samurai7 | ナノ
03
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お昼を少し過ぎた頃、予想外に商品が売れ
売り物の少なくなった店内は、落ち着きを取り戻した。
おばあさんが店内の様子を眺め、口を開く。


「ありがとう、もう満足。ここまで売れるなんて思ってもなかったよ」
「私も嬉しいです」
「じゃあこれ、貰っておくれ」
「……?コレって……」


手渡されたものはズッシリと重たい、掌サイズの袋だった。


「お給料だよ」
「え!?そんないいです…!」


驚いてそう言えば、呆れたようにおばあさんが笑う。


「いいわけないじゃないかぁ。無理やり引き止めちゃったんだから。
お願いよ、感謝してるんだから貰ってちょうだい」
「……ありがとうございます」


ユメカは好意を素直に受け取ることにした。
その様子を見て、おばあさんは満足そうに頷く。


「じゃ、帰っていいよ」
「え?でもまだお店……」


夕方までは続けるつもりだったため驚く。
するとおばあさんは


「結構前に、あなたと一緒に行動してたサムライが来てたでしょ。
あのこ焦ってたみたいだし、気になるんじゃないの?」
「あ……」


そう言われて、頭の中にパッとアニメで見た続きが思い浮かぶ。
時間的に考えれば、そろそろカンベエとキララが宿に帰っている頃だろう。
丁度良い頃合……。


「もうお店は落ち着いてるから、行っていいよ。
あたしひとりで大丈夫」
「ごめんなさい、じゃあお言葉に甘えて」
「謝らなくていいったら〜。あ、そうそう!もうあんまり無いけど、
ここのお店の中にある商品で、良いと思うものは持っていっていいから」
「え、でも……」
「いいの!アナタに貰って欲しいわ。
それに一緒に居た娘にも持って帰って、プレゼントしてちょうだいな」


ユメカの顔がぱあっと綻んだ。
きっとキララもコマチも喜んでくれるだろう。


「ありがとうございます!」
「いいえ〜」


何にしよう、そう思って店内の物を見ながら歩き回る。
すると、琥珀色の宝石で作られた可愛いブレスレットが目に付いた。


(可愛いな〜。丁度ふたつあるし、キララちゃんとコマチちゃんにはこれをあげよう!)


そう決めて手に取る。
そして自分のものはどうしようかと頭によぎるが、今髪につけている花の髪飾りがあるから他はいいや……と思う。
しかしふと視線をやった先に、ユメカの目は奪われた。


「……綺麗」


目に付いたのは、紅い宝石のついたリング――…


まるで……夢か定かでない場所で逢った人の印象的な瞳と同じ、
キュウゾウの瞳を思わせるような、
とても深い紅。


一点を見入っているのに気付いたおばあさんがユメカへ近寄った。


「それが気に入ったのかい?」
「あ……えっと」
「綺麗な色だろ?それ、ペアリングなんだよ。
互いに引き寄せあう……確か運命の赤い糸と同じいわれがあったね」
「そうなんですか」


(運命の赤い糸……こっちにも同じ言い回しがあるんだ)


「好きな人がいるんだね」
「へ!?」
「ふふふ、正直ねぇ。顔が真っ赤」
「ーーーっ!」


そう言われて顔の熱さに気付く。
図星だからだろうか。
しかしユメカには、心当たりのある人を、好きな人……と言っていいのか分からなかった。


今は現実でも、最近までアニメの中のキャラクターだったのだ。
そう思って混乱していると、2つのリングを手渡された。


「ま、それ気に入ったんだから持っていきなよ。
この人!ってのにもう片方あげな」
「でも指のサイズ……」


違うかもしれないし。そう言おうと思えば、


「ああ、サイズの心配はいらないよ。それ、金具の部分が調整できる仕様だから」


にっこりと、笑顔で返された。


それを聞いて自分の指に、女性用と思われる少し小さめな方をはめてみる。
少しゆとりがあったが、おばあさんに言われた通りに調節すれば、
丁度ピッタリのサイズになった。


「……じゃあ、貰っていきますね」


女性用は指にはめたまま、もう片方の男性用リングをきゅっと大切に握る。


「ええ。
本当に今日はありがとう。あ、奥に着替えと荷物が置いてあるから忘れるんじゃないよ」
「はい、じゃあ着替えて帰ります。
私の方こそありがとうございました!」


ユメカは再びお店の奥に入る。
そして再び、ペアリングを見た。


(いつか、プレゼントできる日がくるのかな……)


少しだけ、淡い期待を胸に抱き
もう片方は制服のポケットにしまった―――


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06.08.08 tokika/加筆修正:09.02.01

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