samurai7 | ナノ
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主機関を失った都は止まること無くカンナ村へと向かう。その都の中を、ユメカとボウガンは脱出するべく、御座船を目指し走っていた。


「ユメカ!此処だ」


ボウガンに続いて部屋へ入れば、ほの暗い室内に無数の船が詰め込まれているのが分かった。後にウキョウや皆も来る場所だ。まだ壊されていない船を見てユメカがそう思った時だった。視界に映る物陰が動き、ボウガンが腕を構える。


「誰だ!」
「わっ!撃たないで下さい!」


飛び跳ねるように立ち上がった者の声に、ボウガンは驚く。


「ロクタか!」
「はい…!」


顔が見える位置まで前に出たロクタは、ふたりを見て安堵する。ユメカもまた、ロクタの無事な姿に胸を撫で下ろした。


「お二人とも無事でよかったです…!」
「ロクタも…!でもごめんなさい!私じっと待っていられなくて……」
「いえ!自分が力不足だったばかりに置いていってしまい……謝るのは自分の方で!だから…!」


ユメカとロクタは似ているのか、自分が悪いと責任を感じ熱くなっていきそうな謝り合いに、ボウガンは少々呆れながら二人の肩を叩いた。


「そういうのは後だ。今は脱出が先だろーが」
「はっ、そうですね…!失礼しました。準備はできてます!発進口を開けますので搭乗して下さい」


ロクタの指示に従い、ボウガンとユメカは御座船に乗り込んだ。暗い部屋に光が差し込み始め、発進口が開いていく。ユメカの目の前に広がるのは無数に上がった煙と飛び交う野伏せりの大群。煙のお陰で野伏せりに気付かれずにはすみそうだ。
まだ此処で戦っている皆を思い、キュウゾウを想い、目を閉じた。


(まだやることはある。外で皆を待つ!)


ロクタも搭乗し操縦席へと座ると、船は光の中へ飛び込むように発進した。












都の天守閣へ向かうカツシロウは廊下を駆ける。ヘイハチとゴロベエが主機関と共に堕ち、彼らの死を意識した極度の恐怖と緊張が襲う。頭がおかしくなってしまいそうで、刀を必死に振るうことしかできない自分に腹が立った。

集中力が散漫になっていたのか、脇から出てきた兵の攻撃に遅れをとった。鉄砲の弾が腕に被弾する。痛みが襲い声を上げ、奮起しながら刀を薙いだ。斬られた兵は倒れる。しかしその背後にまだ鉄砲を構えた者がいて、更に反応が遅れる。死にもの狂いで斬り掛かろうとするが、刀を振るう前に敵が倒れた。いったい何故。しかしその理由は直ぐに理解できた。敵の背後にはキュウゾウが立っていたからだ。


「キュウゾウ殿!」


一瞬視線が合ったが、何も言わずに先へ行こうとするため、カツシロウは更に声を掛けた。


「ユメカ殿はボウガン殿と共に脱出しました!」
「そうか。ならば天主を討つ。……行くぞ」
「はい!」












天守閣――。既にウキョウを捕らえたカンベエ、シチロージ、キクチヨは思案していた。何故なら各々探し捕らえた結果、此処にウキョウが三人集まってしまったからだ。
どれが本物の天主なのか。先代天主の御複製故にできるそっくりの影武者。痺れを切らしたキクチヨが声を荒げる。


「面倒くせえ!こうなったら皆叩っ斬る!それで仕舞いよ!」


大太刀を向けられ、ウキョウ三人は悲鳴を上げる。


「カンベエ様に似てきましたな」


シチロージの言葉にキクチヨは反抗的に「ふん」と返し、怯えきっている三人に近付く。その瞬間、何かに気付いたようにウキョウの一人に顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。


