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夕方になれば人通りも増える。学生が寄り道するショッピングモールは早々に退散すべきだと夢香は考え、ふたりは既に帰り道を歩いていた。
薬売りが分かる人には分かるようだ。それはそうだろう、アニメそのままの格好だ。薬売り用に現代の服を買うべきだろうか。
「薬売りさん、服装なんですけど。行動しやすい服にしてみる?」
「……ありがたい申し出、ですが、このままで良いですか」
「着替えられない理由がある?」
「まあ、そんなところ、です」
秘密事項だろうか。現代の服を無理強いするつもりは無いし、言葉を流されたため深く聞くことは止めた。すると丁度すぐ目の前に職場である書店が見えてきた。
「そうだ。私、あの本屋で働いてるんだ」
「本屋、ですか」
「うん。でも、間違っても行っちゃ駄目だからね」
「何故、です?」
「薬売りさんのことを知ってる人多いと思う。絶対危険だから」
力説しながら帰路を進めば、問題の古本屋も見えてくる。様子を確かめるように薬売りへ視線をやれば、他と違い古びた建物なのに、気にも止めていない様子。
あの古本屋にはきっと問題は無いのだろう。自分が人魚姫の本を引き当てたのは、運が良かったのか悪かったのか。でも隣に薬売りがいる事実を考えれば、とんでもない大当たり、だ。
お気楽にもそんな風に思っていると、通りを歩く黒ねこが見えた。
「あ!ねこ」
動物、特にねこは大好きだ。だからつい、見かけたら追いかけてしまう。それは薬売りが隣に居る状況でも変わらず、夢香は足早にねこへ近付いた。
運良くねこは建物の隅で毛繕いを始めたため、追いつくことができた。逃げる様子は無く、目の前でしゃがみ、じっとみつめる。ビー玉のような黄色い目に、つやつやの黒い毛。
――あのこに似ている。
夢香が懐かしさに浸っていた時、歩調を変えずに歩いてきた薬売りが追いつき、立ち止まった。
「ねこが、お好きですか?」
「うん」
「思い入れでも、ある、ようで」
好意を向けるだけの表情で無いことに、薬売りは気付いた。じっと見つめる瞳は、思い出に浸るように穏やかで暖かだ。
「あは。バレた?実は昔、一瞬ねこを飼ってたんだ」
「……一瞬、ですか」
「うん、怪我してる野良ねこを拾ったんだ。でも看病した次の日に姿を消してて。
そのこに凄く似てたから懐かしくなっちゃった」
「そう‥ですか。では、同じねこかも、しれませんよ」
薬売りの言葉に笑顔で夢香は頭を横に振った。
「違う。尻尾がふたつじゃないから」
その猫は、他のねこと確実に違っていた。間違えようがない、ふたつに分かれた尻尾。
「……その猫は‥」
「めずらしいよね。あれ?どうかした?」
薬売りが目を細め、どこか纏う空気が変わった気がした。夢香は少し緊張しながら問いかけたが、薬売りは「いえ、なんでも、ありません」と答えた。
此処にその猫はいない。今深く情報を聞こうとしても、遅いだろう。薬売りはそう判断した。