samurai7 | ナノ
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温かい、そう思ったユメカが目をうっすらと開けば、囲炉裏で揺らめく炎が目に入り、ぼーっとしながら二、三度瞬きをした。
いったい此処はどこだろうか。床に横になっていた体を起こすと、キュウゾウが視界に入り、はっと先程までのことを思い出した。


「あれ?さっきまで……」
「気を失っていた」


それで突然ここにいるのか。
ぐるりと周りを見渡せば、一度来たことがある場所だと理解した。


(導きの巫女が仮宿にした家……)


そういえば泉から近かった。するとその時目に付かなかったものが目に付く。ロープが壁から伸びていて、そこに掛かっているのはさっきまで着ていたはずの濡れた襦袢。
驚いて自分の姿を確かめれば普段の着物を肌に直接羽織っていた。しかし帯は締めておらず、前が広がっていて。慌てて衿元を手繰り寄せた。
もしかしなくても、キュウゾウが着替えさせたのだろうか。しかしこの場合感謝すべきだろう。濡れた格好のままでいるわけにはいかない。


ユメカの動揺する様子に気付いたキュウゾウが視線を寄こした。
口をぱくぱくと動かす様子を見て察したのか、キュウゾウは小さく呟いた。


「……見ておらぬ」


ユメカの顔が、ぼっと熱くなる。何と返していいのか分からず、どもりながらとりあえず「ありがとう」と返した。
ユメカが目の前の炎に視線を戻した時、キュウゾウが立ち上がった。


「外にいる。暫し休め」
「っ!?待って!」


驚いて呼び止める。こんな寂しい場所にひとりでなんて居たくない。


「ひとりじゃ嫌…っ」
「ならば、水分りの娘を此処に」


首を横に振る。今一緒に居たいのは他の誰でもない。


「……キュウゾウ、一緒に居て」
「…………」


キュウゾウは一緒に居たくないのだろうか。そう不安に思うと、目の前のキュウゾウの輪郭が歪んだ。
キュウゾウが再び腰を下ろす。


「何故、泣く」
「……っ」


キュウゾウの手を握る。普段刀を掴んでいる手は、固く、しっかりしていた。
重なった掌。互いの薬指に在る指輪が炎に照らされているさまを視界に納める。


「離れたくない」


そう言った瞬間、繋いだ手を引かれ世界が反転した。
キュウゾウの顔が近い。その向こうには天井が見える。組み敷かれたということが分かり、驚いて目を丸くした。


「怖いか」


キュウゾウの問い。
ユメカはじっと赤い瞳を見つめ、言葉が出てこない。


「俺は今、ユメカの傍に居られぬ」


その言葉が意味すること……。
固まってしまったユメカを、怯えてしまったと解釈したキュウゾウは身を退こうとした。しかしユメカの言葉が引き止める。


「私……キュウゾウが好き」

「…………」

「大好き。ねぇ……キュウゾウは?」


素直な好意を向けられて胸に宿る温かい感覚。キュウゾウは宿るこの気持ちが何を意味するのか、初めて理解した。
それはずっと解せないと思っていた人の感情。
しかし理解すれば素直に言うことができる。


「好きだ」


ユメカの表情が嬉しそうに和らいだ。キュウゾウも、僅かにふと表情を緩める。


「ユメカ……。俺はお前に触れたい」


どきりと跳ねる心臓。キュウゾウの言葉に、期待している自分がいる。
不安が無いとは言えない。それでも。


「私も……」


――貴方に触れたい。


求めるようにキュウゾウの頬に手を添えれば、答えるように唇が重ねられた。

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