samurai7 | ナノ
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「えっと。どこから話していいのか……」


板の間に上がり皆の注目を浴びる中、いざ全てを話そうとすれば、どこから話していいのか分からない。それほど自分は隠し事が多かったのか、とユメカは苦笑した。


「じゃあ、改めて。今更だけど自己紹介から。
私、椿 夢香です。此処とは……違う世界から来ました」


普通こんなことを言えば、頭がおかしいと思われるだろう。しかしユメカにとっては大真面目な内容で、本当のこと。
意表を突かれたカツシロウが直ぐに目を瞬いた。


「ユメカ殿、口を挟んですまないが……ユメカ殿は記憶が無かったのではなかったか?」
「あぁ、ごめんなさい。記憶が無いのは嘘なんだ。こんなことあの時の私が言っても、変なこと言ってるようにしか聞こえないと思ったから隠してたの」


ユメカが他の皆をひとりひとり見る。ここまでは、なんとか受け入れてもらえるだろう。問題は、此処からだ。


「それで、私。出会う前から皆のこと、顔も名前も、大体の素性も知ってました」


しん、と場が静まる。身を固め続く言葉を言い出せないユメカに、カンベエは頷いてみせた。


「やはりな」
「え…っ!やはりって…なんで!?」
「お主、儂が名乗る前にカンベエと呼んだではないか」
「…………」


(嘘。キュウゾウの時と同じ失態…!記憶に無い……)


焦って考えこむ様子に、ヘイハチからも声が上がった。


「そういえば……女装した私のことも、エミちゃんって言いましたよね。
確かユメカにはまだホホエミノスケって言ってなかったので、不思議には思ったんです」
「…!そうだった!?」


色々と気を付けていたつもりだったが、自分は相当おかしな行動をとっていたらしい。
するとカンベエが「すまぬ」と、急に言ったためユメカは不意打ちをくらったようにきょとんとした。


「嘘をついたことをお主が謝るのであれば、儂も謝らねばならん。お主の持っていた冊子を、見た」
「冊子?」


冊子と言って思い浮かぶものは、一つしかない。


「スケッチブック!じゃああの時!」
「描かれたキュウゾウと、お主が知りようの無い、大戦時の姿の儂とシチを見た」


シチロージが不思議そうに口を挟む。


「カンベエ様、それはどういった……」
「儂と、シチが軍服姿な上、刻んだ文字が添えられていたな」
「まさか……!」


驚いたようにシチロージに見られたユメカは身を小さくした。描いた絵に覚えがある。
カンベエはそれで確信していたのだろう。とりあえずここまで知られていたのは予想外で、ユメカはすっかり肩の力が抜けるが、再び背筋を正した。
カンベエはこうして事前に知っていたため受け入れ易いだろうが、カツシロウは眉を寄せ、ゴロベエ、ヘイハチ、シチロージ、キクチヨは話の続きを待っている。ここは、みんなに分かっておいてもらわなくてはいけない。
言っておくべき内容を助けるように、カンベエが顎鬚を撫でながら問いかけた。


「して、ユメカ。どこまで知っている」
「……。戦が、どういう終わりを迎えるか」


カンベエ以外の皆が、目を見開き動揺する。当たり前だ。重要な未来を知っているということになる。


「キララちゃんが言うには、私は“導きの巫女”らしいんです。未来を読み、皆を導く……」
「そうか。ならば問う。この戦どうなる」


じっと口を挟まなかったキララが、息を呑む音が聞こえた気がした。


「農民が、勝つ」


ほっとしたように、キララが小さく息を吐き、コマチが笑顔を見せた。
しかしカンベエは目を細めた。それはユメカがあえて“農民が”と不自然に言いまわしたからだ。そこから真意をくみとるのは、カンベエには容易い。


「なるほど。儂等は死ぬか」
「……!?待って!」


ユメカが表情をゆがめて語気を強くする。


「これから、色々とあるの。戦いは、野伏せりだけが相手じゃない」
「ほう……」
「それに、私が知っている未来は、私がいない未来なの。
だから、私は運命を変えるつもりでいる。勿論良いほうに」


ヘイハチが、いつもの笑みを潜め、穏やかな調子でユメカを見つめる。


「すみません、ユメカ。疑う訳じゃないんですが、ユメカが見ているその未来は、俗に言う占いのようなものでは?
あまり、考え過ぎない方が……」


ヘイハチの問いに首を横に振る。


「私も、できることならそう思いたい。でもここまで、私が知っている未来の通りに動いてきた」
「…………」
「多分昨日、だよね。マンゾウさんが野伏せりと内通して、ヘイさんが怒ったことや、カッツンが初めて人を斬ったことも、知ってる」


あの場に居合わせていなかったユメカが、知るはずのない事実。誰もわざわざそのようなことがあったとユメカに言う者はいないだろう。ヘイハチやカツシロウが言葉を詰まらせた。
目を閉じていたカンベエが、再びユメカへ視線を投げる。


「これまで、読んだ未来は変わって無いか」
「うん……変えようとしても、どうしても運命に流されるように時間差で同じ未来が……」


言いながら、ユメカの目が見開く。
あった。変わった未来がひとつだけ。記憶をよぎったピンクの彼。


「あったよ!ボウガンが生きてる!!」


ユメカの発言に、これまで黙して聞いていたキュウゾウが初めて閉じていた目を薄く開いた。
普段ならば気にも止めない、見知った者の名を聞いたからだった。


「ボウガン?」
「ほら!二人組みで襲撃に来た、ピンク色の方!カンベエが斬ろうとした時、あの時本当だったら斬って、命を落としていた。
でも、カンベエが斬らなかったから…!」
「あの時か。あれは、お主が止めたからだったな」
「……うん」
「ならば、お主の直接の影響があって初めて、未来は変わるのであろう。導きの巫女。なるほど、名の通りだな」


驚いた。確かに、未来を変えようとして変わったのは、唯一自分が直接関与したボウガンの件のみだ。

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