THE LAST BALLAD | ナノ

#30 アニ・レオンハート

 深い森の奥、対峙したエレンの眼前には自分に向かって身構える女型の巨人の姿があって。その姿はまるで対人格闘術の訓練の時に対峙したアニの構える姿と完全に一致して見えた。
 告げられた女型の巨人の正体はあまりにも身近で、さらにかつての同期と言う事でエレンは信じられないと言わんばかりにアルミンに問い掛ける。女型の巨人の正体は本当にアニなのか。裏付けされた証拠があるのかと。

「アニが……? 女型の巨人? 何で……そう思うんだよ……アルミン」
「女型の巨人は最初からエレンの顔を知っていた。それに、同期しか知らない筈のエレンのあだ名「死に急ぎ野郎」に反応を見せた。何より大きいのは実験体だったソニーとビーンを殺したと思われるのがアニだからだ」

 やっぱりそうだったのか。アルミンの仮説を受け入れるウミとは真逆に女型の巨人の正体を聞かされてもアニではない理由を探すエレン。ウミが抱いた疑惑が、あの時女型の巨人と目が合った瞬間感じた違和感がどうか気の所為であって欲しいと願ったが、確信に変わるのを感じた。対峙する敵は苦楽を共にしてきた104期のエレンたちの同期、アニ・レオンハート。
 どこか他人と距離を置きたがる彼女は人とあまり関わらないようにしてきたのは、もしかしていつかこうして戦うことが分かっていたからなのだろうか。それでも初めての出会いを思い出す。自分の過去を知り、脅してきた時、助けてくれたのはそれでもアニだ。なかなか心を開いてくれなかったのも、きっとそういった理由だったのだ。

「何でそんなことがわかるんだ?」
「あの2体の殺害には高度な技術が必要だから。使い慣れた自分の立体起動装置を使ったはずだ。」
「だから装置の検査があったろ、アニは引っかかってない……」
「あの時……アニが出したのはマルコのだ。だから追及を逃れる事が出来た」
「は……? 何言ってんだ、どうしてマルコが出てくる?」
「……わからない……」
「見間違いじゃないのか?」
「いや、あれは確かに見覚えが……「オイ、ガキ。それはもうわかった。他に根拠は無いのか?」
「ありません……」

 作戦会議なのに話が進まない。リヴァイが悶着しているアルミンとエレンに追求するも、確証が持てないのかアニだとはっきりは言いきれず、アニと同期であるアルミンにも彼女と戦う戸惑いが見えた。
 それでも、ここでいつまでも話し合っていても事態が良くなることは無い。明後日に迫るエレンの王都への引渡しは避けられない。確信はなくても壁の破壊を目論む敵は居るのだ。人類の存亡をかけそれでもやるしかない。
 ミカサが後押しするように先程の戦いで見たありのままの光景を伝えた。彼女はもう迷いは捨て去っていたようだった。

「アニは……女型と顔が似てると私は思います」
「は!? 何言ってんだ、そんな程度の根拠で」

 次々とアルミンが口から零す推理にアニだとまだどこかで信じたくないエレンはそんな根拠だけで彼女を捕らえるのかと。思わず立ち上がっていた。憶測にしてもただ顔が似てるからという理由で疑われるアニもいい迷惑だろう。
 女型の巨人と対峙したミカサはエレンに冷静にそう告げた。しかし、あくまでそれはミカサの主観での意見であり、その女型の巨人の振り向いた顔にアニが重なる。だが、ウミも拳が自分に当たりかけた時、とっさに機転を利かしてガスを吹かして後退した時、女型の巨人は驚いたように自分を見ていたのが浮かんだ。まるで、「なぜ、ここにいるの」とでも言わんばかりの驚愕の表情で。ウミはぽつりとミカサに同意してリヴァイが嵌めてくれた左手の薬指の右手で握り締めていた。

「私も、殴られる間際にアニが重なりました」
「そうか、つまり……証拠はねぇがやるんだな…」
「証拠が無い…? 何だそれ……何でやるんだ? どうするんだよ……アニじゃなかったら」
「アニじゃなかったら……アニの疑いが晴れるだけ」
「そうなったらアニには悪いと思うよ……でも……だからって 何もしなければエレンが中央のヤツの生贄になるだけだ」
「……アニを……疑うなんて……どうかしてる」
「エレン、アニと聞いた今思い当たることは無いの? 女型の巨人と格闘戦を交えたのならアニ独特の技術を目にしたりはしなかったの?」

 ミカサに問われてエレンは口を噤んだ。それは図星だっと言ってるようなものだった。そもそも女型の巨人に敗北した原因を辿ればあの独自の両手を上げて左足を踏み出した構え。
 小柄ながらによく上がる足を振り上げ繰り出すあの蹴り技。女型の巨人はまるでアニが乗り移ったかのように。全く同じ体勢で自分に蹴りを繰り出したのだ。その姿がアニに重なり形作ってゆく。

