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気持ちを切り替えようと、ユメカはひと呼吸してキララに笑顔を向ける。
「手紙、誰からかな」
キララも「そうですね」と宛名のみ書かれた手紙に目を向け、瞳を大きくした。
「コマチ宛です……」
「ってことは!絶対キクチヨからだよね!」
コマチ宛なのだから、良い知らせに違いない。キクチヨが居なくなってからというもの、どこか少し元気が出ないでいたコマチ。やっと心から元気になる日が来ると思い、ユメカとキララは嬉しくなる。
「もうひとつはユメカさんに来ていますね。どうぞ」
「え、誰からだろう」
ドキドキしながら自分宛の手紙の封を切る。すると達筆な字が現れた。
ーーーーーーー
便りが遅くなってすまない。
ヘイハチ殿は退院できた。ただ体調はまだ完全とは言えないが。
とにかくカンナ村へ向かうことにする。
米を食わねば完全に治らんと言うからな。
ボウガン
ーーーーーーー
手紙を読んで、あは、と涙ぐみながら気が抜けたように笑う。
「ヘイさんらしい…!でもよかった!ヘイさん退院だって!カンナ村に向かってるみたい!」
「まぁ!でしたらお祝いの準備をしないと。カンナ村のお米を沢山炊きましょう」
「そうしよう!」
早く食べさせてあげたい。米が食いたいという願いはヘイハチの一番の願いだ。食べた時のヘイハチの満面の笑みが想像できて表情が自然とほころんだ。
汲んだ水を持ち上げキララと一緒に水分りの社へと戻れば、コマチとゴロベエが既に起きていた。キララが早速コマチに手紙を差し出す。
「コマチ、あなた宛に手紙がきていますよ」
「お手紙……おっちゃまからですか!?」
目を輝かせたコマチは、急いで手紙の封を切る。必死に文字を目で追い、みるみるうちに笑顔になり顔を上げる。
「やったー!!おっちゃま帰ってくるです!もう元気になったって!」
ゴロベエが頬の傷を嬉しそうに笑顔で歪めて頷く。
「そうか!キクチヨは約束を守ったな」
「勿論です!オラの子分だから守って当然です!」
「おや、子分なのか?婿にするのでは?」
「それはおっきくなったらの話です!オラまだ子供だから、暫くは子分ですよ」
ゴロベエが愉快そうに、そうかと言って笑う。もうすっかりゴロベエの体調も良くなり、笑い声に元気が溢れていた。
「ゴロさん、ヘイさんも退院したみたいなの。こっちに帰ってくるってボーガンから連絡があったよ」
「ヘイハチ殿もか!それはまっことめでたい!」
これでサムライが全員カンナ村に揃うことになるだろう。カンベエ、シチロージはキクチヨと出て行ったのだから、共に帰ってくるはずだ。
(キュウゾウにも伝えてこよう)
キュウゾウは導きの巫女の仮宿で寝泊まりしている。皆と眠りを共にするのはどうも性に合わないらしい。
とはいえユメカはそのキュウゾウの隣を許された存在。一緒に過ごしても良かったが、ふたりきりで過ごすのは流石に皆の目が気になり、キララの家の方で寝泊まりしていた。