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そうと決まれば早々に身支度を整える。水と食料を鞄に詰め、カツシロウとキクチヨが待つ橋の前まで向かう。するとそこにはヘイハチ、シチロージ、ゴロベエ、リキチの姿があった。
「ユメカ、本当にこの二人と共に行くのですか」
ヘイハチの言葉にユメカは頷いた。
「無茶は絶対にしないから」
答えに満足した様子でヘイハチが「気をつけて」と微笑んだ。しかしシチロージはカンベエを信じて待たないキクチヨとカツシロウの行動を快く思っていないようで、笑顔は見せない。リキチは松葉杖を付き、不安げにその様子を見た。
「オラも、行きてかったぁ」
ぼそりと呟いたリキチに、ゴロベエが肩に手を乗せる。
「おぬしはしっかり養生せねばな。事はそれからだ」
「ゴロベエ殿の言うとおりだ。必ずや、女房を連れて帰る故、待っていろ」
ゴロベエとカツシロウに、リキチは目を伏せて頷いた。カツシロウ、キクチヨ、ユメカの三人が橋を渡り始める。すると後ろから「お待ち下さい!」と声が掛かった。駆け寄ってきたのはキララとコマチ。
「私達も連れて行って下さい」
「下さいです!」
キララが頼みこむ様子にカツシロウは「危険に晒したくはない」と拒む姿勢を見せる。カツシロウにとって、大切な存在なのはキララだからだろう。
「だがよ、キララの振り子は役に立つかもしれねぇな」
キクチヨの言葉に、カツシロウはじっとキララを見つめ、背を向けた。師に劣らない、サムライとしての判断をしなければならない。目を閉じ、決断した。
「手を、離すな」
「……はい」
その様子を見て、コマチも定位置であるキクチヨの肩に乗った。
「子分、離すなです」
「はい、で、ござる」
ふたりの様子をこっそり真似るふたりの様子が可愛くて、ユメカは微笑んだ。くよくよしていてはいけない。キュウゾウと会って、謝って、自分ができることをして。これからが正念場なのだから。そう意気込んだユメカは、みんなと一緒に歩き出した。
橋を渡れば紅葉が目立つ通りを歩く。初めて通る道だと思いながらユメカが辺りを見回していると、キクチヨの肩に乗っていたコマチが様子に気付き声を掛けた。
「ユメカちゃん、そういえば此処初めてですか」
「あっ、うん」
コマチからユメカちゃんと呼ばれたことに一瞬驚き、嬉しくなって笑顔になる。コマチは仲良くなるとどんどん呼び方が変わる。キクチヨはキクの字、カツシロウはカツの字といったように。自分はちゃん付けなのか、と内心喜びながら紅葉を仰ぎ見た。
「きれーだね」
「うん。つい最近まで緑だったのに、オラ達が戦してる間に景色が随分変わってます」
はらはらと舞い落ちる木の葉につかの間の癒しを感じながら歩いていると、先を行くカツシロウがいきなり足を止めた。
「誰か来る」
「んだとォ?」
カツシロウが刀の柄に手を掛け、腰を低くする。カツシロウの取った姿勢で皆に緊張が走った。
向かってくる人物の姿が徐々に明らかになっていく。
驚きのあまりユメカの目が大きく開かれた。相手も既にこちらの存在に気付いているらしい。しかしカツシロウのように戦闘態勢は全く見せず、ゆったりと歩いて来た。
カツシロウを刺激しない一定の距離で、相手は立ち止まった。
かったるい、と言わんばかりに長い髪をかきあげ、ニィと笑顔を見せる。
「久しぶりだなぁ」
ユメカを見て、ボウガンは一言そう言った。
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09.12.14 tokika