「わかってるんでしょ? 女型の巨人がアニだってこと」

 顔を覗き込むように語り掛けてきたミカサの言葉に、顔の凄まれエレンは黙り込む。沈黙は肯定か、でもまだ確信が持てない、いや、確信したくなかった。だが、ここでどうするかあぐねいたとしても、何もしないままで居ても現実は変わらない。エレンが王都へ連れていかれてしまったら調査兵団は、人類は本当に終わってしまう。どっちにしろもう後戻りは出来ない。
 この不利な現状をひっくり返すためには、大きな力が要る。ウミはさっきの気まずさを振り払うかのように彼を一人の男として認識させられることになったエレンをそれでも導いた。

「エレン、やろう、」
「ウミまで、なんで……」
「私も彼女のことは知っているから、きっと力になれます。なぜそこまでして私たちの仲間を殺してエレンを連れ去ろうとしたのか、本心を確かめたい…。それに、どんな理由があるにせよ、多くの仲間を殺された。私が戦っていれば、もしかしたら彼女を止められたかもしれないのに。それに、リヴァイ兵長は怪我をしています。戦力は多い方がいいでしょう」
「ああ、ウミ、君にもぜひ活躍してもらいたい。それに、女型の巨人を追い詰めたミカサ。聞けば君はトロスト区奪還作戦でもその実力が認められ、新兵にして兵士100人分と言わしめたそうだな。リヴァイの負傷で新たな戦力の補填が必要だ。リヴァイの分まで頼むぞ」
「はい、この責任を取ります。次こそは……必ずやります」

 もう二度と感情に捕らわれて勝手な行動をして暴走しないように。リヴァイの代わりに必ずやアニを捕まえる。
 ミカサは揺るぎない決意と、そして自分のせいで負傷したリヴァイの代わりに戦う事を既に決めていた。ミカサにとってエレンをさらおうとしたアニはもう敵あり、仲間だと言う考えは無い。
 何ともシンプルで極端な思考でミカサは動いている。エレンに仇なす者なら敵が何であれ躊躇わない、たとえそれがかつて五年間自分達を親代わりに面倒見て育ててくれたウミだとしても。
 エルヴィンはミカサの実力は訓練兵時代から飛びぬけていたと聞き、新たな戦力としてウミと対等に渡り合える存在として共にミカサを迎え入れたのだった。
 そして、今回、ストヘス区にてエレンを餌にアニをおびき寄せるため、エレンはウォール・ローゼからウォール・シーナ内のストへス区に入場した際、馬車から離れ、その間にエレンと背格好が似てるジャンがエレンの身代わりとして入れ替わる作戦だ。
 アルミンと同じく女型の巨人と遭遇したジャンがエレンの替え玉となる。しかし、同じ女型の巨人と遭遇した中でライナーはどうして外されたのだろうか。いや、今は考えていても仕方ない、それにこの作戦には本当にエルヴィンの中で身元がはっきりしている者、その信頼の値する人間のみで実行される。
 自分はその信頼に値する人物だと認めてくれた、エルヴィンの期待に応えたい。
 ジャンはエレンと背格好も体格も似ていると思うが、顔は目つきも目の形も大きさも正直似ても似つかないと思うが。
 男の子はよく母親に似るという通りにカルラに似てエレンは自分にとっていつまでもかわいらしいアーモンドのような瞳を持ちいつまでも手のかかる幼馴染で弟のような存在だと思っていたが、先ほどエレンが見せたのは紛れもなく自分を恋愛対象だという男の顔をしていて……、正直エレンにそんな一面があるなんて全く知らなかったからウミは本当に自分が申し訳なかった。
 しかし、ジャンがエレンに成りすましたとして、もし変装がバレたらジャンもただでは済まない。しかし、ジャンはどうしても知りたかった。
 何故アニがマルコの立体機動装置を持っていたのか。だからアルミンから誘いを受けてその提案を受け入れた。
 ジャンはアルミンと共に女型の巨人に遭遇した人物でもありその身元は確かだ。
 そしてそのエレンの護衛、そしてリヴァイの代わりの戦力として頭角を現し始めた捕獲要因として女型の巨人であるアニと互角に渡り合ったミカサ。
 そしてエルヴィンはアルミンが座学に置いて秀でた成績を収めていたことが分かった。そこで、エルヴィンはアルミンが信頼に足る人物かも見極める意味でも今回アルミンには持ちうる知恵を使いアニと交渉してストへス区内にある地下道へ誘導することを作戦の立案を命じたのだった。彼はとても賢い。後に調査兵団には欠かせない参謀となるはずだ。

「ちなみに、他の班はどうするんですか?クライスの姿が見えないみたいですが…」
「ああ、それなら問題ない。もともとクライスはリヴァイがミケに押し付けたからそのままミケ班にくっついて任務にあたってもらおうと思っていた。向こうも戦力が必要だ、やる気さえ出せばクライスは負けない」

 もう自分は5年間のブランクがある、その間に入団し、今は自分より先輩である兵士達にも示すべく、プライベートと仕事をきっちり分けてウミはそう尋ねると、他の104期のメンバーにもアニの協力者がいると睨んだらしく、女型の巨人捕獲作戦が完了するまでミケ班とクライスにアニを捕らえる作戦中その監視を命じたそうだ。

「そうなんですね、」
「クライスは104期生を卒業模擬戦闘試験の時から監督している。だから万が一女型の巨人の仲間が居たとしても彼が居れば警戒はしないだろう」
「そう、だったんだですね」

 知らなかった。確かにそういったことなら彼が適役だ。単独行動が多いのは他人を簡単に深く信用しない彼の処世術。
 彼とは復帰してからもなかなか一緒の任務になる事は無い、かつての部下だから連携などは彼とが一番戦いやすかったから、周りの人間はこの5年間で配属された兵士ばかりで自分を知る者もほとんどいない中で多少の寂しさもあった。

「ウミ、」
「は、はいっ……!」
「それで…君には憲兵団からエレンが万が一暴走した時の対応する見張りをつけろと言うことでエレンの成りすましたジャンと共に君も我々と一緒に馬車に同乗してもらう」
「はい、分かりました」
「ただ、ウォール・シーナ内部では立体機動装置は装備出来ないだろう。だがそれは荷物に隠して対策してあるから大丈夫だ。憲兵団はそんなに用心深くないからな」
「確かにそうですね、憲兵団は腐りきってスッカスカですから、早くエレンを引き渡して住人から奪った税金で昼間の宴会を楽しみたいでしょうし、」

 にこりと微笑みそう告げたウミの姿にウミがいかに憲兵団を目の敵にしているのかがわかる。いつも穏やかでふんわり微笑んでいるのに、口調は痛烈な皮肉で批判している。

「まぁ、それは表向きの話だ。ウミに本当に頼みたいのはアニ・レオンハートの姿での捕獲に失敗し、女型の巨人になった場合。そこからは君の出番だ、ウミ。三次作戦でアニ・レオンハートをハンジ班の元まで誘導して捕らえる。今回と同じ兵器を使って。もう今回のように多くの兵器は使えないが、もしそれで逃げられたら何としても捕らえてくれ」
「はい、分かりました」

 それぞれの与えられた作戦内容を話す中でもエレンは無言のままだった。ミカサはエレンが何故アニをそんなに庇うのかという乙女の複雑な感情も交えつつ、ウミの大切なリヴァイの負傷が自分のせいだと知ったウミがどんな反応をするのか、きっと自分を怒るだろうと内心覚悟を決めながらウミを見つめていた。

「では、作戦決行は結構は明後日だ。それまではゆっくり今日の疲れを癒して作戦に備えてくれ。健闘を祈る、以上、解散」

 エルヴィンの言葉で次々と解散していく中で、エルヴィンはウミの左手の薬指に輝く指輪を見逃さなかった。リヴァイは恐らく目が覚めたウミに愛を誓ったのだろう。その指輪はとてもよく似合っていた。

「ウミ、おめでとう。リヴァイから話は伺っていたが、」
「え? なんのこと? エルヴィン」
「そうでなければそこに嵌めたりしないだろう」
「あ、」

 先程のリヴァイからの突然のプロポーズ。舞い上がる気持ちの中で突然エレンからの告白、目まぐるしく起きた出来事にすっかり作戦会議中に指輪を外すことを忘れていた。指輪をつけての戦闘は切断の危険もあるので好ましくないのにこれ見よがしにアピールしているように思われていたかもしれない。

「も、申し訳ございません、大事な作戦会議中に。すぐに外しますっ、」
「いい、せっかくの指輪だ。無理に外すことは無い」
「それに、「リヴァイにはこれからの兵団の未来を担って活躍してもらうからまだまだ独り身でいてもらわないと困る」って言ったのはエルヴィンじゃない、」
「ああ、そうだったな。あの時、俺は君に酷なことをしたと思っている。だが、まさか妊娠していたとは知らずに……済まなかった」
「いいんです。もう、過去のことですし、赤ちゃんが流れてしまったあの時点できっと、あのタイミングでリヴァイの立場が未だ確かではない時に結婚するべきでは無かったことが良く、わかりましたから」

 エルヴィンからの謝罪を受けてウミは戸惑った。あの時のエルヴィンの判断があったからこそ、自分が調査兵団を去ったから彼は今の確固たる地位を築き、そして兵士長としてエルヴィンの刃となることが出来た。あの時はあれで良かったのだと思っているからこそあの時のことを謝られるのは違うと思った。

