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ユメカはコートの裾から手を放し立ち上がった。結っていた髪を解き、髪留めにしていたハンカチを手に取る。
キュウゾウがハンカチに視線を向けたことを確認し、中から小さなものを取り出した。
それは、装飾店でおばあさんから貰った、紅い宝石が埋め込まれた指輪。ユメカの左手の薬指にあるものと同じものだ。
「これを……キュウゾウに貰ってほしいんだ」
「…………」
「この指輪、私が今付けてるのと同じなんだけど、この石が互いを引き寄せ合う力を持っててね。それで……」
「…………」
緊張と戦いながらユメカは小さく息を吸いこんだ。
瞬間、これまで留めていた思いがせきを切ったように溢れる。
「私、キュウゾウとずっと一緒にいたいから」
石の力に頼るのは浅はかかもしれないが、見える何かで繋がっていたいという気持ちがあった。
しかし互いに想い合っているわけではないため、拒否されることも覚悟し指輪を握り締めた。
勇気を振り絞っていたユメカの頬は紅潮し、キュウゾウの視線から逃げるように瞳を逸らす。
その視線を戻すように、キュウゾウがユメカの頬に指を這わせた。驚いたユメカがぴくりと反応し、不安げな表情を浮かべ顔を上げる。
熱を帯びた瞳。その瞳と交わった瞬間、キュウゾウは刀を交える瞬間のように心を揺さぶられた。
強い相手を前にした時に起こる血の沸く感覚。しかし、今目の前にしているのは華奢な女。
キュウゾウは今まで感じたことの無い自身の内なる感情を確かめるように、再び自らの口でユメカの口を塞いだ。
「……!?」
ユメカが目を見開く。
キュウゾウが――…
今起こっていることを理解すれば心臓が暴れ出し、唇の感覚が直接脳へと響く。
自分はどうすればいいのか分からず、全身の熱が上がっていき、深くなる口付けに息がうまくできなくなり少し身を引いた。
しかし唇は離れてはくれない。身体を支えられ、続く慣れない行為に意識が朦朧とした。
「まっ……、…!」
制止を求めるように口を開けば、熱が入り込み舌を絡め捕られた。
今度こそ息ができない。しかし今まで感じたことのない恍惚とした満たされる感覚。全身の力が奪われていく、その時。
握る力が失われたユメカの手にキュウゾウは手を絡め、中にあった小さな光を手に取った。
キュウゾウがゆっくりと唇を放し、ユメカを見つめる。
酸素を求めて乱れた呼吸をするユメカに、キュウゾウは口の両端を吊り上げてみせた。
「貰い受ける」