「どうした、キクチヨ」
「間違いねえ!こいつは農民だ!俺様はな、三日前まで染み込んだ野良仕事の匂いを嗅ぎ分けられるんだ!」


残りの二人もキクチヨは嗅ぎ、農民だとあしらう。怯えきったウキョウの形をした一人に、カンベエは声を掛けた。


「お主、名は何と申す」
「助けてくんろー!良い暮らしさせるからって、オラ達つれてこられただけだぁ!」


その言葉に慌てたように、別のウキョウが声を上げる。


「しゃべんな!何もしゃべっちゃなんねって、御天主様言ったでねえか」


何の事情も知らない複製の農民達。それ等を良い様に連れて来て利用していたのが分かり、キクチヨが噴気口から蒸気を勢い良く出す。


「あんにゃろう!自分だって元は農民のくせしやがって、どこまで農民をコケにすりゃ気が済むんだ!うおおおおお!」
「キクチヨのお陰で、余計な殺生をせずに済みました」


シチロージの言葉に、カンベエは頷く。キクチヨもウキョウの形をした三人を改めて見る。


「肥やしに礼を言うこった。本物はどこだ!」
「知らねえ!ただオラ達は此処に居ろって言われただけだあ…!」
「なにい!」


胸ぐらを掴み本当のことを吐かせようとするキクチヨに、カンベエは「キクチヨ!」と止めに入る。


「よせ。無駄だ」
「……ふん」


解放された農民達を見て、カンベエは「行け」と声を掛ける。
ほっとした三人は口々に礼を言いながら逃げ出したが、扉にたどり着く前に悲鳴を上げ倒れてしまう。ウキョウの側近であるテッサイが現れ、斬り捨ててしまったからだった。


「肥やしの匂いで分かるとは、若も驚くであろうな」


「なんだテメエは。なんで殺した!こいつ等は関係ねえだろうが!」


キクチヨが叫んだ後、カンベエが静かに問う。


「サムライか」
「昔はな。だが今は、御天主様に仕える身」


長ドスと鞘を握り直しながら答える。


「だからその天主に用があんだよ!」


キクチヨが斬りかかったが、テッサイはその単純な動きを読み、キクチヨの利き腕を刀ではねる。その腕は向かって来た勢いのまま、襖の壁に掴んだままの刀の切っ先を突き立てた。一方のキクチヨは斬られた勢いで巨体を飛ばされてしまう。

テッサイはそのままカンベエへ向かうが、避けられたと分かると間を空けずにカンベエの奥に立つシチロージへと刀を振り下ろす。熟練された動きに追いつけず、シチロージは間一髪で避ける。そのテッサイの背をカンベエの刀が狙うが、気付いたテッサイはシチロージの背後に回り、シチロージを盾にしてふたりの動きを封じた。


「ここは退け!お主達の武勇を思えば、此処で散らすのは余りにも惜しい」


倒れていたキクチヨが無くなった腕を押さえながら立ち上がる。


「寝言言ってんじゃねーよ!おめえもおめえだ!あんな野郎の言いなりになんかなりやがって!それでもサムライか!?」
「黙れ!いかな主君であろうとも、お仕えした使命を全うしてこそ、もののふの道というものであろう!」


熱くなり言葉を返すテッサイに、シチロージは少しの隙を感じた。手にしていた槍の柄を、動きを封じられた姿勢のまま器用に持ち替えテッサイを突く。
後ろに押されたテッサイはよろめき、シチロージはその腕から逃れる。体勢を崩されたテッサイにカンベエが斬り込もうとしたが、周りを取り囲んでいた都の兵が連射銃で応戦した。


「ぐあぁ!」
「カンベエ様!」


無数の弾がカンベエを襲い、勢いで倒れる。シチロージがすぐさま駆け寄り、槍で床を畳返しの時の様に盛り上げ、目の前に壁を作る。その間にもシチロージは脚に被弾し、血が滲んだ。


「おりゃあああ!!」


一方のキクチヨは銃を撃つ兵をどうにかしようと、身ひとつで立ち向かう。しかし無数の弾に阻まれ近付くことさえも出来ずに途中で膝を折って倒れてしまった。


「いてェ…!」


無情に都の兵は倒れたキクチヨへ更に銃を撃つ。その現状にシチロージとカンベエが危惧し様子を伺おうとするが、兵は矛先を変えて銃を撃ってくるため移動できずに再び壁へと身を隠す。
テッサイはいつまでも撃ち続ける兵に手を挙げて止めさせた。


「貴様達は正にサムライだ。その誇り、その生き様、心底羨望の念を禁じ得ぬ。故に貴様達の最後、せめて刃で送ってやろう」


かつてサムライだったテッサイ。故に引き金さえ引けば誰でも扱える銃で死ぬ事に対する不憫さが分かった。
サムライとして戦った最後を。そして自分も、せめてこの者達の前だけでもサムライで有りたかった。
長ドスを構え直したその時、背後に異変が襲った。前触れもなく襖が破壊したのだ。


――きゃつらの仲間か!

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