samurai7 | ナノ
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朝が訪れようとしていた頃。
複数の目立つ人影が、癒しの里の入口である大門の前へと姿を現しはじめていた。


「もー!ユメカくん見つかんないじゃないか!
どうなってんの!?テッサイ!」


語気を強めているのは、一目見れば清廉な人物であるかのように印象を受ける、蒼く真っ直ぐな髪をもつウキョウ。
見目とは裏腹に我が儘放題な主君であるため、仕えるテッサイはほとほと困り果てていた。


「そう言われましても、目撃情報が無いのです」
「だーかーらぁ。そんなのっておかしいじゃないって言ってんの!
それとも何?かむろ達は女の子ひとりすら見つけることが出来ない無能な集団だったわけ〜?」


反応を試すかのように挑発したため
傍に控えるかむろはぐっと息を詰まらせた。
伝わってくる気持ちを汲んでか、テッサイは主に対して失礼にはならないように言葉を返す。


「若、かむろも必死に捜索に当たっております故」


途端にウキョウの顔から笑みが消え去り、
じろりとテッサイを見下ろした。


「必死とか関係な〜い。見つかんなきゃ意味ないの!」


もっともなことを言われ、テッサイも言葉を詰まらせる。


「ユメカくんは怪我してるんだから早くしてよね」


眉を吊り上げながら更に言葉を付け足したウキョウに、テッサイは頭を垂らし「御意」と返事を返した。
その様子を後方で見ていたボウガンが密かに目を細める。
ユメカが怪我をしている――そのことに対する反応だった。


一昨日ウキョウの意思で御殿まで連れてこられたユメカ。
しかしボウガンが目を離した隙に、ウキョウの部屋から忽然と姿を消していた。
捜索した結果、ウキョウの部屋の真下にあたる木と地面に不自然な血痕が見つかったため、
自らの意志で飛び降りたのか、はたまた落ちたかで、ユメカが怪我をしているのは確実……。


怪我をしているとはいえ、ユメカ自身が見付からないということは
うまく逃げきれたのだろうが。


(逃げるなら協力するっつったのに……)


一度手を貸そうと思っただけに、ユメカが怪我をしてしまったという事実は
ボウガンの心に少しの後悔を生んだ。
あの時自分が一緒についていれば、怪我をするということは避けられたかもしれないのだ。
そう考えれば、何故か悔やみきれない。
しかしそんな風に気にしてばかりいる自分に違和感を覚え、ボウガンの眉根は自然と寄った。


明らかに不機嫌そうに腕を組んだボウガンの姿に、離れて立つヒョーゴが気付き疑問に思いながら一瞥を送る。
しかしテッサイが「開門!」と、未だに開かない大門に向かって叫んだため
視線はすぐそちらに移った。
大門の上部から複数の機械の目玉が伸びてくる。
門の前に並ぶ面々を眺め、機械音と共に何処からともなく声が響いた。


「暫くお待ちください。あと一刻で開門時刻になります」


ウキョウの眉間に皺が寄った。


「はぁ?一刻も待ってらんないよ」


後ろを振り返る。
その視線は、ヒョーゴの隣に黙したまま立っていたキュウゾウの紅い瞳とかち合った。
キュウゾウは正面の門を見ることで合った視線を逸らし、風を切るように素早く動く。
あっという間に機械の目玉はキュウゾウの刀によって斬り壊され、制御を失った門は、鈍い音を立てながら開いた。


「うんうん。よいね〜。従順で」


満足そうな笑みを浮かべ、門を潜る。


「機械のサムライが居たってことは、キララくんがいるよね〜。
今頃何してるかなー」
「若、恐れながら……。
何故そこまで、謎の娘と農民の娘に執着なさるのです」


ウキョウはこれまで、気に入った女を自分の傍に置くということは度々していた。
女達は御側女衆と呼ばれ、ウキョウの世話と遊び役を司る。
贅沢な暮らしもできるため、誘いを断る者はこれまで無く
すんなりと自分のもとに置くことができていた。
だからふたりに拒絶されたということは、こだわる原因にもなっただろう。
しかし、ウキョウはそんな単純な人物では決して無い。
仕えているうちにテッサイは分かるようになった。
ウキョウは表の顔をうまく使い、内には何かを秘めている。


探る様子に「わかんないかなぁ?」と、ウキョウは目を細めて薄く微笑む。


「ユメカくんは、云わば珍しい花だよ。綺麗に咲いてる、ね。
だからちゃんと摘んで飾ってあげないと。
キララくんはまだ蕾だから、育ててあげたいじゃない」


意味不明な例えで答えを返され、テッサイが納得がいかないように「はぁ」と返事を返す。
主君の真の考えは、問うたとしてもこうして計り知れない。
テッサイはウキョウの真意を見極めようと行動を起こしているが
全てが空振りに終わっていた。

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