「俺は昔、まだ幼かった君に話した通りだ。いつ死ぬかわからない。両親ももう居ない、人生の伴侶など、俺には守る対象が多ければ多いと、いざとなれば動けなくなる、そう思って一人生きてきた。だからこそ、リヴァイにも同じように孤独を促したが、それは無意味だったということが、この5年間でよく理解した。ウミがまた戻って来たことで、むしろ守る対象が出来たことでリヴァイは巨人を絶滅させるという目的を何としても誓いの末に成し遂げるだろう。そうだ、挙式は?勿論挙げるのだろう?」
「え!? え、ええっと、それは……そのっ、でも、まずは今回の作戦を成功させて…ウォール・マリア奪還の足がかりにしないと…! 多くの仲間が命を失った中で結婚なんてまだ出来ません」
「そうか。むしろこんな時だからこそ式を挙げれば士気が上がるんではないかと思ったが、なるほど、君らしい。そうだな。式なら後回しでもまだ遅くはない。君の5年間の苦労の話も聞いた。だからこそ、その際はぜひ調査兵団総出で盛り上げよう。君たちはもう5年前から夫婦だ」
「そ、そんな……」
「だからこそ、見守っている。君ならきっとやり遂げられる。期待しているぞ、ウミ、」
「はい、エルヴィンぶんた……いえ、団長」
「大きくなったな、ウミ」

 ポンと、昔のようにエルヴィンは自分の頭を撫でてくれた。リヴァイは自分とはもう口約束や紙切れ一枚の夫婦ではないと言った。しかし、彼が周りに夫婦だと公言してとしても2人はまだ正式に書類を提出した夫婦なわけでもないし、形式上は未だ他人である。自分が幼少のころからの付き合いであるエルヴィンにとってウミはいつまでもかわいい妹のような存在で、それが他の男に貰われていくことに対して寂しさも感じていたのも本音である。さらりとそう告げ、まずは何としても今回の作戦を成功させようと、そう告げ去って行ったのだった。

「ウミ、」
「ミカサ、どうかしたの?」
「あの……」

 クライスには律義にウミにそんな事言わなくていい。怒られるぞと?と、止められたが、ミカサはどうしても彼の事を大切に思うウミに正直に言わずにはいられなかった。

「ごめんなさい……リヴァイ兵長が怪我をしたのは私のせい、私がいけなかった」
「ミカサ?」
「ウミが、リヴァイ兵長と結婚していたなんて知らなくて、どうしてもエレンを傷つけたリヴァイ兵長に対して、許せなかった。ごめんなさい」

 ウミは頭を抱えていた。まるでからかわれている気がして気恥しい。みんなして何なんだ。誰も一言も結婚しました、私たちは5年前からずっと付き合っていて夫婦なんですなんて言っていないのに。まさかリヴァイが自分が意識不明の間に言いふらしたのか?

「ちょっと待って、ミカサ、誰から聞いたの?」
「クライス教官から聞いたの」
「(もう……おしゃべりクライス……)違うよ! 私とリヴァイはまだ結婚なんてそんな…」
「でも、付き合っていると聞いた……どうして隠していたの? 私たちが居たから本当は帰りたかったのに、遠慮してたの?もしそうなら」
「やめなさい。いいの、私がミカサ達と一緒に居たかったんだから。もう過去の話はおしまい。それに……あなたが感情を抑えられずにヘマしてリヴァイがそれを庇ったのなら……もう二度と同じことは繰り返さないようにしなさい。本人は自分がヘマしたって言ってたけど、でも調査兵団には彼の存在は絶対、それが欠けたとなるとかなり大きな痛手だし……それに、ミカサ、あなたもだよ」
「え?」
「ミカサの活躍は普通の兵士以上だよ。きっとこれからもミカサの戦力は調査兵団には欠かせない存在になると思うし、アルミンの知識も人の想像の更に上だし、エレンは巨人の力を持っていて何としても失うわけにはいかない存在…だから、そんな三人の成長が、ずっと子供だと思っていた三人がこんなにも立派に成長してくれたこと、私はとてもうれしい。これからも傍で見守らせてね」
「ウミ」

 本当に、気が付けばあっという間に3人に身長を抜かされて、そして、いつの間にか調査兵団の中でもひときわ存在感のある兵士となっていた3人。ミカサの頭を撫でていた手は今は背伸びをしてミカサが少し頭を低くしないと触らないほど
 今後もきっと調査兵団の要となるであろう立派な姿にウミは眩しく見えた。自分が調査兵団の要だとは思っていない。だけど、出来る事を精いっぱいやろうとウミは思った。

