samurai7 | ナノ
04
29 / 177

姿が見えなくなるとボウガンは舌打ちしながら頭を上げ、
自分の斬られた左腕を見やった。


「良い斬れ味ってところがムカつくぜ」


テッサイは傷跡を見て、叶わない相手だったと納得したのだろう。
元ごろつきであるボウガンと、大戦を生き延びサムライの道を歩むものの差は大きい。
しかし任務に失敗し、ひょっこり帰るしかなかった自分にボウガンは腹が立った。


「無様だなァ」


ボウガンの前方から面白がった様な声音が掛けられた。
今の自分に相応しい言葉を言われ、睨みながら声のした方を見る。


「……ヒョーゴさん」


目の前には虹雅峡差配アヤマロの用心棒――
自分の先輩と呼べるヒョーゴが、
少し嫌味な笑みを浮かべ、こちらを見ていた。


「まぁ、そう睨むな。任務失敗なうえ、その状態では無様だが……
無事で何よりじゃないか。
センサーの奴は殺られたんだろう」
「……ええ」
「ふん、お前が気に病むことは無い。
じき俺が、その農民に雇われたサムライとやらを始末しに行く」
「なっ、ヒョーゴさんが!?何故です」


ヒョーゴは御前の用心棒で、一番の任務はアヤマロを守ること。
邪魔者を消す……その様な任務は下っ端がすることだ。


「なに、少しばかり興味をもってな。だがすぐは無理だ。
今から御前に付き合い、御勅使殿との茶の場に行かねばならぬ」
「……興味を持ったって、この斬り口を見てですか?」


ボウガンは自分の左腕を指す。
テッサイと同様、無様な姿を見て興味を持ったと言われた様で、
仕方ないとはいえ、やはり怒りが芽生える。
しかしその問いにヒョーゴは笑いで返した。


「はっ、少しはお前を認めているということだ。
そのお前がこうまでやられたとなれば、
さぞかし米に釣られたサムライは腕が立つのだろう」


(認める……?)


「…………」
「ではな。調子に乗るなよ、あくまで少し……だ。
早くその腕を直せ」
「有難う……ございます」


意外な言葉を尊敬するヒョーゴから聞き、驚きながらお礼を言う。
ヒョーゴはふっと笑み、御殿に戻っていった。


「は〜あ……」


すっかり怒りは薄れてしまった。
そう思い、ボウガンも御殿に入ろうと門に歩み寄った時
自分から何か地面に落ちた感覚に囚われ下を見た。


「ん?」


足元にあったのは、見慣れない紅梅色の花。
疑問に思いながらも、手にとってみる。


「何の花だぁ?……って、髪飾りか」


よく見てみれば、留め具が付いている。
そして直ぐに気付いた。


(あの女のか……)


そういえば捕まえた女の髪に、
この飾りが付いていたことを思い出す。
おおよそ抱えた時にでも、着物に引っかかって取れてしまったのだろう。


「良い趣味してんじゃねーか」


好みの色に、少しばかり口元が緩む。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -