samurai7 | ナノ
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翌日、全ての準備が整った。後は野伏せりを迎え撃つのみ。
ユメカはキララと一緒に水分りの社に飾る花を摘みに行くことにした。しかしキララが案内したのは花が咲き誇る場所ではなく、一軒の孤立した家。


「キララちゃん?」
「此処は、導きの巫女様が帰って来てからの仮宿だと聞きました」
「仮宿?じゃあ、社じゃないの?」
「はい、導きの社は導きの巫女様が連れて行かれる際、郷愁の想いに浸らぬようにと、おサムライ様に燃やされてしまったようです」
「酷い……」


戸を開け、キララが中へと導く。
久しぶりに日の光が入ったのか、湿った木の香りが鼻についた。目の前に広がるのは簡素な、特に何も無い部屋。


「何も、ないんだね」
「そうですね。でも、ひとつだけ」


そう言って奥にあったタンスのもとに行き、中から白と藍が印象的な衣装を取り出した。どこかで見たことがある、形。


「導きの、装束です」


ユメカは納得した。画面を通して観たキララの巫女装束とデザインが同じで、赤い部分が藍色という色違いなのだ。


「導きの巫女のもので残っているのは、ユメカさんに渡した石と、この装束だけです。どうか此方もお納め下さい。
きっと、導きの巫女様もそうしていただけることを望んでいるはずです」
「ありがとう。……今回の戦で着ることにするよ」


神聖な物を引き継ぐように、そっとキララの手から受け取った。
ずっとしまわれていたのだろうそれは、虫に食べられた痕もなく、それは綺麗なものだった。


その後花を摘んで社に戻ってみれば、カンベエとカツシロウが訪れていた。
はっとキララがふたりに視線を向ける。目が合ったカツシロウが少し頬を朱に染めた。しかしキララはその変化に気付くことなく頭を下げた。


「どうなさったんです?カンベエ様」
「折り入って、頼みたいことがあってな」
「……頼みたいこと?」


カンベエの頼みとは、時期戦が始まるため、その時は女子供を此処水分りの社に匿ってほしいというものだった。
キララの表情が一瞬不安げに曇った。


「不安なれば、カツシロウを守りにつけよう」


カンベエの申し出にキララがまるで心に蓋をするように、凛と自信に満ちた表情を浮かべた。


「いいえ、ご心配には及びません。カツシロウ様、ご存分に戦をなさいませ」


頭を深く下げる。カツシロウも頭を下げてキララの思いに答えた。
直後、カンベエが口を開いた。


「キララ殿、暫し良いか」
「……?」


ふたりが社を出て行く。キララひとりを呼んだことがカツシロウは気になったようだが、社に残って瓶に花を挿すユメカへ視線を移した。


「……ユメカ殿は、未来を知っていると言ったな」


はっとユメカが手を止めて不安気にカツシロウを見上げた。
何か聞きたいことでもあるのか。しかし続く言葉を待っているものの沈黙が続く。


「……すまない、気にするな」


眉を寄せたまま小さく呟き、カツシロウもまた外に出て行ってしまった。残されたユメカはひとつ溜息を吐いた。
きっと彼は、自分の未来を聞きたいのだろう。しかし、知りたい反面知りたくないというもの。


(自分がどうなるかなんて、人に言われたくないよね。はっきり言って……)


知ってしまえば行動が縛られてしまうだろう。きっとそれは恐ろしいことだ。


「ユメカさん、ちょっと」


奥でキララの装束を繕っていたセツに呼ばれて振り向けば、セツがユメカの近くに置いてある導きの装束を指差した。


「着るつもりかい?」
「はい。私……自分の立場に逃げないって決めたので」
「うん、そうかい。でもそのままじゃ寸法違うんじゃないかい?ちょっと着てみておくれ、合わせてあげるから」
「ありがとうございます」

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