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砂漠を進んでいくと、色々な機械の破片が点々と混在する場所まで来た。
かつての戦の跡――そして、キュウゾウとヒョーゴが戦い、ヒョーゴが亡くなった場所。ボウガン以外の皆はそれを思い出し、ふと立ち止まった。
「……寄っていいかな」
ユメカの言葉に、意味が分からず目を瞬くボウガンを除き皆が頷く。それを確認したユメカは足早に、巨大な機械の陰へと向かった。砂から守られる位置に刺された刀。後から付いていったボウガンの表情が、それを見て険しくなった。
「…………」
ユメカは行きしなに摘んでいた白い花を鞄から取り出し刀の傍へ添える。そして、手を合わせて静かに目を閉じた。
「……ヒョーゴさん」
ボウガンがぽつり、と呟いた。刀を見れば分かる。それが誰のものか。
たまに嫌味を言われてはいたが、刀の腕はもとより素晴らしく、サムライでなかった半端ものの自分なんかを、熱心に気にかけてくれる優しい人だった。いつの間にか一番信頼し、尊敬していた人物。その人が今、ここに眠っている。
しかし彼はかなり腕の立つ相手に殺されたのだと聞いた。ユメカがここに来るということは、相手はユメカの仲間である七人のサムライのうちの一人なのか。
「誰だ、やったの」
怒りが混ざった声に、ユメカがはっと振り返る。言って大丈夫だろうか、と考えてしまい口を閉ざした。
それを見てボウガンは、小さく息を吐いた。自分を落ち着かせるように。
「悪いな。俺、ヒョーゴさんのこと尊敬してたんだ。教えて欲しい」
「そう……だったんだ。でも、教えたら復讐、とか……考えない?」
「……さぁね」
ユメカは困ったように眉尻を下げた。そんな曖昧な返事では教えられない。朋輩であるキュウゾウに斬られたなんて。キュウゾウとボウガンが戦うことになってほしくない。
その様子を見て、ボウガンはまた溜息を吐いた。
「さぁね、なんて言ったら教えられねーか。分ーったよ、復讐は考えない。ヒョーゴさんも戦ってこの結果なら、サムライだし不満は無いだろう」
だから、というようにユメカを見た。その目には悲しみも混ざっているような、しかし計り知れない感情を湛えているようにも思える。
ユメカはボウガンの言葉を信じよう、と頷いて口を開いた。
「キュウゾウが……」
みるみるうちにボウガンの目が見開かれる。
「キュウゾウ……だって?」
確かめるように力無く尋ねたボウガンに、ユメカは目を伏せて頷いた。
ボウガンは信じられない、という風に地に刺さった刀を見た。いつも肩を並べていた者同士が何故戦い、どうしてこうなったのか。
「なんで……。あいつ、今何処に……」
行方知れずになっているキュウゾウ。
混乱のままに紡ぐ言葉に、ここまで言ったらちゃんと説明しなければならないだろうとユメカは意を決する。
「キュウゾウは、私達と……一緒に来ることを選んだんだ。それで……」
途端ボウガンの眼が鋭さを増し、瞬時に刀を抜き放った。ユメカは目を見開き、キクチヨとカツシロウは咄嗟に刀の柄を握る。しかしその反応よりも早く、ボウガンは近くにあった身の丈の何倍もある機械を一刀両断していた。
肩で息をしながら、刀を振り下ろした姿勢で止まる。表情は髪に隠れ、見えない。
少しして、ボウガンが刀を持つ腕を動かした。カツシロウが一筋の汗を流し、刀を陽光に煌かせる。しかしボウガンは刀を腰へ戻した。
「……悪いね、本当に。感情は内に秘めてられないんだ。しかし、今のでこの件は終わりだ」
すっと顔を上げたボウガンに、ユメカは神妙な面持ちのまま見つめた。するとボウガンがいつものにやりとした表情を浮かべた。咄嗟のことに驚いたユメカは、強張っていた表情を引っ込ませる。
ボウガンはそのままヒョーゴの墓にゆっくりと近付き、目の前でしゃがみ、手を合わせた。
「今まで、ありがとうございました」
小さく呟いた言葉。しかしボウガンはなかなか立ち上がらない。ユメカはその背を見て、気付いた。少し、震えていることに。
『俺には……泣いてくれる者なんぞ、居ないと……思っていたんだが…』
彼の、ヒョーゴの言葉が蘇る。
――いるじゃない、此処に。
ユメカはあの時の、あの瞬間を思い出し
切なくなりながら、小さく微笑んだ。
皆、どこかで繋がっているのだ。
だから争いを起こしてはいけない。誰かが死ねば、誰かが悲しむ。
この連鎖は断ち切らなくてはいけない。
ユメカは近いうちに訪れる、最後の時を、
都での決戦を考え始めていた。
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10.04.14 tokika