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「みんなー!おさむれぇ様が戻って来ただぁ!」
外から聞こえてきた声に、ユメカが顔を上げた。近くで付き添っていたオカッパの子が心配してユメカの名を呼ぶ。すると初めてすっと自分の名前が聞こえてきたユメカは、はっと彼女の姿を視界に納めた。
「……ごめん、一緒にいてくれたんだ。ありがとう」
今にも泣きそうな表情で言ったユメカは、そのまま家の外へと駆け出した。
広場に着けばもう沢山の村人が集まっていて、その向こうにサムライたちが居るのがわかった。
緊張か、それとも恐怖だろうか。どきどきと心臓が波打ち、足はまるで地に根を張ってしまったかのように動かせなくなる。村人達が喜びの歓声をあげるなか、ぽっかりと自分の空間だけ穴が空き、切り離されてしまったような……。
「ユメカ」
突如自分の名が聞こえ、いつの間にか俯いていたことに気付き、驚いて顔を上げた。
するとすぐ目の前にみんながいて。ユメカは表情を作ろうと、頬の筋肉に力を込めた。
「……お帰りなさい!」
必死に作った笑顔。しかしそれは一見無理やり作ったようには思えない朗らかな笑顔で、キララから事の経緯を聞いていたサムライ達は途惑った。
まるで何事も無かったかのようだ。
一方ユメカは笑顔になれたことに心底安堵する。
「どうしたの?」
誰も言葉を返してくれないことに不安になったユメカは、直ぐ目の前にいたカンベエに問いかけた。
「……いや。村に問題はないか」
「うん」
「ならば良い。時期今度は屈辱を晴らしに野伏せりが来る。充分体を休めておけ」
「うん、そうだね。そうする」
ユメカがちらりとサムライ達を見た。キュウゾウの姿は無い。
(そうだ、斥候……だっけ)
今一番一緒にいたい人。その気持ちがすっかり上回り、彼が何処に居るかを忘れていた。
視線をさ迷わせた中ヘイハチと目が合い、あは、と笑いを零す。ヘイハチも答えるように笑顔を向けた。
「……えっと、じゃあお言葉に甘えて、ちょっと疲れたから寝ます!」
そう言うなり踵を返し、走り去っていく。
感情を偽っているユメカの姿にいたたまれなくなったカツシロウは、追いかけようと足を前に出した。しかし隣に居たヘイハチが腕で遮って止める。
「やめなさい、ユメカは私達に気を遣わせたくないんですよ」
「しかし…!誰かが支えにならねば!」
同じ経験をしたカツシロウに分かる思いというものがあった。自分はサムライだが、ユメカはそうじゃないから尚更だ。
ヘイハチが眉をハの字にした。
「分かりませんか。きみの言い分はもっともです。しかし、その役目は我等には無い」
「何故…!」
「ユメカの眼は探していたじゃないですか。此処には居ない人物を」
カツシロウが驚いたように目を見開いた。
「……キュウゾウ…殿?」
ヘイハチは頷くことはせず、ユメカの後姿を見た。
真っ先に支えになりたいと思っていたのはヘイハチも同じだった。しかし、求められていなければ支えになろうはずもない。
自分の胸が針で刺されたかのように小さく痛んでいることに気付き、苦笑した。
いつの間に、こんなにユメカに惹かれていたのか、と。