miss you D2前編 | ナノ
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フィリアの私室にジューダスが大切そうにぐったりとしたままの海を運び一息着いた。海の傷はリアラのおかげで綺麗に治りはしたがまだ貧血状態なのに変わりはない。青白い海の顔を考慮して今晩
は宿屋に泊まることにした。海の予約とカイル達の予約、そして……どうやら、もう一人分の予約を追加しなければならないようだ。

「うん、もう大丈夫。
呼吸も落ち着いているし、今晩ゆっくり休めばまた元気になります」
「よかったぁ〜
でも、すごいね!君、あれだけの大怪我をあっと言う間に直しちゃうなんてさ!」

フィリアの私室―…
少女の力のおかげで海もフィリアも、バルバトスとの戦いで傷ついたカイルとロニもすっかり落ち着いていた。
ロニも回復晶術は使えるが、やはりその力は規模が違う。
その不思議な力、そして初めて見た神秘性を目の当たりにしたカイルの興奮は未だに冷めない。しかし、少女は謙遜するように大きな瞳の長い睫毛を伏せた。

「…すごくなんか…ないわ。
フィリアさんを巻き込んでしまった上に、海さんのお陰でなんとか冷静に晶術を唱えられただけ、助けることも出来なかった」
「で、でも、君が居たから怪我を治せることが出来たんだよ!そんなに落ち込むことないって!」

しかし、リアラはすっかり落ち込んでしまっている。
真っ白な肌に映えるピンクのワンピース。伏せたまつげは長く、華奢な身体は折れてしまいそうに細い。
その姿は海も思わず見とれてしまうほどの美少女だった。フランス人形がいるならこの子のようだ。

「どうしよう…ねぇ、ジュー…」

思わず彼のマントを引くと、ジューダスは微笑を浮かべ、カイルに視線を向けろと海に目配せした。

「あのさ、オレの母さんが言ってたんだけどさ、"反省はするべきだけど、後悔はしなくていい"ってさ!
反省は未来に繋がるけど後悔は過去に縛られているだけなんだってさ」

少女に向けられた言葉、しかし、同じく過去に縛られていたジューダスにはどう響いたのだろう。
かつての姉の言葉はまるで今のジューダスの心境に答えを指し示すような言葉だった。

「え…」
「だから、その…え〜っと
君さ、ずっと後悔しているみたいだから、それって良くないよって」

しばしの沈黙。
それを破ったのは…

「その人の言う通りですよ」

すると、ベッドに倒れていたフィリアが起きあがった。

「フィリアさん…」
「…大司祭様が神の眼を奪い、世界を支配する野望に荷担した、しかも、私も知らずに手伝っていた。
その事を知った私はそれまでの自分を後悔し、ただ、泣いていました。
そんな私にスタンさんは"泣いてるだけじゃ駄目だ"と言って手を差し伸べてくれたんです。後悔は何も生み出さない。その事をあの人が教えてくれたから、今の私があるんです」

フィリアの言葉に皆も真剣に耳を傾ける。
ジューダスはカイルを通して
かつて、自分を親友だと言っていたスタンを思い出しながら…。

「残念ながら…英雄に会うための術は私にも分かりません。
ですが、あなたに必要なものなら分かります」
「必要なもの…?
それは、なんですか?」

そう訪ねた少女にフィリアはにこりと笑った。

「仲間です。
私にとってのスタンさんやルーティさんのような人たちです」
「仲間…」
「父さんや母さんのような…
よし!オレがなるよ!」

カイルが青い瞳を輝かせて少女に手を差し出した。

「え!?」
「オレが君の仲間になる!
ずっと、ずーっと一緒にいる!決めた!
一緒にいれば、オレが英雄だって事、君にもきっと分かるしね!」
「フィ、フィリアさん…わたし」
「答えは…もう出ているのでしょう?
ならば、後は何をすべきか、分かっているはずですよ」

迷う少女にフィリアは道を示す。この出会いが悲しい決断を強いられるとしても、カイルの手を取り、信じる道を進めと。

「わたしと…一緒に来てくれますか?」

答えはひとつ。

「もちろん!聞くまでもないことさ!」

カイルの笑顔に少女も笑ってその手を握った。

「そうだ!君のことはなんて呼べばいい?
いつまでも君じゃ「リアラ」

にっこりと花のような笑顔を浮かべて少女−リアラは最初の無表情で命の温かみさえ感じないような笑顔でカイルに笑ったのだった。

「リアラか…改めてよろしく!リアラ!」
「うん、よろしくね!カイル!」

ぎこちないながらも初めての心のやりとりを交わしたふたり、小さな小さなまだ始まったばかりの出会い。
やがてこの出会いが小さな幸せと英雄の意味その意義を運んでくるなんて。
そんな初々しい2人に海も、その海の様子を眺めていたジューダスも目を見合わせて笑った。
最初の出会いもこんな感じだった、と。

「お〜い
俺は仲間外れか?」
「あ、ごめんロニ〜そう言うつもりじゃ〜…」
「んじゃ〜、どういうつもりよ?
きっちり話して貰おうじゃねぇか?俺たちは仲・間なんだからよう」

独りだけ仲間外れ状態のまま、相変わらずおどけた口調のロニにリアラやカイルは笑った。


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