THE LAST BALLAD | ナノ

#73 エルゲルヒェンへ

 その発言を受けたピクシスが静かにアンカへ目配せすると、アンカは静かに頷き、そのまま部屋を出て行くとある場所へ向かった。重い沈黙の中で王政の幹部たちは輪になりこそこそと何か話しておりこちらまでは聞こえないが、おそらく考えているのは自分達の事だけ、だろう。

「クソ……まさかこのような時に壁が破られようとは……」
「しかし……不幸中の幸いだろう。力は見つかっているのだ。後は器が受け止めるまでここで持ちこたえればいい。あの方がそれを手中にするまで数日の辛抱であろう」
「あぁ……焦るでないぞ。今は民意に囚われる必要は無いし、目先の避難に右往左往すべきではない」
「避難民が我が領地に入ってくるかもしれんのだ」
「あぁ……とても耐えられることではあるまい。皆誰しも同じ思いであるのだ……あと数日さえ乗り切れば何とかなる、ウォール・シーナさえ残ればどうにでもなる」
「ああ、レイス卿さえ戻れば……」

 大臣からのあまりにも非情な命令を受けて上層部からの命令という事で動けないままの自分達兵団員には聞こえないような声量でヒソヒソと話す上層部の貴族たちは不敵な笑みを浮かべた。これが今自分達の世界を統治している王政だと思うと…。そんな中でも相変わらず無能な偽りの玉座に鎮座する王は頬杖をついて黙っている。
 王政たちはエレン巨人の持つ叫びの力とレイス家さえいればどうにでもなるのだとその力さえ残るのなら貧困に苦しむ現人類の活動領域であるウォール・ローゼさえも見捨てる算段をつけている。

「やるしかない、扉を塞ぐんだ!」
「待て!!」
「待ってたら手遅れだ! とにかく! もう既に意思は下されたんだ!!」
「急いでやるしかないだろ!!」

――「選ぶのは誰だ、誰が選ぶ?」
 ナイルの脳裏にはエルヴィンが自分へ投げかけた問いかけがぐるぐると脳内を張り巡らせていた。そして王政の非情なる決断、残してきた家族、ナイルの決意が固まった。
 ナイルは決意した。そしてようやく目が覚めたのだ。この国に仕えるべき玉座がここではないのだと、この腐った王政に仕えていた、しかし、それは全て過ちだったのだと。彼らは自分達が尽くしても自分達の私利私欲のことしか頭にないのだ。
このままではウォール・ローゼに残してきた自分の家族は巨人に殺され、そしてシーナとローゼを守る壁はこのまま永劫別ち、二度と行き交うことも出来ない。
男として、父として、例え王政に背いてもこの手で家族を守るのだ。

「何をしている!? 早く動け!! 背けば王政への反逆罪となるぞ!!」
「……できません!!」
「なに!?」
「俺は……ウォール・ローゼ側の人間だ。扉の閉鎖は阻止させてもらう!!!」
「貴様!?」

 憲兵団師団長・ナイル・ドークが下した決断は王政の命令に背いた道だった。

「王に刃向かう気か!?」
「あぁ、」

 詰め寄る大臣に対してナイルの瞳には先ほどまでの不安や迷いは無かった。愛する家族の待つ故郷を守らねばならない。不器用な親友が身を引きそうして得た束の間の平和、幸せ。すると、迷いなく王政へ歯向かう決意を決めたナイルの背後で声が響いた。

「私も加勢しよう」

その意外な声の主にナイルは驚きながら振り向いた。自分達兵団の背ろから姿を見せたのは三兵団を束ねるトップである最高検直射のダリス・ザックレー総統だった。思いがけない人物の登場にどよめきが起こる。その彼の背後には大勢の部下が一斉に手にした銃を天井へ掲げているが、もし何かあればその銃口はすぐ真っ向へ対立している自分達へ向けられることになる。眼鏡を光らせ姿を見せた兵団の最高司令官の姿に王政の大臣たちも言葉を失い忌々し気にその名を口にした。

「ッ……!! ダリス・ザックレー」
「彼らの返事は意外じゃったかの? ザックレー総統よ」
「いいや? ちっとも」

 突如姿を見せたザックレーに対し、初めから彼が姿を見せる事を見越していたかのように彼に問いかけ、通常通りに対話するピクシス。

「……何だ? これは……」

 突然の出来事に何が起きたのかわからないまま混乱する王政内を無視して武装した大勢の兵士が続々と彼へ続けと言わんばかりに王都へ詰めかけている。眼鏡を正しながらザックレーは静かに真実を告げた。

「先ほどの報告は誤報です。ご安心下さい。今現在巨人の襲撃は確認されていません」

 ザックレーの告げたまさかの事実に今まで自分達の助かる道や私利私欲にまみれていた中でまさかの語法だと知り慌てふためく王政府の貴族たちは怒りを露わにしている。

「貴様!! 何のマネだ!?」
「首謀者ならワシじゃ」
「何ぃ!? ピクシス!?」
「中央憲兵の大半はどこかへ出払っておるようですな。それを幸いと言うべきか……」

――「彼ら(王政)に尋ねてみましょう。彼らは人類の手綱を握るに相応しいのか……。決めるのは王政(彼ら)です」

「なん……だと?」
「先ほど、駐屯兵団と調査兵団は同調していないと申し上げましたが。ひと言……、言い忘れてましたわい。あなた方にも同調していないと。ワシはこのエルヴィンと同じ思いを持ちながらも、結局はあなた方政府に任せる方が人類のためになるのではという迷いがあった。恐らくワシらよりずっと、壁や巨人に詳しいでしょうからな。もし、あなた方がより多くの人類を救えるのであればエルヴィンを処刑台に送ってもよいと思っておった。ワシら一部の兵士はここで命を賭けることにしたのじゃ。あなた方の意思次第ではここに至る反逆行為を白状し全員で首を差し出す覚悟じゃった。しかし…あなた方が自らの資産を残り半数の人類より重いと捉えておいでならば…我々が大人しく殺されとる場合じゃありますまい。たとえ我々が……巨人の力やこの世界の成り立ちに関し無知であろうと……じゃが、今あなた方が答えをくれましたわい。たとえ…巨人の力や成り立ちに関して無知であろうと、我々の方があなた方よりは多くの命を生かせましょう。人類を生かす気の無い物者を頭にしとくよりは」
「……!! ばッ……馬鹿なことを!! ここを制圧したから何だというのだ!我々を銃で脅した程度で民衆が貴様ら兵士に従うと思っているのか!? 民衆は王にのみかしずくのだぞ!? 地方の貴族も黙っておらんぞ!! 貴様らの愚行がこれからこの壁に混乱と悲劇と破滅をもたらすのだ!!」
「…どうやら理解しておられぬようですな。これはただの脅しではない。クーデターじゃ」

 重々しい空気の中でピクシスが告げた言葉に誰もが沈黙した。そう、これは兵団が起こした革命である。その中を再び戻り駆け付けたアンカが城内に残る王政の狗共も捕らえたとの報告を告げた。

「ザックレー総統、中央憲兵の制圧、完了いたしました」
「な!?」
「うむ。兵というのは時には王よりも上官に従うものでな……」
「そもそも、それが偽の王であればなおのこと。我々は真の王を立てるつもりです」
「まさか……そこまで……こんな……詐欺のようなマネがまかり通ると……」

 突然反旗を翻した兵団達に王政たちは言葉にならない、そんな中でエルヴィンの厳しい声が響く。

「これが本当に非常時であったなら、あなた方の先ほどの判断こそ、「人類憲章第6条」違反。さらに偽りの王を立て、政治を私(わたくし)したことを加えれば極刑に値するかと、」

 先程までエルヴィンへ長々と述べた罪状をそのままそっくり王政へ返したエルヴィンの低い声、そして厳しい眼差しが小太りの大臣へ注がれる。もう王政は何も言い返すことが出来ない。

「ぐッ!! クソッ!! 起きろ老いぼれ!!」

 形勢逆転され、自分達の私利私欲にまみれた王政たちの体制が露見され、王政府の貴族たちはもう何も言い返すことが出来ない。悔しさから小太りの大臣が怒りを露わに気付けばいつの間にか玉座に凭れていた偽りの王へ蹴りを見舞ったのだ。

「ほッ!! 何じゃ……!? 飯か!?」

 どうやら頬杖をついて威厳を保ち守っていたかに見えた偽りの王はこんな状況下にも拘らず寝ていたようだ。呆れてもう何も言えない、王に向かって負け惜しみといわんばかりに大声で吠え面を掻いた。

「黙れ! この役立たずが!!」

 負け惜しみに叫ぶ大臣を取り押さえていく兵団達、銃に遮られながら次々と連行されていくのを見届けながらザックレーはここに到着する際に手にした号外をエルヴィンに手渡した。

