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「いやああああああああああ!!!」
悲痛な叫び声。
近くで響いたその声に、座ったままうとうとしていたヘイハチがハッと覚醒した。
目の前にはユメカが布団から半身を起こし、頭を抱え込み肩で息をする姿。
「ユメカ!どうしたので!?」
驚いて声をかける。
だがその声は届かないようで、ユメカは嗚咽を漏らしながら涙を流していく。
先程までヘイハチの目の前で静かに眠っていたはずのユメカ。
しかし、何かの糸が切れたかのように錯乱していた。
ヘイハチがユメカの肩を力強く掴む。
「ユメカ!!」
顔を此方に向けさせるが、向き合ったはずのユメカの瞳は虚ろで、
自分の姿を映してはいないとヘイハチは気付いた。
「キュウゾウ……っ」
「…………」
――先のサムライの名……
急にユメカの力が抜け、後ろに倒れそうになる。
咄嗟にヘイハチは自らの手をユメカの背中に回し、自分の身に引き寄せた。
華奢なユメカの体は、すっぽりと腕の中に収まる。
(なんて細い……)
「キュウゾウ……いやだ……死なないで」
今にも消え入りそうな声を漏らし、ヘイハチの服を弱々しく掴む。
ヘイハチは驚き、目を見開いた。
――愛するものが死ぬ夢を?
そっと抱く腕に力を込める。
「ユメカ」
ユメカは大粒の涙を零していく。
ヘイハチは無意識に右手をユメカの頭に置こうとして、
ソレが自分の視界に入り、すんでのところでその手を止めた。
――自分の手には手袋がはめられている。
一瞬の間を置き、その手袋を口で引っぱり取る。
そしてふわりと、ヘイハチの手でユメカの頭に触れた。
優しく、優しく撫でる。
「ユメカ、大丈夫。それは夢ですよ」
「……う…っ…」
「夢です」
はっきりと、言う。
優しく、落ち着くように撫でる。
ゆっくりと、ユメカが顔を上げた。
「………ヘイハチ?」
「……!」
自分の名を呼ばれるとは思っていなかったためヘイハチは目を見開いた。
向けられたユメカの濡れた瞳に、鏡のように自分の姿が映る。
そっとユメカの手が伸び、ヘイハチの頬に添えられた。
ユメカの表情がほっとしたように変化する。
「ヘイハチ……よかった」
「…………」
すうっとユメカの瞼が閉じられ、添えられた手は下ろされた。
静寂が広がる。