samurai7 | ナノ
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その言葉を聞き、考え込むようにボウガンの顔から笑みが消えた。


「名前……ねぇ、確かにそれはここに連れてこられてからの呼び名だ」
「連れてこられて?」
「ああ、家も金も無く、ここいらでのさばってたところを
若に連れてこられたんだ。
ここで自分の用心棒として働かないかってな」
「へー……」


そういう意味では、ウキョウに救われたという人は多いのかもしれない、とユメカは思った。
決して意見を無視して、此処にキララとユメカを連れてきたのは良いことでは無いが。


「まぁそんなことで、俺自身名前は知らないねぇ。
それまでは『おい』とか『お前』としか呼ばれなかったし」
「あ……っごめん」


聞いちゃいけないことだったかなと思い、咄嗟に謝る。
だがそんなことは気にしていないという風に、
ボウガンの顔に笑みが戻った。


「そういやこれ……」
「なに?」


ボウガンが自分の帯のあたりを見る。
会ったら返そうと思っていたユメカの髪飾り。
しかしそれがついていないことに気付いた。
しまった、という風に額に手を当てる。
今朝方着替えた時に、部屋に置き忘れたのだろう。


「いや、何でもない。また今度渡す」
「?」


「じゃ、そろそろ出るぞ。
もうすぐ若が帰ってくるかもしれねーからな」
「うん、話せてよかった。ありがとう」
「いや。
……最後に俺からもひとつ聞いていいか?」


もちろん、とユメカは頷く。
一息置き、ボウガンは口を開いた。


「此処から逃げたいか?
そう思っているならば………俺は協力する」
「え……!
…………ううん。大丈夫だから」
「……そっか」


ボウガンはひらりと手を上げ、じゃあまた、と振り返らずにウキョウの部屋を出て行く。
ウキョウの部屋でユメカは再びひとりになり、
心の中でボウガンに謝った。


(嘘ついてごめんなさい。ひとりで此処から逃げるよ)


逃げたいと言えば、ボウガンが協力してくれただろう。
でもそれに甘えれば、ボウガンが裏切り者になってしまう。
自分なんかのためにそんな危険な目にあわせたくないし、
先程の話を聞き、ボウガンの居場所を取りたくなかった。


静かにウキョウの部屋の窓を開ける。
すると広がるのは深い暗闇。
すっかり夜が更けていたことに一瞬途惑うが、下を伺った。


(足場がある)


予想通り下の階の屋根がすぐそこにあった。
それに沿って行くしか他に脱出する方法は無い。
正面から堂々と出ていくのは、そろそろウキョウが戻ってくるかもしれないから危険だった。


深呼吸をして、心の準備をする。
最上階ともなれば足が竦むほど怖いが、そうも言っていられない。


(早く戻らないと)


カンベエ達みんなに迷惑をかけるのは嫌だった。
自分は戦えないため、普段から皆の荷物となり迷惑といえる。
だからせめてこういう時に、ひとりで行動して解決する力をつけなければとユメカは意気込んだ。
窓に足をかけ、そっと屋根に足を下ろす。


「ボウガン、ありがとう」


協力すると言ってもらえたことは、本当に嬉しかった。
小さい声でお礼を言い、ユメカはウキョウの部屋を後にした。

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