「見たまえエルヴィン」
「……これは!?」
「今、巷を賑わせているベルク社の号外だ。記事にはリーブス商会の殺害現場から生き延びた会長の子息、フレーゲルの証言が記載されている。それによると中央憲兵にリーブス商会が脅された事実とその工作によって調査兵団に民間人殺害の罪が被せられたこがトロスト区の公衆の面前で明らかにされたのだ。同時に王政の圧力にすべての情報機関が従っている現状の告発、果てはフリッツ王は偽の王であり本物の王は、とある地方貴族として世を忍んでいるとの話も。王政の中枢に携わる中央憲兵の証言と共に掲載されている」

 今まで彼を拘束していたエルヴィンの手枷が外れていく中でエルヴィンは最期の日を迎えようとしていたが、これでまた少し地獄へ行くことは免れる事が出来たのだった。例え数カ月生き延びただけだとしても、大きな勝利を掴んだこの瞬間、選んだ者達の選択は国を変え、偽りの王を打ち砕いたのだ。

「エルヴィン……お前の勝ちのようだな……」

 エルヴィンの勝利に親友が処刑を免れ安堵したナイルが駆け寄るも、エルヴィンは険しい表情のままその場に佇んでいた。ベルク新聞社の号外を目の当たりにしてもその表情が晴れることは無い。殴られて腫れた口元を動かしながらエルヴィンは重々しい表情で答えた。

「……どうした? 嬉しくないのか?」
「ナイル……これで人類はより険しい道を歩まざるを得なくなったぞ……」

 制圧された王都、次々ととらえられていく大臣達は険しい顔つきでそう告げるエルヴィンの表情は浮かないままに…彼はこの先王政が隠し持つ壁内の情報、歴史が潰え、そして新たな体制をまた一から築いていかねばならない、革命は終わりを告げたが、これからこの世界の火事は自分達が握る事になるのだ。仮初の楽園にこれから訪れるのは混沌の時代だ。
 自分達が王政を制圧したように、いつかの未来、自分達も制圧される未来が来るかもしれない。革命は終わりを告げた。しかし、また新たなる混乱の芽がまた増えただけに過ぎないのかもしれない。それはこの先の未来にならないとわからない。
 こうして危うく処刑となりかけたエルヴィンの知恵と働きを持って、そして初めは小さく消えてしまいそうだった小さな力がやがて大きな波紋となり広がり、この世界を根底から変えたのだ。
 エルヴィンの働きにより兵団組織によるクーデターは成功した。そして、ザックレーによる現体制の崩壊と偽りの王による政治の崩壊宣言がエルヴィンのために用意された処刑台の上で行われた。
 しかし、それはまた新たなる不安となるのは無理もないだろう。
突然今まで信じて税金を納め暮らしてきた者たちからすればこれが偽りの王政なのだと言われて戸惑いは抑えられないし、今まで当たり前のように信じてきた体制が崩れ変化するのだから。
 人間は変化を恐れ、強い抵抗感を抱く、その通りに民衆たちはナイルは記者や民衆にあっという間に囲まれた。馬車に乗り込もうとするエルヴィンの瞳には多くの住民達の不安そうな表情が見て取れた。

「フリッツ王政は人類の存亡を賭けた計画を妨害し、人類の大半を体制の保身のために切り捨てる決断を下した。それらがこのクーデターの動機で間違い無いのでしょうか?」
「はい、その通りです。そして先ほど行われたザックレー総統による宣言通り、我々の目的は兵団組織による統治ではありません。ベルク社の号外にあるように、フリッツ家は現在まで人類を導いてきた歴史を継承する王家ではないことが判明しました。フリッツ家に代わる真の王家から新しい王が立ち、民を導く役割を担う事になるでしょう。この激化する巨人の襲撃の最中で先導者たるべき王政の不信は人類存亡の危機と言えましょう。我々兵士の務めは人類を巨人の脅威から身を粉にして守り抜くこと。ならば我々が成すべきことはその真の王家に先導者としての威厳と民の信頼を取り戻していただくよう助力することです」

 ナイルは自身の発言に違和感を覚えつつも今まで真実を隠蔽され偽りの真実を生地にしてきた記者たちへ声を掛ける。

「それは我々にとって喜ばしいニュースです。新聞社の者ほどベルク社の号外に勇気づけられたのですから……」
「しかし……」

突然今まで信じてきた王政の偽りの事実にまだ民衆たちはそう簡単には受け入れることは出来ないだろう。戸惑う住民へ目をやる記者も戸惑いがちにナイルに告げる。

「それは……分かりますが、果たしてそう簡単に民衆が新しい王を受け入れるかどうか……」
「不安に思っている者が多いのは事実です……いったい何を信じればいいのか……。突然今まで信じていた王政が嘘だと知らされた民衆の思いは複雑でしょう。特に貴族階級は各々の利権の行方に神経を尖らせています」
「その点で統治形態の維持は賢明な判断だったと思います しかし……その真の王家が台頭したからと言って フリッツ家が果たした求心的な役割を同じように望めるものでしょうか? もはや、この激動する世の中の状況において我々民衆は何を求めて、何を信じればいいのか……わからないのです」

