samurai7 | ナノ
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お風呂からあがったユメカはキララの着替えを借り、陳守の森へと出ていた。
落ち着いて、ひとりで考えたかった。


自分は違う世界から来た人間。
しかし、今首から提げている石が自分の存在を示している。
信じられないことに、こちら側の人間だったというのか。


でもそれならば、こちらの世界に前振りなく突然来た理由も頷ける。
帰るべきところに帰ってきたに過ぎないのだから。


視線を落とせば、闇に浮かぶ白い花が足元にあるのに気付いた。
白く輝く花。こんな風にしっかりと地に根を張り、凛と立っていられたらいいのに。


ユメカは花に触れようとそっと手を伸ばした。
しかし手前にあった鋭い草に指を掠めてしまい、ちりっと痛みが走った。
うっすらと血がにじむ。


「はぁ……」


手を引き、溜息を吐いた。
弱い自分は此処で一体何をすべきなのだろうか。何が出来るというのか。
不安でたまらない。


その時、湿った土を踏みしめる足音が聞こえてきた。
驚いて顔を上げれば、森の奥へ向かおうとするキュウゾウの姿だった。


「あ……待って!」


思わず声を上げて駆け出す。
しかし足元が悪いというのにキュウゾウ一点を見つめて走ったため、木の根に足を引っ掛けてしまった。
転ぶと思って身構えるが、キュウゾウに片腕で受け止められる。


「ありが…と……」


服装のせいで出ているお腹。
支えるためとはいえ初めて直に触れられ、
ユメカはかっと恥ずかしくなった。お礼の言葉も言いながら小さくなる。


「ちゃんと足元を見ろ」


キュウゾウが言った言葉らしい言葉に、ユメカは驚き顔を上げた。
慌てて頷く。


「うん、気をつける」


姿勢を立て直し、キュウゾウと向かい合った。
キュウゾウはただユメカを静かに見る。
しかしユメカは気まずそうに俯いた。
暫しの沈黙。
最初に口を開いたのは、ユメカだった。


「キュウゾウ……、私さ、導きの巫女なんだって」
「…………」
「私……どうしたらいいかな。
私の本当の居場所、どこなんだろう」


不安の思いを口にしたユメカは、ついに表情を苦しげに歪めた。
キュウゾウの前では素直になれる。
しかし、こんな情けない姿を見せる自分は好きじゃない。
複雑な思いが入り混じり、夜の闇に溶けて消えてしまいそうになっているユメカに、キュウゾウは手を伸ばした。


ユメカの手を取る。
岩場で強く腕を引かれた時とは違い、優しく温かかった。


「ユメカは此処にいる。ただ、それだけだ」


そのまま不意にキュウゾウの視線がユメカの手元に移った。
キュウゾウが口元に寄せる。
すると突然、先程ユメカが草で切った指に舌を這わせた。


「………っ!」


ユメカは顔を真っ赤にして、キュウゾウの信じられない行動に目を見開く。
指から伝わる、温かく柔らかいもの。
にじむ血を口に含んだキュウゾウは、一度上唇を舐め、
ユメカの手を離し踵を返した。
そのまま森の奥へと歩き出してしまう。
一方ユメカは力が抜け、その場に座り込んだ。


「……ーー!」


言葉が出てこない。
キュウゾウは普通にこんなことをする人なのだろうか。
不安は何処へいってしまったのか、胸の内をかき乱されたユメカはキュウゾウの去っていった方を動揺しながら見つめた。

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