mononoke | ナノ
ああ、人魚姫って可哀想
好きな人と一緒になれずに
――ひとりぼっち
でも貴女の方がずっといいわ
自由になれたもの……



人 魚  ― 序の幕 ―



18時。今日1日の仕事が終わり、私は定刻通りに書店を後にした。
職場ではレジを担当しているため立ちっぱなしだ。
そんな脚はすっかりむくんでいるが、就職して1年も経てばもう馴れたもので、
15分程歩いた先にあるひとり暮らしのアパートを目指し、比較的軽い足取りで歩く。



いつもの帰り道。
しかし、何かが違った。



(あれ、古本屋?)



曲がり角、普段通らない道の脇に、あきらかに古い出で立ちのお店が見えた。
表に掛かる看板には『古本屋』の文字。


(あんなとこに古本屋あったんだ……)


元々本の類が好きなため、少し興味を引かれて帰路を外れる。
別段これから特に予定は無いため、ちょっとした好奇心で古本屋の扉を開いた。


新しい本には無い魅力、そして掘り出し物があるかもしれないという思いから、わくわくしながら中に入る。
店内に入ればいっきにほこりっぽい空気が広がり、思わず咳き込んだ。


そんな私に、カウンター越しのお婆さんがくしゃりとしわを深めて優しい笑顔を向けてくれる。
私は少し戸惑い、苦笑いで返した。


「すいません、えっと……何かお勧めの本とかってありますか?」


私の問いに、お婆さんはゆっくりと人差し指を上げ、奥の本棚を指す。
だがそれ以上の説明は無かった。


「ありがとうございます」


お礼を言い、お婆さんの指した本棚に行く。
なる程。とても読んだこともないような古い本がずらりと並んでいた。背表紙は日に焼けて黄ばんでいるため、並んでいる本全てが同じに見える。
本の内容の判断がつかず、手に取る本に悩んでいたが、すぐにある一点に瞳は捕らわれた。


(なんの本だろ……)


分厚い本の間に、とても薄い本。
かつては鮮やかな色の本だったのだろう。
他の黄ばんだものとは違い、色々な色が見え、存在感があった。
その本を手に取る。


ペラペラとページをめくれば、江戸時代の歌舞伎絵を思わせるような絵が続く。
まるで自分が好きなアニメ、モノノ怪の一部であるかのような魅力まで感じて嬉しくなるのは、そこまでモノノ怪に惚れ込んでいるということか。


(昔の絵本かな?)


絵の側に添えられている文字は古く達筆で、とても理解できなかった。
しかし絵を見ているうちに気付いた。
ここに描かれているのは、殆どの人がよく知っている物語だということに。



「これ、人魚姫だ」


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