 もっともな意見を受けナイルは言葉を詰まらせる。確かにその通りだ、クーデターは成功したが、エルヴィンの先ほどの重苦しい表情はこうなる事を見越していたからだ。果たしてこれでよかったのだろうか…いざ王政が崩壊すれば戸惑う民衆の姿にエルヴィンは不安を吐露する。

「人類を思えば……あのまま王政にすべてを託すべきでした。ピクシス司令の言う通り王政がいくら浅ましく下劣であっても……今日まで人類を巨人から生き永らえさせた術があります。人類の半数を軽んじ見殺しにするようであっても、人類が絶滅するよりかはいい。エレンの持つ巨人の力やウォール・マリアの奪還計画や仲間の命も自分の命と共に責任を放棄し、王政に託すべきだったのでしょう……ここ数日の私の思いは……仲間とは別の所にありました……私が常日頃仲間を死なせているように、エレンやリヴァイ…ハンジ、皆の命を見捨てるべきでした…人よりも…人類が尊いのなら……」
「君の使命は相変わらず辛いな…死んだ方がはるかに楽に見える」
「……総統、なぜこちらの険しい道を選んだのですか?」
「では君はなぜ、ピクシスに助言したのだ?エレンを王政に託して今の立場から退きたいのならピクシスにいらぬ入れ知恵をせず君の部下にも勝手なマネができないように指示すればよかったのだ」

 ピクシスに提案し、そしてハンジとの最後に交わしたやりとりを思い出しながら先ほど出にしたベルク社の号外に目を通す。ハンジが起こした行動がこのクーデターを成功させた証だ。質問を質問で投げかけられ黙り込むエルヴィンにザックレーの方から自分の理由を話し始めた。
 それは、その無表情の眼鏡の奥で彼が秘めていたのは野心、そして総統と言う肩書の割にはあまりにも子供じみた考えだった。

「私の理由を言おうか? 昔っから王政(ヤツラ)が気に食わなかったからだ!」
「……は?」
「むかつくのだよ! 偉そうな奴と偉くないのに偉い奴が……イヤ……もうむしろ好きだなぁ。思えばずっとこの日を夢見ていたのだ……。つまり、君らがやらなくても私がくたばる前にいっちょかましてやるつもりだったのだ! 人生を捧げて奴らの忠実な犬に徹しこの地位に登りつめた。クーデターの準備こそが生涯の趣味だと言えるだろう。君も見たかっただろ? 奴らの吠え面を! 偽善者の末路を! あれは期待以上のパフォーマンスだった。まさかあの歳でベソをかくとはな! だが本番はこれからだ……何せ何十年もの間奴らに屈辱を与える方法を考えていたのだからな。今回もピクシスと違って私は途中で白旗を上げるつもりはまったく無かった。奴らの下劣さなどは私の保証済みであったしな、このクーデターが人類にとって良いか悪いかなどには興味が無い」


 ザックレーが告げたのはただ王政がうざくてムカつくから、いつか必ずこうしてクーデターを起こしたかったと言う事実だった。そしてそれは思いがけない大舞台で大成功し、彼は嬉しそうに子供っぽい笑みを浮かべ無邪気に喜んでいる。ザックレーの表情は晴れやかでとても先程までの威厳は微塵も感じられない。

「私も大した悪党だろう。しかし、それは君も同じだろう?」
「……えぇ、……そのようです」
「君は他の人々に人類の進む道を判断させたが、それは仲間を見殺しにする決断を下すのが今更怖くなって逃げたわけではなかろう。君は死にたくなかったのだよ、私と同様に人類の命運よりも個人を優先させるほど……」
「……自分は とんだ思い上がりをしていたようです……」
「君の理由は何だ? 次は君が答える番だぞ」
「私には……夢があります。子供の頃からの夢です」

 遠くを見つめるエルヴィンにはかつて自分のせいで中央政府に抹殺された父の優しい眼差しがあった。



王都でクーデターが成功し、それは人類にとっては大きな転換期を迎える事になるが、一個人の市民たちは戸惑いを隠せず、半ばパニックに陥っていた。しかし、遠く離れたこの場所ではまだその事実を知らず、エレンとヒストリアは奪われたまま、未だ出口の見えない森の中で追い込まれていたリヴァイ班はその中でひねり出した苦肉の策を講じ、マルロとヒッチの協力のお陰で中央憲兵のアジトを突き止め、その諸悪の根城へと無事に辿り着いた。

