samurai7 | ナノ
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ボウガンは掴まれていた手を引き、バランスを崩したユメカの背へ手を回す。そのまま互いの隙間を埋めるようにその身を抱き締めた。ユメカが咄嗟のことに驚いて固まる。しかしすぐに抱きしめられているということに気付き、なんで!?と混乱しながら胸の前に挟まった腕で抵抗しようと力を込めた。


「ちょっ!ボウガン…!?」


がっしりとした体に抱き竦められては、抵抗は完全に無意味だった。離す気はないと言わんばかりに、益々強く抱かれる。


「……った」


突如走った痛み。その声に驚き咄嗟にボウガンが身を離した。ユメカが不自然に腹部を押さえていることに気付く。


「おい、どうしたんだ」
「あ、ううん、ごめん、気にしないで。戦いの時に怪我しちゃったんだ。それがちょっと痛くなって」
「なっ!それって、ユメカが野伏せりを殺った時か!?」


ユメカが瞳を大きくしてボウガンを見た。しん、と場が静まり返る。そして自分が失言したことに気付き、ボウガンは舌打ちした。


「なんで知って……」


動揺で揺れるユメカの瞳を見て、深く溜息を吐く。


「悪ィ……。朋輩にゴーグルっていういけ好かねェ野郎がいてな。ユメカに野伏せりを仕向けたと言っていたんだ……」
「ゴーグル……」


全身殆ど黒尽くめの、腕が鉤爪に変わる男だ。サイボーグ用心棒の中でリーダー的存在だったと記憶している。


「ユメカ、大丈夫か」
「あ、うん、お腹は縫ってあるからちょっと痛むだけで……」
「じゃなくて」
「……?」


ボウガンは苦渋に満ちた表情でユメカを見た。


「お前は命を奪えるような奴じゃねぇ。今、辛いんじゃないか?」


本気で気遣う様子に、ユメカは一瞬驚き、柔らかく微笑み返した。


「大丈夫だよ。あの時の感触とか臭いは鮮明に残ってて、思い出すと凄く辛いけど……」


――キュウゾウが全てを受け止めてくれたから。それに、


「私があの時野伏せりを殺さなかったら、周りにいた村の人達が死んでしまったかもしれない。そう思ったら、不謹慎だけどこれで良かったと思う」
「…………」
「皆が戦って血にまみれてるのに、自分だけ特別みたいに、落ち込んでなんていられないしね」
「……強いんだなァ」


てっきり傷ついた心を今まで態度に出していないのだと思っていたが、真実を語るユメカの瞳には曇りが無い。只の女という認識を改めるべきか。
関心して漏らしたボウガンの言葉に、ユメカは横に首を振った。


「強くないよ。だから無茶してお腹怪我しちゃった。自分の浅はかな行動は反省してる……けど」


言葉を止めたユメカにボウガンは、ん?と肩眉を上げる。


「けど、やっぱり一人、大切な仲間が死なずに済んだから、よかったんだ」


こういう風に言えるのは、何も知らないボウガンだから。皆、あの時のユメカの行動を快く思っていない。一歩間違えば死んでいた。だから仲間の皆には言ってはいけない素直な気持ち。
だからこの言葉は、この時を最後に胸に秘めることにした。


「もうこれ以上無茶はしないけどね。約束したから」
「当たり前だ。相当危なっかしいんだろうなァ。ま、今後は俺に頼れ。俺は命が惜しくないからな」


ボウガンもユメカに救われた命なのだ。カンベエという名の男と戦っていたとき、ユメカの叫びが無ければここに存在していないだろう。
ボウガンがそう思っていると、ユメカはぽつりと呟いた。


「……やだ」


ボウガンは目を細め、頬を引きつらせながらユメカを見る。


「ハァ?俺じゃ頼りないってのか。塞ぐぞその口」
「違うよ!ボウガンが死んだら嫌だから」
「やっぱ簡単に死ぬとか思ってるんじゃねーか。あ?」
「そうじゃなくて……!」


次の瞬間、ユメカの目は驚きで見開かれた。唇に触れた温もり。頭で行為を認識する前にそれは直ぐ離れ。べっと舌を出したボウガンがそこに居た。


「悪い口は塞ぐ主義なんでね」

「なっ!なっ…!……馬鹿!!」


気が動転したユメカは大きな声を出し、勝ち誇ったような憎たらしい表情を浮かべるボウガンの顔へ、掴んだ砂を思い切り投げつけた。


「ぶっ!」
「あ…!ごめっ」
「やったなこの……」


じりじりとにじり寄るボウガンに後ずさりするユメカ。そこにひとつの影が差した。


「ボウガン殿……何をしている」
「ああ?普通に話してるだけじゃねーか。どう見えるんだよ」


ユメカの声を聞きつけて戻ってきたカツシロウを睨む。カツシロウは横目でぐっすりと眠るキクチヨを見やり、眉根を寄せた。ボウガンに向き直り刀の柄を握る。


「私には、嫌がるユメカ殿をお前が組み伏せているようにしか見えぬ」


ユメカは驚いた表情で、半分自分の上に乗りかかっていたボウガンを掌で押し返し、即座にカツシロウの足を掴んだ。


「まって!誤解だから!私が砂かけたから怒ってこうなっただけで…!」
「砂を?しかし、それは何かあったからであろう」
「それは……!ともかく!」


その時、唸る声が響いた。うるさかったのだろう、コマチが寝返りを打って表情を歪める。
三人ともその様子を見て、黙り込んだ。沈黙が落ちて冷静になり、ユメカは小さく声を出した。


「今日はもうやめよう。皆に迷惑だし……もう寝たい」


その一言で、この場は丸く収まった。

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