samurai7 | ナノ
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村全体に夕日が差し始めた頃。カンベエはホタルメシを水杯にすることを提案した。
今美味しい米をたべられるのは、ひとえに農民達がホタルメシを食べ、ずっと土と戦ってきたからだ。
サムライ達が荒らしてきた土地に、命を与えたのは農民。しかし実りを食すのは農民では無い。その気概をサムライは知り、戦に望まなければならない。
カンベエの思いにシチロージも納得し、ホタルメシに口を付けた。しかしあまりの不味さに顔をしかめた。これでは食す楽しみもなく、ただ食いつなぐためだけのものだっただろう。


その後水杯を皆の手に渡そうと、シチロージとカンベエはホタルメシを盆に乗せ外に出た。
村の周りに面した柵付近に行ってみれば、下の道でカツシロウとヘイハチが何やら話し込んでいる。どうやら戦の高揚感が今だに忘れられないでいるカツシロウに、ヘイハチが自分の状況と対比して話しているようだ。
邪魔にならないようじっとふたりは見下ろしていたが、一通り話したところでヘイハチはふたりの気配に気付き顔を上げた。「いつからそこに」と苦笑する。
シチロージが「戻ってきた、辺りから」と笑み、カンベエと一緒に断崖を滑り降り、ふたりの目の前まで行った。


シチロージが手にしているホタルメシにヘイハチとカツシロウの興味が移ったとき。
突然辺りに立ち込める気の流れが変わった。
即座にホタルメシを置き、不自然な小石が転がる音のした柵の向こう、深い霧の中をサムライが刀の柄に手を掛けながら見下ろす。
何者かがこちらに向かってくる。近くにいた農民達が怯えた声を上げようとしたのを、カンベエは手で諭した。


「待て。はやるな」


霧の中に一つの影。近付いてくるそれは徐々に赤く映り、敵ではないことが分かった。
大きな跳躍。次の瞬間、柵の上にすたりと着地した。


「キュウゾウ殿!」


カツシロウが呼んだ時、キュウゾウは肩に抱えていた身の丈以上もある銃をヘイハチに投げてよこした。
ヘイハチはうまく受け止めつつもよろめき、銃はかなりの重さがあるということが分かる。それを、キュウゾウは涼しい顔で持ち帰ったのだ。


「使い道はあるか」
「考えてみましょう」


キュウゾウが柵を跳び降りれば、カンベエが「ご苦労だった」と声を掛ける。
するとキュウゾウは淡々と報告を告げた。


「雷電を斬った。ヤカン兎飛兎含め主力が三十機程。他にヨロイ多数」


斥候として立派に任をこなして傷一つ無く戻って来たキュウゾウを見つめ、カツシロウは気持ちが昂っていく。
二刀流の鮮やかな太刀捌きに加え、これほどサムライの鏡とも思える人物だったのかと、尊敬の眼差しを向けた。
カンベエが報告を聞き、問いかけた。


「お主はどう見る」
「少なくとも1日は日を置く。傷は深い」
「うむ」


カンベエの返事を聞いたキュウゾウは、用は済んだとばかりに目の前の断崖を駆け上がりその場を後にした。
キュウゾウの去った先にカツシロウが未だに憧れの眼差しを向けていると、カンベエが声をかけた。


「カツシロウ、詰め所の者達に皆交代で充分に休息をとっておくよう伝えてきてくれ。野伏せり達が傷を癒す間、我々も体制を整えておかねばならぬ」
「はい!先生」

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