mononoke | ナノ
「ね……ねぇ、なんで持ってるの?」


ひの依さんから震える声で投げかけられた疑問。


――ひの依さんの部屋から盗んだから……
そう正直に答えを返して謝りたいのに、私にはそのすべが無い。


後悔の気持ちでいっぱいになる。
いくら現実と自分を繋ぐものと思えたとはいえ、
本来ならば許されない行為だ。
絶交といわれてもしょうがない……と覚悟をするが、
ひの依さんは俯いたまま何も言わない。


すると綾織さんがずっと怯えていたのとは打って変わり、
凄い剣幕で声を張り上げた。


「ひの依ぇえ!
あんた…!あんた燃やしたんじゃなかったの!?」


ひの依さんが肩を震わせる。


「あ…あたしはちゃんと捨ててきたわ!!」
「な…っ!燃やせって言ったじゃない!!」
「知らないわよ!火をつけたって燃えなかったんだから…!」


このふたりは何を言い合いしているのだろう……。
燃やせって言った?捨てた?
意味がわからない。
これはひの依さんの部屋にあったのに。


喉の痛みでおぼろげになる意識の中、一生懸命考える。
すると綾織さんは先程の逃げの態勢からは想像もできないくらい、
強い足取りで薬売りさんのもとまで近寄り
ぱしっと、絵本を奪い取った。


そして着物の袖から小さな箱を取り出す。
その箱から取り出されたものは……マッチだった。


(燃やされる…!?)


私にとって重要な存在であるだろう絵本。
慌てて取り返すために立ち上がろうとするが
魚の尾びれでは立てる訳が無く、バランスを崩して手を前につく。


綾織さんは慣れた手つきでマッチを擦り、
絵本に近づけた。
途端に火が燃え移る。


「ふん……ひの依、嘘をついたね。
燃えるじゃない」


紙でできているため、当たり前ながらよく燃える。
綾織さんは火傷しないよう、手に火が近付くと私の足元の水溜りに落とす。


――ジュッ*


見るも無残に絵本は形を無くす。
綾織さんは肩で息をしながら、微笑む。



――ひどい。あの人から貰ったのに!




『!?』




――今、私は何を思った!?


自分が思ったことに驚く。
あの人から貰ったもの……そんな記憶は無い。
なのになんで…!


『……ッごほっごほっ』



――痛い……もう耐えられない。
いっそのこと、早く薬売りに斬ってもらって楽になりたい。


あまりの辛さに脂汗をかきながら、そのまま私は意識を手放す。
手放す直前、ちりんという音が聞こえ
倒れる私の体を薬売りが支えてくれた気がした。


もう自分はモノノ怪だから、
優しくなんてしてもらえないと思っていたため、薄れゆく意識の中嬉しくなる。


――最後に薬売りの顔が見たい。


しかしもう閉じた瞼を上げる力は無く、
そのまま私の意識は暗い闇に包まれた。


五の幕へ

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