「リヴァイ、」
「眠れねぇのか?」
「そうなの、ちょっとだけ、一緒にいてもいい?」
「奇遇だな。俺も眠れねぇんだ、」

 明後日の任務に備えて各自休むことになりその中でウミは迷わずリヴァイの部屋に向かっていた。先ほどのエレンの事、今回の作戦を成功するかどうか、考えることが山ほどありすぎてウミはただリヴァイのそばに居たかった。暗闇の中、負傷した彼の足を思うならば激闘の末にエレンを取り戻した彼を気遣うべきだとわかっている。
 しかし、一度抑え込んで無理矢理彼の未来の為に諦めようと断ち切った彼への思いを断ち切らなくてもいいと許された時、彼に愛された身体はそのぬくもりを思い出して、どうしても離れたくなくて、エレンが見せたあの眼差しを忘れたくて、迫る現実、ウォール・マリア奪還の果てにどちらかの命がもし果ててしまうと思うとお互いの温もりを求めずにはいられなかった…。
 リヴァイも同じ気持ちだった。空白の5年間はあまりにも長すぎた。作戦に備えて休まなければならないと瞳を閉じても眠れなかった。お互いに寝る間も惜しんで切なくなるほどに幸せな時間の中で束の間の安らぎを、時に強く、時に優しく温もりを分かち合っていた。
 粗暴に見える彼が本当は誰よりも優しく、人を失うことに敏感で、こんなにも蕩けるくらいに優しく抱きしめて愛してくれて甘い言葉を囁いてくれる事など、自分だけが知っていればいいのだと。

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「ねぇ、リヴァイ、みんな寝てるのかな」
「寝てんじゃねぇのか」
「そっか、」

 優しく肌を重ねあった後、身体を清めるために寝静まった古城の夜、ふわりと色素の薄い長い髪はきっちり纏められて後れ毛に隠れた白い剥き出しの肩が湯船から見える。こうして二人きりで向かい合っているとまるで二人暮らした地下街の頃に戻ったかのようだ。まだ若く、イザベルとファーランが偶に気を遣って二人きりにしてくれた時の事。誰もいない二人きりの空間。2人の寝室は、あのバスルームは、まるで時間が戻った時のように、ここにこうして存在しているようだった。星は見えなくても閉ざされた四角い部屋の片隅で、こうして見つめ合うだけで、幸せだった。

「こうして向かい合ってると思い出すよ。リヴァイとこうしてお風呂に入ってたこと。ただこうしていられるだけで幸せだったよ。地下街のアジト、まだ残ってるのかな?」
「地下街の連中はどいつもこいつも居住を探して奪い合いだ。あの綺麗な部屋に住みたいと思う人間なんてごまんといるだろう」
「ふふっ、確かにそうかもね、ここの旧調査兵団本部だってリヴァイが徹底的に掃除させたからきれいなんだもんね……」

 そう懐かしむあの頃は未だ若くて巨人の恐怖が常に外の世界で付きまとっていることも考えずに過ごしていた…。イザベルもファーランも居てくれた。地下街という治安は悪かったが、それでも今の仲間たちが巨人に食われ続けていく悪夢を思えばあの頃はとても幸せであったことを振り返る。そして、ウミは泣いていた。

「ウミ……そんなに泣くんじゃねぇ、いつか本当に、目玉が溶けちまうぞ」
「それって、ジョーク?いいの……リヴァイが泣けないなら、私が……その分泣くから、」

 そうしてはらはらと涙を流す姿は見ているこちらも胸が締め付けられるようだった…。手を伸ばせば届く距離にいるウミを引き寄せて、剥き出しの肩に触れ唇がうなじを伝う。誰もが寝静まった深夜の共同の浴室に響くお互いの声。お互いに隠すようにこの5年間持っていた指輪は今は重ね合う左手に輝いていた。

「お前が居る、お前が居りゃあ、俺はどんな巨人だろうが、戦い続ける。当分は無理そうだが」
「リヴァイ、」
「ウミ……分かってると思うが、何としてもお前の故郷を取り戻す為ならそれにはエレンの力が何としても必要だ。だが、今日みてぇな命を賭してまでエレンを守るなら…それはミカサに任せろ。あいつはエレンになると知らねぇが、あいつは俺と同じ人間だ。お前はそいつが女型の巨人になる前に捕まえる事に専念しろ」
「……ん……アニはね、私の命の恩人なの。でもね、だからと言ってソニーとビーン。マルコも、もしかしたらアニがあの時の騒動に紛れて殺して立体機動装置を奪ったんじゃないのかって。アニに…に殺された仲間の分も、昨日みんなで楽しく過ごしていたリヴァイ班を残酷な方法で殺した彼女を止める。でも、殺してしまわないように、しなきゃ、だよね……」
「くれぐれも頼むぞ。お前、おっとりしてるように見えて、容赦ねぇからな。大事な生き証人だ、万が一手元がくるって殺せば情報は永遠に消える。そしたらお前は犯罪者だ」