「あそこが中央憲兵の根城です」
「よし、後は俺達でやる。お前達は怪しまれないうちに隊に戻れ」
「はい、」

 ジャンが機転を利かせたおかげで現在自分達を追い詰めている憲兵団の超強力な助っ人を得、追い込まれ絶体絶命の危機を迎えていた調査兵団は無事に自分達を排除しようともくろみ中央憲兵の潜伏先へ向かう。その案内を終え、リヴァイの指示に従いその場を後にしようとするマルロとヒッチへ労いと感謝の意味を込め、義理人情に厚い男は静かに告げた。

「マルロ、ヒッチ。助かった」
「はっ!」

 人類最強と恐れていた人物からの感謝の言葉に思わずマルロとヒッチもキリッと真面目に表情を引き締め二人も兵士の一員であるように敬礼を返した。リヴァイはよくその人類最強の名前が良くも悪くも目立ち、よく冷たい人間だと誤解されがちだが、彼は本来人間としてはとても良く出来た人間だし、粗暴で不器用だが兵士としての礼儀や人間としての良識はしっかり持っている。
 初めは調査兵団で疎まれたかもしれないが、自分が調査兵団を抜けたこの5年間の間にあっという間に多くの部下から慕われる人間になるだけの人柄と人徳は持っている。最初彼を誤解している人間は彼の本心を知るにつれみんな彼を慕う。それは104期生でもあり、そして自分もそうだった。



「ハンジさん! これだけ配れば十分だ!」
「ありがとうロイさん、後は手筈通りここの関係者と家族を連れてトロスト区へ行ってください。リーブス商会がかくまってくれます」

 号外を配り終えると、まだ王都でのクーデターの成功を知らないハンジ達はこの号外を配ったベルク社の社員たちの身を案じて急ぎトロスト区への非難を促していた。その中は大慌てで急ぎマントを身に着け新聞社を後にするハンジとモブリットは未だ行方知れずのリヴァイたちの身を案じ、ハンジはもう一度唯一の手掛かりの元へと行こうと副官のモブリットへ提案した。

「モブリット、もう一度リヴァイ達との合流地点を覗いてみよう。リヴァイ達からメッセージがあるかもしれない、」
「了解です、ハンジさん」

 二人、はやる心を押さえながらストヘス区で対人制圧部隊と交戦する前にジャン達が待機していた厩舎だった。誰かが居る、駆け寄りと其処に居たのはリヴァイ達ではなく、一角獣のエンブレムを背中に刻んだ二人の兵士、先ほどリヴァイ達から指示を受けここに辿り着いたヒッチとマルロだったのだ。

「おや! ここはモッペルさんの納屋ですか?」

 ハンジの言葉にマルロとヒッチが言葉を見合わせる。モッぺルは太っちょという意味、そして……。

「いいえ……ここはエルゲルヒェンさんの物です」

 エルゲルヒェン、それは小さな天使という意味だ。
そう、その背に自由の翼を纏う調査兵団の大事な…。ハンジは嬉しそうに彼らの無事を知り安堵した。この二人は自分達の味方であるとすぐに分かった。何故なら二人が連れている馬は彼女の最愛のパートナーだ。

「……そうでしたね。我々はその小男の友人です。彼らの元まで案内してもらえますか?」

 マルロとヒッチの助力を得て、急ぎ号外を手にリヴァイ達の元へ馬を走らせるハンジとモブリット達はその道の途中で人だかりが出来ているのを確認した。

「……何の騒ぎだ?」

 現在指名手配中で素性の知れぬ自分達よりも憲兵の団服を着ているマルロとヒッチが馬から降りて尋ねるとどうやら王都で兵団によるクーデターが起きたと言う事実だった。その吉報に思わず歓声を上げる二人。ハンジは自分達がこうして動けるために敢えて自ら出頭し囚われの身となった彼の無事を知り安堵した。

「やった! やりましたよハンジさん!!」
「ああ……エルヴィン……本当に……。モブリット! 君は急いでエルヴィンに伝えてくれ! 例の手掛かりの話だ」

 エルヴィンが解放されたと聞き、ハンジは未だ囚われたままのエレンの身を危惧し、急ぎモブリットを伝令を出す。そう、大事なことを未だ彼らに伝えなければならない。このままだとエレンとヒストリアは…。はやる気持ちだけがハンジを突き動かし、馬をひたすら走らせた。

To be continue…

2020.03.19
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