刻そうな顔をしている黄瀬に思わず俺は身構えた。だってそうだろ。黄瀬は俺たちなんかより笠松の方が気に入ってるだろうし、いつもなんか先輩先輩と犬みたいに煩い。

それがこんなにしおらしくしていて、身構えない方がおかしい。

とりあえず、と、一緒にいた小堀と2人、ここじゃ目立つからと黄瀬を引きずって屋上に出る。
笠松は監督に呼ばれて職員室だ。

そんじゃま、どうぞと黄瀬と向かい合う。

黄瀬は深刻そうに俯く顔を今度は泣き出す直前かのように歪めた。

その、と言う声が震えている。

「す、好きな…人がいるんスけど…」

なんとも言いにくそうに言った。

「なんだ!ノロケか」

思わず拍子抜けすると真剣に聞いてくださいよと泣きが入った。なにが悲しくてイケメンの恋バナを聞かなければならない。

こちとらこいつの存在のおかげで目立つものも目立たない!

そう言いはしなくとも口を尖らせれば小堀がははは、と笑った。

本当は、モテなくても構わないんだ。俺が好きなのはたった1人。この俺の横に座ってる男ただ1人なのだから。

我ながら不毛だ、と思う。
だって男同士だ叶うわけがない。それでも好きな俺は往生際が悪いというかなんというか。
いいじゃないか好きなやつとは少しでも一緒にいたいんだ。

「まあまあ、森山。聞いてやるだけでも」

仕方なさそうに笑った小堀を見て微かに跳ねた心臓ななかったことにしてしまおう。

「で、なんだってんだ黄瀬」

「…その…、好きな、人なんスけど……」

なんだ、俺の知ってる奴か、と思った。
黄瀬の視線は行ったり来たりと落ち着かない。
大きな身体を小さく縮こまらせて、小さく震えている。

なんだってんだ

何もしてないのにいじめてるみたいじゃねぇか。

「ん?」
「――ス」

身を乗り出すと、小さく声が聞こえた。あ?と聞き返すと、天下のモデル様がいよいよ不安そうに寄せた眉と涙目でこちらを見上げてきた。

「か、さまつ…先輩なんス」

「……」
「………」

一瞬、虚を突かれて黙ってしまった。隣を見ればやっぱり小堀も驚いたような顔で固まっている。しまったこれは駄目だ。
これは、――不安になる。

「やっぱりおかしいっスか…」

しゅん、と更に小さくなる黄瀬。こんな様子も犬みたいだなんて今のこいつに言ってもしょうもない。

「いや、待て待て待て」

やっぱり帰るっス、今のは冗談として聞き流してやってくださいと俺たちに背中を向けて自分の教室に帰ろうとする黄瀬を小堀が引き止める。
流石というかなんというか。小堀の方が立ち直りは早い。

俺はというと、意外すぎる言葉に戸惑うことしかできなかった。

「お前は、笠松のことが好きなんだな?」

小堀が確かめるようにゆっくりと、黄瀬の言葉を反芻する。
黄瀬ははい、としっかりと答えた。

俺は、何も言うことはできない。無関係ではないから。
黄瀬はきっと、俺と同じように悩んでいるんだ。
それでも男同士だからと諦めることができないんだ。

それは、俺が苦しいからと捨てた感情だ。諦めて、一緒にいることを望んだものだ。

じゃあ、と小堀が微笑んだ。

「いいんじゃないか、好きで。好きなもんは好きだもんな。頑張れ」

別におかしくなんかないよ、と笑う。




教室の前で黄瀬とは別れた。

小堀に応援された黄瀬は、えぐえぐとモデルが台無しに泣いて、少し目元が赤くなっていたが仕事は大丈夫だろうか。

上手くいって欲しいと思う。
自分が、告白をする勇気がないから、余計に。
誰かに相談する勇気もなくて結論を出した俺とは違う、黄瀬だから、応援したい。

黄瀬が帰ってすぐに、笠松が戻って来た。
小堀はまだ笠松に用があるからと授業が始まる10分前だと言うのに、俺の隣にいた。

「さっき黄瀬がいただろ。どうかしたのかあいつ」

おかえり、と声をかけた俺たちに軽く返して第一声がそれだった。
なんで、と返すとさっきすれ違ったんだと言う。

「なんか目ぇ赤くなってたから。泣いたとかじゃねぇよな」

そう言う笠松の視線は、黄瀬が帰って行った1年の校舎へと向いていた。

あれ、となんとなく他の後輩たちに対するとは違う反応に首を傾げて隣を見れば、小堀がなんとも言えないような苦笑を浮かべた。

「なぁ笠松ー」
「あ?」

笠松が1年の校舎に向けていた視線を上げる。

「お前、好きな人とかいるか?」
「はぁ!?ばっ、いねぇよ!」

真っ赤な顔でいない、ともう一度繰り返して、笠松はまた1年の校舎を見る。
まだ好きではないのか、気になってはいるのか…。

「まぁ、好きな人がいるなら素直になっとけよ」

そう言ってやると、なんだお前と笠松が訝しげな顔をする。

「別にー」

黄瀬の春は近そうだ。とその気配を感じながら、卒業までにそれが叶えばいいけど、と思う。

俺たちを取り囲む環境は、存外悪いものでもないらしい。
黄瀬と笠松は今後どうなっていくのか。応援しかできないけど応援したいとは思う。

俺と小堀の間が縮まることはないだろう。
その事に、小さな痛み。大丈夫だ。もう慣れた。

さぁそろそろ授業が始まる。

席に着こうと、歩き出した俺の手を誰かが引いた。


「森山、後で話があるんだけど」






あとがき

すいません。意味が判らなくてすいません。
初めはですね。黄瀬にアドバイスする小堀の言葉に励まされる森山先輩と、黄瀬に告白されたと相談に来た笠松先輩にアドバイスする森山先輩の言葉に励まされた小堀が一緒に告白する。
って話だったんです。
色んな制約を経てこうなりましたすいませんすいませんすいません





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