samurai7 | ナノ
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村まで戻るとキュウゾウは昼間と同じように、弓の稽古を就けに広場へと向かっていった。左手の薬指にはユメカと同じ指輪が光る。


念願の指輪を渡すことができた。ユメカはキュウゾウの後ろ姿を見送り、嬉しい気持ちを抑えきれず笑顔を浮かべた。
同時に先程のことも蘇り、赤面する。口付けされたことは夢だったんじゃないかと思ってしまう程信じられない。
しかし口内に残る慣れない感覚の余韻が、事実だったと思わせてくれる。


キュウゾウも自分に少なからず好意を持ってくれているのだろう。少しぐらい、そう自惚れてもいいはずだ。誰だって嫌いな人に口付けはしない。
じっと指輪を見つめる。存在を主張する指輪に、突然ユメカは不安がよぎった。


(刀持つのに邪魔にならないかな?)


指輪によって刀を握る感覚が変わってしまうんじゃないだろうか。だとするとかなり問題だが、確かカンベエも指輪はしていた。
うーん、と口をへの字に曲げる。


「何を百面相してるんでげす?」
「うわっ!」


いつの間にか目の前にいたシチロージに、ユメカはびくりと全身を揺らして驚いた。大げさな反応にシチロージが困ったように笑みを浮かべる。


「そんな、まるで化け物に会ったみたいに」
「ああ…!ごめんなさい!色々考えてて…!
シチさんが近くまで来たの全然気付かなかったから」
「あいた。アタシはそんなに存在感無いでげすか」
「そういう訳じゃ…!」


慌てるユメカに、落ち込んだかのように見えたシチロージが声を出して笑った。


「ユメカはからかい甲斐がありますな」
「あー!酷い!!」


剥れるユメカに、シチロージは「まぁまぁ、ここはひとつお互い様ということで」と許しを請う。


「今まで姿が見えなかったが、いったい何処に?」
「それが……花畑になってるとこで寝ちゃってました」
「そうか。いや、てっきり何かあったのかと心配したもんでね」
「あ…!ごめんなさい!!」
「いえ、無事で何より。しかしあまりひとりで遠くにはいかない方がいい。敵に気付かれていないとはいえ、油断はできない」
「うん。気をつけます」


反省の色を浮かべ俯くユメカの耳元にシチロージが意味深に口元を寄せた。


「とはいえ。既に特定の人物がユメカに付いているから安心なようで」
「え?」
「おや、首筋に赤い花が」
「ッ!?」


ばっと指摘された箇所を押さえ、赤い顔でシチロージを見た。
男の色気を含んだシチロージの表情が、すぐにまた笑いで崩れる。


「嘘でげす」
「もー!!」


もしや寝てる間につけられたのかと、妙に驚いてしまった。
ユメカは先程よりも顔を赤くして怒る。


「シチさんに虐められたってユキノさんに言ってやる!」
「なっ!そいつはご勘弁を…!」
「どうしよっかなー!」


形成逆転。ユキノには弱いシチロージの様子が可愛く思え、ユメカの怒りは直ぐに消え去ってしまった。
シチロージはとほほ、と頬をかく。


「キュウゾウ殿がユメカと同じ指輪をしていたもんで、つい調子にのっちまった。悪い悪い」
「え…っもう気付いたんだ…!」
「アタシはこう見えて、観察力はあるんでね。もう二人は恋仲、でげしょ」


ユメカがうーんと困ったように考え込み、苦笑した。


「……正直わかんないや。指輪は受け取ってもらえたけど、気持ちは聞いてないから」


不安を隠せないユメカが指先で指輪に触れる。
シチロージが所作に気付き、ふっと微笑んだ。


「心配することはないさね。指輪を受け取ったということは、気持ちに答えたということだ」
「そう思いたいんだけど……正直キュウゾウは気持ちが読めないから」
「そうです?アタシはキュウゾウ殿が一番分かりやすいが」
「え!?そうなの?」
「ええ、似ているせい、か」


(シチさんとキュウゾウが似てる?)


「うそー!似てないよ!確かに金髪だけど」
「そりゃ見た目は違う。もともとの人格のことでげすよ」


人格こそ明らかに違う気がするユメカは首を捻った。シチロージが「分かりませんか」と笑う。


「確かにアタシは丸くなりましたからねぇ。これも、カンベエ様に出逢ったからであるわけで。
もしも出会えなければ、アタシは只の人殺しだったかもしれないんでげすよ」
「へ!?嘘ー」
「いやいや、本当のことだ。槍を扱うのも、人を斬ることも純粋に楽しいから始めた」
「…………」
「本能で生きていた。だから、キュウゾウの行動の真意が読める」


シチロージのいつもまとう優しげな雰囲気からはとても考えられない、過去の姿。
ユメカが驚いたようにじっと見上げる。
怖がらせるつもりは無い、と言いたげにシチロージはくしゃりとユメカの頭を撫でた。


「きっとキュウゾウは、ユメカで変わるんじゃないでしょうかね。守るべきものが出来た時、人は変わる」
「…………」
「さ、家にお入りなさいな。食事もとっていないだろう」


長老ギサクの家が目の前。ユメカはこくりと頷いた。



――キュウゾウが私を守る……私も、キュウゾウを守りたい。みんなを、守りたい。



今、私ができること。



それは、導きの巫女として、カンナ村の仲間として行動することだ。
未来を守らなければ、皆で揃って笑いあう日は来なくなる。



「シチさん」
「ん。なんだい?」
「明日、手が空いた時でいいから……皆をギサクさんの家に集めてくれないかな」
「それは構わないが、いったい……」
「みんなに話したいことがあるの。私のこと、みんなのこと、凄く大切なことだから」


意思を固めたように真剣に話すユメカに、シチロージはそれ以上何も聞かずに頷いた。
ユメカはほっとしたように微笑む。
これからが大切な時だ。自分の居場所が分からないなんて、悩んでいる暇は無いのだ。
後で後悔するまえに、行動を起こさなくては。



私も大切な人を守る――。



心臓の上にある石が、強く光を放った。



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09.07.21 tokika

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