samurai7 | ナノ
07
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外は明るい月明かりに照らされ、とても穏やかな夜だった。
張り出し縁に横にして置いてある太い木の幹に、
カツシロウとユメカふたりで座る。


「どうしたの?」
「いや……な」


言葉を濁しながら、竹の葉にくるまれた何かを取り出した。
カツシロウはそのまま結ばれた紐を解き、包みをめくる。
すると現れたのは、桜の花を模った
甘い香りを漂わせるしっとりとした和菓子、上生菓子だった。


「わ!どうしたの?」
「今日、茶屋に行ったからな。ほんの土産だ」
「カッツン……ありがとう!」
「れ、礼を言われる程では……」
「ううん!嬉しいもん、甘いもの大好き」


満面の笑みを浮かべたユメカを見て
カツシロウが照れたように顔を反らした。


「食べていい?」
「あぁ、勿論」


カツシロウの了承を得て、
葉っぱの上に置いてあるようじを使って切り、ひとくち口に運んだ。


「おいしい」


久しぶりに食べた甘いものに、思わず顔がほころぶ。
その様子を見たカツシロウも、満足したようにユメカを見た。


(カッツンって綺麗な瞳だなぁ)


ツンとした形の良い目。瞳はとても深い緑だ。
ユメカはふと、カツシロウの瞳に魅せられた。


人を斬ったことがない、サムライ。
純粋な色を持つ瞳が物語っているように思えた。
だがいずれ、この瞳は次第に曇っていくのだろう。


それが果たしてカツシロウにとって良いことなのか……。
しかし、これはカツシロウ自身が選んだ道。


だが、ユメカには避けたい未来があった。


「カツシロウ」


普段の愛称ではなく、名を呼んだ。
違和感を覚えたカツシロウは少し間を置き、何だ?と聞く。


ユメカは言うべきか迷った。
しかし、今この時を逃してしまえば……言えなくなってしまうような気がした。


カツシロウはこれから『サムライ』の姿に、悩み、苦しむ。
優しく正義感が強いため、人斬りをした後、次第に周りが見えなくなり、
自分の声が届かなくなる時がくるだろう。


(今、言わないと)


ユメカは決心して、口を開いた。


「あのさ……、鉄砲ってどう思う?」
「てっぽう……?野伏せりが使っている飛び道具のことか」
「うん」
「あのようなもの、サムライの使う道具では無い」


カツシロウらしい、真のサムライ像を元にした意見だ。


「うん。
……じゃあさ、もしも、
野伏せりと戦ってる時に、刀が手元を離れてしまって、
足元に鉄砲が落ちてたら……どうする?」
「…………」


瞼を閉じ、真剣にカツシロウは考える。
少し経って目を開けるが、伏し目がちに答えた。


「……すまない。
私は……戦を体験したことが無い故、自分の行動がよめぬ」


この答えはユメカにとって予想外だった。
今のカツシロウなら、サムライらしく
鉄砲は使わぬと答えると思ったからだ。


それだけ、カンベエに認められない自分の今の位置に
カツシロウは悩みを抱えているのだろう。


「じゃあさ、お願いしていいかな」
「……?」
「そんなことになっても、鉄砲は使わないで」
「……何故だ?」


カツシロウは不思議そうに言葉を返す。
一方ユメカの中で思い出されるキュウゾウの倒れる姿。


「鉄砲は……簡単に人の命を奪っちゃうから」
「…………」


あまり深刻に言ったら不自然だろうから笑顔でお願いしようと思ったユメカ。
しかしとてもじゃないが出来なかった。
溢れてくる辛い思いが涙となるのを、必死でこらえる。



「約束する」



直ぐに返ってきた答えに驚いてカツシロウを見れば、真剣な表情。


「ほんと……?」
「武士に二言は無い」
「……ありがとう」


約束してくれたことが嬉しくて、
不安な気持ちを一新しようと空気を吸い込んだ。


「カッツン!じゃあ約束の指きり〜」


そう言って小指を出し、半ば強引にカツシロウの小指に絡める。
すると、ふっとカツシロウが笑った。

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