samurai7 | ナノ
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夜が明けるとすぐに村の要塞化が始まった。守りを固め、攻める態勢を整える。
村人達の不安げな様子は拭いきれないが、心が結束するのは時間の問題に思えた。


ユメカはゆっくりと今いる陳守の森を見渡した。夜に感じた雰囲気とはまるで違い、木漏れ日が射し込み心地良い。
少し歩くとキララが泉の水に足を浸し、穏やかな表情を浮かべて座っているのに気がついた。
神秘的な雰囲気をまとったキララに引き寄せられるようにユメカは近付き、隣に腰を下ろすと光を反射してゆらゆらと輝く水に手を浸した。


「気持ちいい」
「カンナ村の水、とくに此処は、とても澄んでいて自慢なんですよ」
「うん。こんなに水が綺麗だなんて思ったの、初めて」


空気も虹雅峡に居たときと比べれば明らかにおいしくて、木の葉のそよぐ音や、鳥の鳴き声も聞こえてくる。
自然の中にいる今、ゆっくりと穏やかな時が流れているように感じた。
しかし現実は戦の最中。この場はとても危うい美しさだ。


ユメカが水から手を抜いた時、村娘三人が明るい声でキララの名を呼び近寄ってきた。
皆総じて笑みを浮かべている。おかっぱに髪を切り揃えた娘が興奮した面持ちで口を開いた。


「キララ、聞きたいことがあるだ。あのおさむれぇ様」


その様子にユメカはカツシロウのことを聞きにきたのだと直ぐに理解した。しかしキララはその真意が分からなかったようで、自分の心の内に思い描いた人物を語る。


「みんな強くて頼りになる方々です。特にカンベエ様は……」
「ああ、それはいいだ」


男勝りな娘がキララの言葉を遮り、おかっぱの娘が補足する。


「一番若くて凛々しいおさむれぇ様の話だぁ」
「……カツシロウ様、ですか?」
「「「カツシロウ様!」」」


名を聞いただけで盛り上がる三人。すかさずどんな人物なのかと娘が問えば、キララは悩むように表情厳しくした。


「あの方は……良い人です。
でもおサムライ様としてはまだ……」


恋する乙女が希望していた答えでは無いらしく、おっとりとした小柄な娘が「そっだらことでは無くってぇ」と、恥ずかしそうに声を上げる。


「許婚でも、おるだべか?」
「さぁ、聞いてませんが」


そっけないキララの答えに、何かを隠していると思った三人が食い下がって問い詰める。
隠すも何も、そんな浮いた話なんてカツシロウとしていないキララは困ったように眉尻を下げた。


「自分で聞けばよいではないですか」
「「「いやーん!恥ずかっしぃ!」」」


囲んでいた三人がキララにツッコミを入れるように、ぱしっと叩いた。
この位の歳になると、女の子のノリはどこに居ても一緒。キララは普段しっかりしていて大人びているように感じるが、同じ年頃の娘が集まるこの場では表情に歳相応の幼さが垣間見えた。
楽しい雰囲気にユメカがつられて笑った時、男勝りな娘と眼が合った。


「あんた、確かユメカっていったか。キュウゾウ様とはいつから好い仲なんだべ?」
「へ!?」


急過ぎる予想もしていない質問に、ユメカが慌てふためいた。


「なな、なんで!キュウゾウとは全然そんな仲じゃないよ!」


どうしてそう思われたのか。自分が想いを寄せているのは確かだが、そんなの一方的なものだ。
あやふやな返事でもして、この後真相を確かめようとキュウゾウに聞かれでもしたら軽く死ねる。そう思って必死に否定する。
すると村娘達の興味がユメカに移り、茶化す様な笑みを浮かべた。


「またまたぁ、隠すことねぇだ。おら達しっかとこの眼で見たんだべ」
「んだんだ」
「昨夜ふたりっきりで此処さ来てたでねぇか」


ふたりで来た、それは違う。


「たまたま!此処で会ったんだよ」
「でもぉ、ほらぁ」
「?」
「手に口付けされてたでねぇか」
「っ!!」


一気にユメカの顔が赤く染まる。それが真実であるという証拠だ。キララも驚いてユメカを見た。


「それは…!私が草で指を切ったから舐めてくれ…て……」


言いながら小さくなる。説明で完全に墓穴を掘った。恥ずかしくてたまらない。
村娘達は「やっぱり好い仲なんでねぇか!」と、騒ぎ立てる。


「で、で!キュウゾウ様っておっかなそうだけんど、やっぱユメカの前だと違うんだか?」
「ひゃー!羨ましーい!」


勝手に話が進んでいく様子にユメカはついに音を上げた。


「だからそんな仲じゃ、キララちゃーん!」


思わず助けを乞おうと振り向けば、頬に赤みが注したキララとばっちり目が合った。
どうやら聞いたことをそのまま想像してしまったらしく、気まずそうに俯き小さくなる。
ユメカもキララの様子に更に恥ずかしくなり声を張り上げた。


「誤解だからー!!」

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