mononoke2 | ナノ
03
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「ふぇろ‥もん?」


薬売りが言い慣れない口調で夢香が言った言葉を反復した。フェロモン、体が発する良い香りの正体と呼べるべきものだ。


「色気的なものなのかなぁ、人間でいうと……なんか、えっと、遺伝子の種類によって香りの感じ方が違うらしいよ。
だから、ひとりがAさんの香りを好みに感じても、Bさんは好みとは限らない」
「よって、好き好きになる、と」
「うん。何か異様に花井さんこの話に詳しかったんだけど。遺伝子の組み合わせが自分と離れているもの程、良い香りと感じるみたい、って言ってた」
「何故、でしょうか」
「健康な子供を産むため、だって」


遺伝子が似通っていては、偏りができてしまう。だから本能的に、香りで違う遺伝子を感じ取るのだと。しかし、それは本当のところどうなのか。花井の話も、聞くところによると……という確かではない情報だった。


「では、私と、夢香さんの間に授かる子、なれば……健康な子に育つ、と」
「は!?ななな何言って!」


途端に夢香の顔はぼっと赤くなった。花井の話を聞いたときに、夢香自身も密かにそう思ってしまっていたからだ。


「そう、なるでしょう。夢香さんは、私の香りを、良いと言った」
「う……」
「それに、私も、夢香さんの香りは、良いと、感じます」
「え!?」


目を丸くして驚く夢香に、薬売りの唇は緩く弧を描いた。本当なのか、しかしからかっているだけとも取れる。
だがこれでは、本能的な相性の面では抜群、と結果がでたようで。恥ずかしくてたまらないが、良い香りと言われて心の底で喜んでしまっている自分がいて。夢香はたまらず立ち上がった。


「もう……!晩ご飯つくる!」
「手伝います」
「結構です!」


荒い足音とともにキッチンへと戻る。そんな状態で集中して料理ができるはずは無く、醤油を入れすぎた辛い肉じゃがとなってしまった。
しかし甘ったるく麻痺してしまった自分の脳には丁度良い。


「あ。薬売りさん、もしや、と思うんですけど」
「なにか」
「薬売りさんって根本的に誰とも遺伝子違いそうですよね」
「……いったい、私を、なんだと」


心外、だというように視線を寄こした薬売りに、夢香は噴出して笑った。
今度は少し、甘さが足りなくなってしまった。味付けはかくも難しい。


→現代編04へ


さて、この中で出てきた映画は、実際にあります。大まかに説明しているので、分かった方がいらっしゃるかもしれませんね。
私は香水の類にとても疎いのですが、凄く興味を惹かれた映画でした。


09.11.03 tokika

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