mononoke2 | ナノ
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晩御飯にカレーを作っていた夢香は、身動きひとつせずニュース番組を見ている薬売りに視線を送った。


「こっちの世界がどんな感じか分かった?」


数々の事件や政治の問題、今問題視している事柄などが絶えず新しく流れるニュース。薬売りは視線を画面から離さずに頷いた。


「大方、掴めましたね」
「……なんか物騒なとこでしょ」


今流されている無差別殺人事件に目をやり、溜め息混じりに言うと、薬売りは「どこも、同じようなものですよ」と夢香を見た。


「ただ‥此処は人が多く、事の巡りが早いのと、情報がよく、集められている。故に、そのように、感じるのでしょう」
「そっかぁ。まぁ、昔だって辻斬りとかあったんだもんね。じゃあさ、もしかしてこっちにもモノノ怪っているの?」


薬売りがこちらに来た訳だから、いてもおかしくないのかもしれない。興味を持って聞けば、薬売りはふっと目を細めた。


「さあ、どうだか」


受け流すような返事を返され、ふーんと夢香が唇を尖らせる。いないならばいないと答えてくれそうな気がするため、薬売りはモノノ怪に関しても話すつもりは無いということだろうか。
カレーを作り終え火を止めたその時、インターホンの音が鳴った。


「はーい」


返事をしながら玄関へ向かい、のぞき窓を見て口をあんぐりと開けた。紛れもなく友人の実希だったからだ。


(あれ!?何か約束してたっけ!)


一瞬焦ったが思い当たる節はない。
返事をしながら玄関まで向かったため、実は留守でしたでは今更通らないと思い、意を決してドアを開けた。


「どうしたの?」
「猫ちゃん見せてもらおうと思って」
「えっ!」


ねこ。それは咄嗟に薬売りを偽っただけの、存在しないもの。
実希が手にしている買い物袋から覗くねこじゃらしのおもちゃに気付き、夢香は固まる。一方の実希はにやりと笑顔を見せた。


「おっじゃまっしま〜す」
「あぁああ待った待った!ちょっとー!」


夢香の横の隙間を強引にくぐり抜けた実希は、ずんずんと進み居間の扉を開け放った。眉を吊り上げて部屋を見渡す実希の眼は、ねこを探す眼ではない。
そして見つける。そこだけ世界が違うかのような錯覚を受ける存在を。鮮やかな着物、色素の薄い髪、白い肌に隈取りと思える化粧。全部違和感があるが、その全てが異様に美しい。
ソファに身を預けていた薬売りの瞳が実希へと向けられ、目が合った実希は一瞬頬を赤らめた。
しかし平静を取り戻すかのようにぶんぶんと首を横に振ると、声を張り上げた。


「あんたね!夢香の家に飼い猫として上がり込んでるのは!」


びしりと指差した実希に、夢香は「ひぃ!」と青ざめた。


「飼い……猫」
「そう!夢香がそれを許しても、親友のあたしが許さないんだから!」


一瞬驚いたように見開かれた薬売りの眼が細くなり、口の端が吊り上がる。
これはマズイ、と夢香は背中に一筋の汗を流した。こういう時は薬売りは悪ノリするのだ。暫く一緒に居て分かったこと。それを阻止するためにふたりの間に割って入った。


「ちょっと実希…!薬売りさんだよ!」
「薬売り?……だから何」
「違う違う!そういう意味じゃなくて、実希も知ってるでしょ。だってコミックス担当だから」


実希がきょとんと目を丸くした。コミックス担当、と仕事の持ち場を何故今言われるのか。
目の前の薬売りをじっと見て、感じる違和感。上から下まで見る。そして、


「あー!!見たことある!マンガの表紙にいた!」


実希が声を張り上げ、夢香を見た。


「コスプレが趣味ってこと……?」


実希の発言にがっくりと肩を落とした夢香は息を吸い込む。


「違うって!本人なの!」
「えー……」


怪訝な目つきで薬売りを見る。二次元のキャラである存在を、目の前の彼が本人と言われたところで信じられる訳がない。


「この人がモデルってこと?」
「そうじゃなくて、本当に本物なの…!ねぇ、薬売りさん!」
「ただの飼い猫に、そんなこと聞いちゃあ、駄目ですぜ」


ハッと実希が目を見開く。


「やっぱり夢香…!」
「違うってば!もう!薬売りさん話をややこしくしないで!」

薬売りが変わらない表情で口角を釣り上げる。


「にゃあ」


普段の声でねこの鳴き方を真似され、夢香は一瞬目眩を覚えて息が詰まった。


「……ッ!飼い猫ってごまかしたの謝るからー!!」


不覚にも胸を射抜かれた。
しかしこれでは話が前に進まないどころか、自分の信用問題に関わるため、深く頭を下げた。

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