 女型の巨人の冷たい目が自分を見下していた。今も夢でうなされそうな悪夢の光景、グンタ、ペトラ、オルオ、エルド……――。
 その虚無の瞳には無念が色濃く浮かんでいた。
 責任ある立場のリヴァイといくら元・調査兵団分隊長といえどもうウミを知る兵士はいないし、自分よりも立場が上となった元部下たちはではもう役職のない自分は一般兵と同じ扱いである。
 その自分と兵士長であるの彼との身分違いの恋に異を唱える者が出て来るかもしれない、それに、彼を目当てに調査兵団に資金援助していた貴族の令嬢たちもきっといたはずだ。それでもそんな名誉よりも自分との婚儀を選んで5年間待ち続けてくれていた。
 そこにはもう誰も二人の世界の邪魔をする者はいなかった。二人は向かい合って座り、言葉なく見つめ合い、また抱き合った。
 この5年間、もともと筋肉質だった男の体躯は幾多もの壁外調査などを経て傷つき、さらに鍛え抜かれてたくましくなっていて。その真逆に調査兵団から離れた彼女は筋肉が脂肪に代わり兵士としての身体から女性としての体つきとなった自分との違いを感じさせた。

「エレンを隠す意味がなくなった今、もうここ(旧調査兵団本部)に用は無い。明日にはここを出てトロスト区に戻る。ここはもう離れる、荷物をまとめておけよ」
「え、」
「今回殉職した兵士共の遺体はもう埋葬されたはずだ」
「ああ……そっか……そう、だよね、」

 リヴァイの言葉にウミはまた泣いた。いつまでも泣き止まないから男はもう泣くなとウミを抱き締めていた。もう昨日の日々には戻れないのだと、もう戻りたくてもあの日々は、みんながいたリヴァイ班は事実上の解散となり、二度と戻らない。
 ここは思い出が強すぎる。だから、4人の思い出を嫌でも思い出して、余計にその喪失感で押しつぶされて眠れなくなりそうだから。エレンも同じ気持ちだったのだろう。それを見てリヴァイも、己の無力さを痛感するばかり。
 だからこそここを離れることで彼らと過ごした日々を忘れないために。この作戦を何としても成功させるために。ここを決意のもと離れる事を決めたのだ。いつまでも過去に浸り泣いても4人は帰ってこない。
 ウミはひとしきり泣いて、お互いにとって殉職した仲間たちの喪失感を埋めるようにウミはまたリヴァイを何度も求めた。まるでこの虚しさを彼に埋めてもらうように。男もまた仲間を失った自分への不甲斐なさを、喪失感を埋めるように。
 素肌を晒して抱き合う2人を影ながら見つめるエレンの目が合ったことも気付かず。

 ▼

 翌日、ウミは一人4人の墓前の前に居た。

「ペトラちゃん……見ててね、必ずあなたの分も」

 明日の作戦の成功と、無残に殺された4人への無念を必ず晴らす。どうか見ていてくれと、そして、ウミはペトラに謝罪を込めた。

「ごめんね、ペトラちゃん、リヴァイ兵長の事を誰よりも慕っていたのに……本当のことを言わなくてごめん。私もね、本当はずっと、リヴァイ兵長が、好きだったの……っ、誰よりも、愛してるの……本当はもっと早く言えばよかったね、」

 死者は死んですぐ楽園へ向かうのではなく、死亡して1週間はこの世界をさまよって自分の墓を見て、そうしてようやく自分が死んだことを知るのだと、何かで聞いた。ペトラの墓を撫で、ウミはあの可愛らしい笑顔を思い浮かべて墓石に縋りつくようにして泣いた。もうこれで涙を流すのは最後だと、どうか、もうこれ以上誰も死なないでほしいと願わずにはいられなかった。

「ウミ、」
「クライス、覗き身なんて変態だよっ」
「うるっせーな、仕方ねぇだろ」
「皆が眠るお墓で煙草なんて……不謹慎だよっ。それに、ミカサとかエルヴィンにまで余計なことべらべら喋って……」
「いいだろ、5年前から夫婦みてぇなもんだろ。別にもう後ろめてぇ関係じゃねぇんだって知らしめるくらいどうって事ねぇだろ、隠すなよ、そうやって泣いて謝るくらいなら……正直に言えばよかったのにな、その指輪の相手がどいつかなんて、ペトラちゃんの思い人の向ける眼差しの先に誰が居るか、それを分からないほど馬鹿じゃねぇよ…」

 ふと、嗅ぎ慣れた煙草のにおいがして振り向くとそこに居たのはやはりクライスだった。集団墓地の中で煙草を吸うなんて不謹慎だ。しかし、彼なりの供養でもあった。この煙に思いを込めて未だ近くにいるであろう彼女がきっとどこかで聞いていると。
 今はもう聞くことは出来ないペトラへの思い、もっと早く話していたら。悔やんだとしてももうペトラは帰ってこない。

