mononoke | ナノ
薬箱に描かれている目の模様を見たときに感じた気持ち悪さ。
それと同じようなものをまた感じ、無意識に目を瞑る。


すると直ぐ、すっ…とあらゆるところの痛みが引いていった。
同時に気持ち悪さも無くなる。
驚いて瞼を上げれば……眩しいくらいに真っ白な世界が広がっていた。


(あれ……私、死んだ?)


もう薬売りに斬られてしまったのだろうか。
魚の尾は無くなり、脚がある。
よく分からないが、何もかも楽になった気がした。


(真っ白ってことは……少なくともここは、
地獄みたいな所じゃないよね)


今居る世界の眩しさに目を細めながら、ほっと息を吐く。
どうやら楽になることができた。元の世界に帰ることが出来なかったのは悲しいが、
痛みや悲しみや恐怖でそれどころではなかった。



「おい」



突然後方から声がかかった。
――薬売りの声音。
でも、どこかぶっきらぼうな色を含んでいた。
まだ、終わっていないんだ……
そう理解し恐る恐る振り向けば


風も吹いていないというのに、長い銀色の髪をなびかせる
褐色の肌に黄金の着物をまとった人物が立っていた。
体中にあるはずの金色の模様は無いが、
誰か……というのは一目で分かる。
その者の呼び名は知らないわけだが。


目と目が合い、徐々に自分の心臓の音が耳に響きだす。
目の前の男が目を細め、人とは思えない真っ青な色を持つ口を開いた。


「お前、俺達のことを知っているだろう」


……!


「まぁ、知っているのならば‥話は早い。
俺が奴と変わるには、お前だけが知る
椿の想いとやらを言ってもらわねば、ならん」


「…………」


そう言われても、私の声は出ないのにどうすれば良いというのだろう。
困惑して眉を下げれば、彼は私の傍まで寄ってくる。
すると薬売りとは異なる紅い爪を持つ指先を
いっさい無駄の無い動きで私の喉までもっていき、
少し爪が触れるか触れないかの位置で添えた。


「言葉を紡ぐことを、諦めるな。
此処ではもう……声は出るはずだ」

「!?」


声が……出る?


そう意識すれば、カラカラに喉が渇いていく。
何故か声を出すのが怖くなっている自分がいるのに気が付いた。


「………っ」

「恐れることは、無い」

「…………」


先程よりも優しい声色に聞こえ、いつの間にか入っていた肩の力を抜く。
そして、ちゃんと椿さんのことを思い出すために瞼を閉じた。



――椿さんの想い。
彼女によって、何故モノノ怪が形を成してしまったのか

……椿さんの願いは何なのか

綾織さんへの恨みや沙流々さんへの嘆き……それは違う。





椿さんは言っていた。





「……自由に、なりたい」



カチン




みるみるうちに、目の前にいる彼の肌に
金色の模様が広がっていく。


「解き放つ」


呟くように、だがしっかりと彼は言った。


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08.09.19 tokika

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