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先程とってしまった態度を後悔しながらユメカが歩いていると、通り過ぎようとしていた左隣の家から声が聞こえてきた。
「聞いてくだされおさむれぇ様、嫁はおるだか?」
「動かすのは口じゃなくて手」
ひょっこりと入り口から顔を覗かせれば、ヘイハチとおばあさんが何やら道具を製作していた。
ユメカが覗いたことで屋内に影ができ、ヘイハチ達もユメカに気付く。
「ああ、ユメカ」
「こんにちは、何してるの?」
「なに、ちょっとした武器造りですよ」
へー、と言いながらユメカがヘイハチの手元を覗き込む。今の形から想像すると、ボーガンみたいなものになるのだろうか。
その時おばあさんが糸のような目を更に細めた。
「おさむれぇ様、嫁さんかい?」
ユメカがぎょっとするのと同時に、ヘイハチは深い溜息を吐いた。
「どうにも私の恋愛事情が気になりますか」
「んだぁ、わしの孫も丁度良い歳でな。嫁に出したいんよ。どうだべ?」
「私はもう恋愛するつもりはありませんので、お言葉ですが結構です」
その言葉に驚いたユメカは、瞳を大きくしてヘイハチを見つめた。
なんでそんな風に決めてしまっているのだろうか。それに、『もう』ということは前に何かあったことになる。
ユメカの視線に気付いたヘイハチが、たは、と笑みを浮かべた。
「いや〜歳ですね。恋をするのも疲れます」
「ええ!ヘイさんまだ若いよ。きっとまた恋しちゃうって!だからそんな風に決め付けないで、もったいない」
「……そうですか?でもきっと実りませんね。そんなの疲れるだけだから嫌です」
ユメカは眉をハの字にさせた。実らないなんて、そんなの分からないじゃないか。
それに、片思いだって苦しいことばかりじゃない。人を好きになること自体が幸せだ。しかしこれは自分がまだ恋愛の経験が浅いからそう思ってしまうのか。
そんな時、小さな足音がふたつ近付いてきた。コマチとオカラだった。
「ヘイハチさん、モモタロが呼んでるです。機械仕掛けのことで相談があるってさ」