「煙草なんて嗜好品めったに吸えねぇだろ? 煙は天に上るからな、それで少しでも届けばいいなと思ってんだよ」
「クライス……」
「ペトラちゃんは恨んでなんかねぇよ、誰よりも人の幸せを願えるいい子だった。お前が居ない間リヴァイは完全に孤立してたぜ……けど、実力はあったからな。そんで訓練兵団を経験していないあいつの立場を確かなものにしようと、お前の母ちゃんが抜けた後誰も代わりが居ねぇままだった兵士長にしようと働きかけて、異例の出世の中でペトラちゃんがずっと副官してたんだよ。ペトラちゃんはずっとリヴァイの事を尊敬していた。けど、リヴァイを誰よりも見ていたから知ってたんだな、そんでお前が現れた、もう全部わかっててお前の口からいつか直接話してくれることを、待ってたんだ」
「ペトラちゃん……っ!」
「だからこそ、もう隠し事すんじゃねぇぞ、そうやって泣くくらいなら、もう隠すな。恥ずかしいことなんかしてねぇんだから」
「うん、うん……っ」

 クライスの言葉に支えられ、ウミはリヴァイ以外の前で涙は流さないと決めたのに、どこかでペトラが見ているのなら、今すぐ会いたくて、たまらなくて…。しかし、もう二度と彼女に会うことは出来ない、あの優しい笑顔にはもう会えないのだ。

「エルド、エルド……っ」

 その近くではエルドが話していた恋人だろうか、長い髪の美しい女性がエルドの墓に縋りついて泣いているのを見かけた。

「止しとけ、今謝られたってあの彼女も困るだろ」

 結果は誰にも分らないとリヴァイは言う。しかし、その結果がもたらすものがこんなにも悲しい結果だなんてあまりにも浮かばれない。四人の遺体を運んだクライスの話では四人とも目を開いて死んだそうだ。つまり、自分が死んだかどうかもわからないまま死んだとの事だった。それを聞いてウミはより一層アニに対する憤りを覚えるのだった。しかし、憎しみを通り越して何故もし本当に正体がアニならばそこまで皆を殺してまでエレンを連れ去ろうとしたのだろうか。壁の外の人類は滅んでいる。ならば彼女はこの壁の外のどこにエレンを。疑問は本人に聞くしかない。明日何としても捕らえる。

「じゃ、俺もう行かねぇと」
「えっ!?」
「もう作戦は始まってんだぞ? 俺はお前とはしばらく別行動だ。4人の分の弔い合戦、もし女型の巨人がアニでも……お前はもう覚悟を決めたんだろ? 仲間を殺した犯罪者だ、そんでもしかしたら「鎧の巨人」「超大型巨人」とつながってる可能性があるんだろ?」
「うん、」
「じゃあ、大丈夫だな、くれぐれもアニによろしくな」
「うん……クライスも104期のみんなによろしく……きゃっ!!!」

 ふと、そのウミの後ろ、頭上からスンスンと鼻を鳴らす音に見上げれば、背後に居たのはクライスのタバコの香りとウミの香りの中に漂うミケお気に入りのリヴァイの香りを嗅ぎつけたミケ率いるミケ班が駆け付けたのだった。

「ミケさん、ナナバさん」
「ごめんね。ウミ、リヴァイの匂いを嗅ぎつけて急にミケが走り出してしまってね」
「いいんです。ミケ班のみなさん、クライスをよろしくお願いします」
「ちゃんと言うこと聞くようにしっかり首輪をしておかないとだね、」

 ナナバが冗談交じりにそうクライスを小突くとクライスは不機嫌そうに眉を寄せる。俺は犬じゃないとでも言わんばかりの表情だが、残念ながら彼は調査兵団の猛獣で扱いに困る存在なのは否めないのだ。しかも資金の提供をしている貴族の出なので下手に彼を粗末に扱えない。

「ウミ、リヴァイと結婚するとエルヴィンから聞いた。おめでとう」
「(もう、エルヴィンまで喋ったのね!)あ、ありがとうございます、」
「女型の巨人捕獲作戦に参加しない104期生は身元が判明して疑いが晴れるまでは我々が監視する」
「104期生とは訓練兵時代からの付き合いがあるから、辛いと思うけど」
「いいえ、私は大丈夫です。それよりも辛いのは同期の子たちなんですから……(アニの協力者……本当にあの中に)アニは、たくさんの仲間を殺しました。知っている子だからこそ、必ずや成功させます。ご武運を」
「ありがとう。でも、訓練兵時代から104期生を監督していたクライスが居ればなんの問題もない。クライスはちゃんと返すからしばらく貸してもらうぞ」
「かえってこんなに大きい荷物を…ご迷惑をお掛けしてごめんなさい、よろしくお願いしますね。私の馬を彼に付けますのできっと役に立ちます」
「リヴァイ兵長との結婚式には一杯飲ませろよ?ウミ」
「は、はいっ、ゲルガーさん」

