samurai7 | ナノ
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「ユメカ!オレのも注いでくれよ」
「うん、わっ…!」

ボウガンに酒を注ぎに行こうとするが、キュウゾウに手を引かれて隣に腰を下ろす。徳利の一つを手に取ったキュウゾウはボウガンの元へ置く。


「自分で注げ」
「んだとォ」


恨めしげに声を上げたボウガンを、隣に座るロクタが宥める。


「抑えて下さい…!ユメカさんの変わりにはなりませんが、僕が注ぎますので…!」
「くっそー。後で覚えてろよ」


ギリギリと睨むボウガンの視線を受け流し、キュウゾウがユメカに呟く。


「奴の側には寄るな」


ボウガンとの接触を防ぐためにあえて隣に座っていたことが分かり、ユメカは頷く。
ボウガンに少し嫉妬してくれているのだろうか、とちょっとした自惚れを感じるのは、さっき口にしたお酒のせいか。


「じゃあ、キュウゾウ」


キュウゾウの持つ杯にそっとお酒を注ぐ。


「キュウゾウが側にいてくれるから……私、いま幸せだよ」


自然と出た感謝の言葉。キュウゾウは酒の波紋を見つめていた視線をずらし、ユメカを紅い瞳に映す。その瞳の色は深く、どこまでもあたたかい。
キュウゾウは変わった。紅いのに冷たく感じていた鋭い目は、いつしかユメカを映す度に穏やかになっていったのだ。
しかし見つめ合っていた視線は不意に終わりを告げる。


視界に入っていたカンベエが立ち上がったことによるものだった。


カンベエもまた、キュウゾウの視線に気付き、こちらを見る。


「……待たせたな」


カンベエの一言に、キュウゾウの眼光が鋭くなる。


「此処での仕事は終わった」


低く発する声は昔を思わせる冷然たるもの。


「そうだな――。明後日の早朝の広場でどうだ」
「異論無い」


ふたりのやりとりの意味を理解し、息を呑む。
闘わずして終われないのがサムライか。
不安で胸が押しつぶされそうになるのは、この闘いを危惧していただけではないことをようやくユメカはこの時理解した。
此処での仕事は終わり。キュウゾウの発言が反芻される。二人の決闘も終わってしまえば、本当に何もかも終わってしまう。



これから先のことは、ユメカは何も知らない。



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14.10.09 tokika

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