samurai7 | ナノ
03
15 / 177

キララに案内され、一行はこれからサムライ探しの根拠地となる木賃宿に着いた。
その頃にはすっかり日が暮れていたため、キララが夕餉の用意を始める。


「あっ!私手伝うよ」
「いいえ、私がやりますので。
どうかユメカさんは休んでいて下さい。
倒れていたのですから、体調が万全ではないでしょう?」
「……ありがとう、じゃあ大人しく待ってるね」


キララの優しさに素直に甘えることにして、ユメカは後ろに下がる。
その様子を視界に捉えたカツシロウがユメカへ近寄った。


「ユメカ殿」
「何?カッツン」
「……か、カッツン?」


つい脳内で呼んでいた愛称が出てきてしまい、ユメカはわっと口元を押さえた。


「うわっしまった!…じゃない!ごめんなさい!
いきなり馴れ馴れしく…!」


勢い良く謝るユメカに途惑い、カツシロウの頬が少し火照る。


「い、いや。別にどう呼んでくれても構わないが」
「……本当?
ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、カッツンって呼ばせて貰います」
「…う、うむ」
「えっと、それで何?」
「失礼した。ユメカ殿は此処まで来た記憶がはっきりしないようだが……。
全然という訳では無いのか?」
「あ、……うん」
「ではもし嫌でなければ、覚えていることについて聞かせてはくれないだろうか?」


(えっと……どうしよう)


一方的にこちらの世界を知り、これから起こる未来までも知っているユメカ。
このままその事実を隠し、付き合っていくべきなのか。
しかし異世界から来たという自分の存在を認めてほしい思いはあり、そのうち機会が来れば言うことを考えた。


今はまだ言うべきではないだろう。
自分のことを詳しく知っている人が現れれば、普通気持ち悪く思うはずだ。


ユメカはカツシロウにとって当たり障りのない答えになるよう、考えながら口を開いた。


「覚えてること……えっと、此処からずっと遠い所にいたかな」
「やはりそうか。ユメカ殿の格好は初めて見る。此処とは随分文化も違いそうだ。
しかし、地名はなんと言うんだ?」
「う……うーん、覚えてないや」


結局記憶喪失な答えになってしまったことにユメカは内心苦笑した。
下手に答えるより良いのかもしれないのだが。


カツシロウは「そうか……」と残念がり、追求してしまったことを詫びた。
しかし興味を持ってくれたことが嬉しかったユメカは、笑顔で気にしないでと手を振る。


(私……このまま帰れないのかな)


そう思うと、たとえ此処が大好きなSAMURAI7の世界だとしても悲しくなった。
今までユメカが過ごしてきた十八年は、手放したくないほど特別なものだった訳ではない。
しかしそれでも思い出はあるわけで。
自分が生まれた世界を手放してしまった事実に、少しの不安を覚えた。

×
テーマ「世紀末オメガバース」
BL小説コンテスト開催中!
- ナノ -