 どこまで話が広がっているのかはわからないが、もう否定して遠慮することは天国の彼女にそれこそ怒られてしまうからやめにしよう。
 もう既に作戦は始動している。武装解除して私服に着替えていたエレンミカサアルミンジャンを除く104期生は既にウォール・ローゼトロスト区から南に離れた宿舎で待機するらしい。
 女型の巨人と共謀している可能性が一番高い104期生にすぐに疑惑の目は向けられた。ミケもリヴァイが来るまでは調査兵団のベテランで在り実力者だ、彼の率いる班ならきっと大丈夫だ。それを信じてウミは去っていくクライス達の背中を見送る。

「じゃあまたな、ウミ」
「うん、クライス」
「結婚おめでとう。ああ、そうだ」
「なぁに?」
「お前のガキの話、生理始まった日から数えて14日間目くらいに……ヤるんだよ、ヤッちまえ、仕込め」
「ばっ! 馬鹿! 何言ってるの!」
「あいつって性欲あんのか? 潔癖症の癖にお前ちゃんと満足させてもらってんのか?」
「っ〜〜うるさい!!!」
「もし不満なら俺が、代わりに抱いてやるからよ」
「いいから!行きなさいっ! 馬鹿クライス!!」
「アッハッハッハッハッ、毎晩頑張れって言っとけ、じゃあな!」

 そうしてクライスはウミにこれからの明るい未来の話を伝えてそっと笑って緋色の髪を揺らしてゲラゲラ下品な笑い声をたてながら姿を消した。お互いの作戦の成功を願い、ミケ率いるミケ班は残りの104期生を監視すべく既に隔離された104期生の元へと旅立って行ったのだった。最後に他の104期のみんなにも会いたかった。初めての壁外調査、きっと慣れない任務で疲れている中で今度はまた別の場所で武装解除時手私服で待機だなんて。
 みんなとてもいい子達で、その中にアニ・レオンハートの共謀者が104期生の中に居るとは信じたくなかった。

 ▼

「リヴァイ、」
「何だ」
「ん、いよいよ明日なんだなと思って、」

 明日に備えて早く休まなければならないが、その日の本部に帰ってきて初めての夜もウミはリヴァイの執務室兼自室がある部屋に居た。さすが兵士長、与えられている部屋はハンジよりも立派だ。そんな彼と違い自分は一般兵なのに彼とこうして彼の同じ部屋に居る。明日いよいよ作戦が始まると思うと緊張と第57回壁外調査でのリヴァイ班壊滅という絶望に叩きつけられたあの日の悪夢、殺された仲間たちの無念、気持ちが高ぶってどうしても眠れないのだ。ウミはその悪夢を振り払うようにリヴァイの腕の中で微睡ながら幾度も求めたのにそれでも彼を求める自分に抗えずに再び2人は温もりを分かち合っていた。

「ウミ、明日起きれなくなっても知らねぇからな」

 深く口づけを交わしながらリヴァイの武骨な手はウミの肌を何度も滑るように触れて。ウミに出会うまでそれは単なる生理現象の一部だった。他人に触れられるのもまして他人と肌を重ねるなんておぞましいとさえ思っていた。女に自分の欲を機械的に散らして、そこに愛など存在しないし、地下街の人間は何をするかわからないからこそ決して隙を見せてはいけない。自分の欲が満たせればすぐに自分はアジトに戻り後は二度と同じ女は抱かない。こうして自分が他人とベッドを共にすることなど、万が一でもありえないと思っていた。
 しかし、目の前で愛おしそうに自分に触れる彼女だけは違う、こんな風にただ自分の欲を満たすのではなく、柔らかく滑らかな肌に触れていたい。巨人の汚い返り血で汚れた手を癒して満たしてほしい。ウミとの時間は何にも代えがたく、男にはかけがえのない時間なのだ。

「必ず戻ってこい、ウミ。俺の傍からもう何処にも離れんじゃねぇよ……」

 明日に備えて早く休まなければならないと分かっているが、眠れず何度も焦がれたようにリヴァイを求め、リヴァイもウミが眠りに落ちるまでそのぬくもりをいつまでもいつまでも分かち合い続けたのだった。
 愛を知らなかった男、愛することを知らなかった少女、2人は本当の意味で愛の意味を知る。

 ▼

 ――ウォール・シーナ東城壁都市ストヘス区・憲兵団支部。

――「いいぞ、アニ! さすがは俺の娘だ!」

 何度も何度も布が巻かれたお手製のサンドバッグには訓練の痕跡が生々しく残り、ボロボロになり微かに赤い血が滲んでいた。向う脛に血が出ようがあざが出来ようが、戦士として戦うために、来る日も来る日も繰り返されていた訓練の日々。休めば休むなと怒られた。
 眠っているアニがうっすらと目を開けると2段ベッドの下段の自分ではなく同室のルームメイトの私物が散乱する荒れた部屋には新しい朝を知らせる陽光が射しこんで、いつもまとめているお団子の髪を下ろしたその横顔は女型の巨人に完全に一致していた。

To be continue…

2019.08.30
2021.01.28加筆修正
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