samurai7 | ナノ
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程なくして、都が虹雅峡を離れていった。すると御殿の方からカンベエ、キクチヨ、カツシロウ、キララの四人と、囚われていた女達が姿を現した。
コマチが「姉さま!」と駆け寄る。キララも同じように駆け寄り、しっかりと抱きしめた。


コマチは天主が良い人だと興奮しながらキララに語るため、キララは困ったように頷く。すると脇からカツシロウが口を挟んだ。


「天主となったウキョウ、どうも私には信用できん。これで終わったとは思えぬ」
「いいじゃねーか助かったんだから。難しく考えすぎなんだよオメーは」


すかさずキクチヨが突っ込むが、ウキョウの先の読めない行動に皆翻弄されていた。姉との再会を喜び終えたコマチは、後ろに居た雅やかな女達の中に見知った人物を見つけ、ぱっと顔を輝かせて近寄った。


「サナエちゃんだ!サナエちゃーん!」


綺麗な着物を身に纏い、煌びやかな装飾で髪を飾ったリキチの女房。コマチは無邪気に喜び声をかける。しかしサナエの表情は、都から帰ってこれたことを喜んでいる様子は見てとれず、儚く憂いを帯びていた。
先代天主との子がお腹に宿っていたのに、天主が死んだショックで体に負担がかかり、殺めてしまったからだろう。都に囚われていた期間は余りに長く、心を解き放つには時間がかかる。ここからはまた、リキチに任せるしかない。


サナエの近くに居た、高い位置でお団子を結った少女にカンベエは近付き、持っていた簪を差し出した。


「すまんが、拝借した」
「あ!」


受け取ったのは、カンベエが囚われた時に率先して世話係をした、ミズキという少女。以前式杜人の里で出逢い、野伏せりと通じていたホノカの妹だった。


「これ、おっかあの形見だったんだよ……」
「それはすまぬことをした。しかしそれ無くして、そなた達の無事は無かった」


カンベエがすまなそうに眉をひそめた。するとミズキが意地悪くウインクしてみせる。


「なんてね、アンタおサムライな上に泥棒なんだね」


揶揄するミズキにカンベエは一瞬驚き、微笑んだ。


「そのようだな」


囚われていたというのに、元気な少女。この少女がいたからこそ、都に捕まってもなお、カンベエは次の策に投じることができたのだ。助けるはずだった少女に助けられたといっても過言ではなかった。この妹がホノカの元に戻れば、自責の念に囚われているホノカの心も救われるだろう。


カンベエは視線を逸らし、ある男に目を留めた。


「おぬしは確か」
「キュウゾウより逢ってねえのに分かるんだな」


ぼそりと呟いた言葉に、ユメカは思わず苦笑いする。


「アンタに斬られるところだった、ウキョウの用心棒……まあ、今は裏切り者だけどなァ」
「ボウガンと言ったか」


呼び名を当てられてボウガンが少し驚いた。カンベエに驚きや警戒する様子が無いところ、いずれこうなることは予想されていたのか。
その時、都が離れ徐々に野次馬達が離れていっていたところに、かむろ達が沢山の米を用意して現れた。


「都はこれより、遊説に発たれた。この米は、御天主様就任祝いのこころづけである。有り難く頂戴するように」


かむろがスピーカーを通して民衆に語り、喜んだ民衆は我先に米を貰わんと集まっていく。これもまた、ウキョウのたくらみなのだろう。
とにかく自分達はサナエ達を連れて村へ戻らなければならない。もう日が暮れているため、一旦マサムネの家へと集まった。



「どうするね、これから。この大所帯じゃあ……」


マサムネの家は小さい。都から連れ帰った女達をここに一晩泊めるには少々無理があり、マサムネは頬を掻いた。


「蛍屋に世話になろう。そこで一晩休んだら、皆をカンナ村へ連れて行く」


カンベエの言葉に、ミズキが反応する。


「姉さんもそこに?」
「いや、道中で逢える」


これからのことが決まった時、買出しに行っていたキララ達が戻ってきた。都に居た時の服装では動き辛く目立ってしまう。故に着替えの服を買ってきたのだった。
一般人の服に皆身を包み、カツシロウとキクチヨは新調した刀を受け取ると、蛍屋を目指し昇降機へと向かった。
サムライ狩りで追われていた時は蛍屋が遠く感じられたが、昇降機を使った正規のルートで向かえば直ぐに辿りついた。

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